盲学校からの発信「見えない子が本当に理解するための『核となる体験』」
盲学校からの発信ということで、今回は盲学校で大事にしている「核となる体験」について紹介します。
言葉だけ知ってるバーバリズム
盲学校の子どもたちの多くは耳から情報を取り入れて、その取り入れた言葉を本当によく覚えています。
「それって○○でしょ」「あー○○知ってるよ」と子どもたちが反応するのをよく聞きます。
けれど、突っ込んで「○○ってどうゆうこと?」聞いてみると音の響きや文字、言葉だけで、実際にはどんなものなのか知らなかったり想像だけで全然違うものを考えていることが結構あるんです。
こんなふうに実体験なしに言葉や想像だけで理解してしまっていることを、専門用語でバーバリズム(唯言語主義)と言います。
(画像はgracy頭がいい子に育てる遊び8選!より)
なかなか体験できない現実
見えない子たち、それ以外の障がいのある子たちもそうかもしれませんが、保護者の方が大変だから、忙しいからとなかなか経験させてもらえない現実があります(もちろん保護者の方ぢけを責めることはできませんが)。
見てすぐに模倣できないので、一から教えるのは時間がかかります。見えない子が新しく何かを身につけるためには、最初のコツをつかむまでにじっくり時間をかけたり、どこを触って確認するかなどのポイントやわかりやすくするために目印をつけるなどの工夫を伝えたりが必要になるのです。
でも時間がかかるのです…家事など他にすることもあって忙しい保護者の方は、つい手伝って全部やってしまったり、移動も自動車でドアツードアになってしまいがちです。
そうすると自分でやる、いろんなことを体験する機会はなかなか増えていきません。
理解するために必要な経験
見えない子たちが理解するためには、じっくり手で隅々まで触ったり、匂いを嗅いだり、味や食感を楽しんだり、全身を動かしたりと言った体験が不可欠です。
だって目の見えない子、今までその名前も聞いたことのない、触ったこともない子に「弓矢」を教えてくださいと言われて皆さんはどうしますか?
言葉で説明しますか?
どうやって?
それで本当に理解できますか?
…
ちなみに僕は竹ひごとたこ糸で即席の弓矢を作って触ってもらいました。実物に勝るもの無しです笑
(画像はパブリックドメインQより)
なので体験することが大事なんです。
でも全てを経験はできない。
時間などの制約もあります。
だから一つのことをじっくり丁寧に確認しながら体験し、そのカテゴリーを理解する上での基準とするのです。そのような体験を「核となる体験」と言います。
ではその具体例を紹介していきます。
核となる体験の例(トマトの場合)
例えば野菜について学ぶときに、トマトを最初から最後まで体験します。
(画像はPlantiaトマトが枯れる、上手く育たない…原因5つと対策方法より)
最初からというのは、トマトの種を植えて、毎日水をやるところからです(水をやらなくては枯れてしまいますし、やりすぎても根腐れになってしまいます。そんなバージョンも用意していてもいいかもしれません)。
やがて芽が出てきて、芽が伸び茎になり、葉どんどん出てきて成長していきます。
大事なトマトの養分を奪う、憎っくき雑草も抜かなくてはいけません(農家は大変、肥料や除草剤についても学べます)。
そうして花が咲き、受粉し、花が落ちてトマトの実がなるのです(根や葉や茎や花の繋がりも確認しましょう)。
(画像はNHKテキストViewより)
そして青く硬かった実が赤く熟すと柔らかくなってきます(実ができて終わりではなく、枯れるところまで確認しましょう)。
その実を収穫して、料理して食べます(生で食べるのもいいですが、ケチャップなんか作るとトマトの加工品というのがよくわかります)。
丹精込めて育てたトマトの味わいは一入です(いつも自分が食べている野菜も誰かが育ててくれているという当たり前のことに気付かせられます)。
そうやってトマトの成長の過程を知ることで、植物の成長過程や普段食べている野菜がどうやって収穫されて店に並ぶのかなどが体験を通してわかってきます。
こうやってトマトについて体験すればいろいろなことを体験できます。そしてその体験は他の野菜についてなどいろいろなことに応用できるのです。
他の野菜の成長過程や、栽培と流通の過程、トマトの実だけでなく根や茎や葉や根をじっくり触って確認することで、その野菜の実・根・茎・葉・花のどこを食べているのかが実体験をもとにイメージできるようになります。
例えば、さつま芋や大根、人参は根や地下の茎を、アスパラガスは茎を、レタスやキャベツ、白菜は葉を、ブロッコリーやカリフラワーは花のつぼみを、トマトやなすびやかぼちゃは実を食べているという理解に繋がります。
(画像はやさいのひみつより)
まだまだあるよ「核となる体験」
他にも核となる体験の例はあります。
1種類の植物の葉をじっくり触って確認し、ベースとすることで、他の葉を触ったときにその特徴をすぐに確認できるようになります。
(画像はIN NATURAL STYLEより)
丸ごとの魚を触って目や口やエラやヒレの位置をじっくり確認することで、魚の基本的な構造がわかり、そうすると例えばカレイのような魚がどうなっているのかも触ってわかるようになります。
(画像はニッスイ活き活きおさかなスクールより)
他には骨の形をじっくり触って体の仕組みを理解するようなものもあります。
そちらについては別の記事「骨は触っといた方がおトクですよ」や書籍『手で見るいのち(柳楽 未来)』を参照してみてください。
ゆっくりじっくり時間をかけて
こういうじっくり触ってそのカテゴリーのものの特徴を理解するようなものが、核となる体験です。
理解のためには文字や言葉だけでなく、イメージやこういった体験とのリンクが欠かせないのです。これは視覚障がいの子だけではありません。数の理解なんかも言葉と文字と実物のイメージがリンクしている必要があります。
(画像は数学で育ちあう会より)
触って丁寧に確認したり、体験することには時間がかかります。それを見守るには忍耐がいますし、ついて正解を教えたくなります。
でも最初の核となる体験にゆっくりじっくり時間をかけて、子どもに理解が定着すると、そこからの応用は驚くほどスピードが速くなります。本当です。
見えない子たちは、初めてのことや場所は苦手です。
目で見て一瞬で分からないので、手や全身や耳などで理解するためには時間がかかります。
でもその分、一度理解すると毎回目で見て確認している僕よりも素早く対応できるようになります。現に盲学校を覗いてみてください。廊下を走って注意されている全盲の子がいるくらいですから。
まとめ
核となる体験についての紹介どうだったでしょうか。
僕も経験があるのですが、つい時間に追われたり、なかなか正解に辿りつかないのを待てずにヒントや答えを教えてしまったり…でも、それって本当に子どもたちのためになっているのでしょうか。
見えない子たちだけではなく、全ての子にとっても同じことだと思いますが、ゆっくりじっくり体験してその子が理解するのを見守ることが、遠回りなようで理解への近道になるのだと思います。
我慢して見守るのは大変ですが笑
という訳で、僕は今日も我慢しながら子どもたちの奮闘を見守ります。
表紙の画像はPlantiaトマトが枯れる、上手く育たない…原因5つと対策方法より引用しました。