黒井眼鏡店

長年発酵させた想いと出来事を綴ります。

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最近の記事

エピソード13:芝生の上でのんびりと

「ほんとに幸せな時間だねー♪」 新緑が勢い良く芽吹き始める少し前の、朗らかな陽気に包まれた4月の下旬。 キミは公園の芝生の上に敷いたシートの上で転がりながら嬉しそうに笑っている。 ゆっくりと会うのは3ヶ月ぶりくらい? ひと月からふた月くらい会えなくなる期間が年に何度かあるのと、会えてもちょこっとの時も多いので、キミとこうしてのんびり過ごせるデートは意外と少ない。 この地域ではかなりメジャーな緑地公園で、春先には梅やら桜やらがやたらめったらと咲き誇るのだけど、その頃を過ぎ

    • エピソード12:中3の春の始業式

      今思えばクラス替えで誰と同じクラスになるかなんて大したことじゃないと思うのだけど、あの頃はそれこそがその1年の成否を決める一大事だと信じ切っていた気がする。 ひと学年6クラスのクラス替えなので、誰かと同じクラスになる確率は1/6。当たりを引くにはとても心許ない数字だけど、その難関を乗り越えて自分は彼女と同じクラスになった。 ‥ 中2の冬の終業式のあとに何かやりとりをすることもないまま過ごした冬休み。彼女とは年賀状のやりとりをしたくらい。 年賀はがきが余っていたので、年明

      • エピソード11:トラブル続きのその後に

        「急に電話してごめんね。ちょっとトラブルが起きちゃって‥」 寒さの緩みと引き換えに、花粉の襲来に怯えながら日々を過ごす3月の中旬。 朝の通勤電車に揺られていたら、珍しくキミからの着信が。電車の中で出られなかったので、LINEで様子を訊いてみた。 どうやら家の電気系統にトラブルが起きたみたいで、急いで電気屋さんを手配しているけど、何時に対応してもらえるのかがまだ分からなくて、今日の予定はキャンセルかも‥とのことだった。 ちょこっとの時間としか会えなかったバレンタインのお返

        • エピソード10:中2の冬の終業式

          夏の野外学習を経て、少しずつ彼女と仲良くなっていった。痩せ気味で背が高く、そのスラッと細く高く伸びたスタイルとは対照的に、幼げな顔。そのアンバランスさに自分は惹かれていた。 しかし、何せ思春期真っ只中の中2の頃なので、そんなに積極的に話しかけられる訳でもなければ、自分の気持ちをうまく理性でコントロール出来る訳でもない。 その結果自分が取ったアプローチは、消しゴムを細かく千切って彼女にぶつけるというなんとも幼稚な手法だった。 今考えてみても、いつ考えてみてもどうかと思う行

        エピソード13:芝生の上でのんびりと

          エピソード9:ちょこっとの時間に

          「明日の夕方に、ちょこっと会えたりする?」 冬の寒さがピークを迎える2月の中頃。キミからの連絡がないままにこの時期を迎えたボクは、期待してはダメなのかなとだいぶ諦めていた。 でも約束してくれたしなぁ‥。 悩んだ末に思い切って連絡してみたら、予想外にキミからの明日のお誘いだった。 全然大丈夫。 ちょこっと会える。 「今週ずっと忙しくて、でもせっかくなら当日に渡したいなぁと思ってて。ちなみに今まさに作ってるところなんだけど、もしかして見てた?」 見れるもんなら見たいし

          エピソード9:ちょこっとの時間に

          エピソード8:キミの好きなものをパクパクと

          「やっぱり美味しい♪」 キミのお気に入りのベトナム料理のお店。こじんまりとした店内にオリエンタルな雰囲気の雑貨やポスター等がところ狭しと飾られていて、でもそれが不思議と雑多ではなく感じられるお店。 夏の終わり頃にここで一緒にご飯を食べてからフラッペを飲んで、キミのことを書いておきたいと思った。 あれから半年くらいかな? すっかりと寒くなった年明けの1月。 パクチーがふんだんに使われているベトナム料理は昔からのキミの好みで、初めてパクチーさんをボクに紹介したのも遠い昔のキ

          エピソード8:キミの好きなものをパクパクと

          エピソード7:中2の夏の野外学習

          良くない第一印象から1年経って、彼女と同じクラスになった。 自分にとって彼女はまだ交流のない人なので、その時点で思うところは何もないのだけど、向こうは「げっ!」と思ったらしい。 だからかな、一学期の頃はあまり彼女の印象がないのは。 きっと意識的に避けられていたのだろう。 そんな関係に少し変化があったのは、梅雨が明けてざわざわと夏の気配を感じ始めた頃に迎えた野外学習の時だった。 昨今のように男女仲良くというか、性差を意識せずに学校生活を送るような時代では無かったので、班決

          エピソード7:中2の夏の野外学習

          エピソード6:バックナンバーを聴きながら

          「前におすすめしてくれた時に好きになって、ずっと聴いてるよー♪」 キミがスマホを繋げたカーオーディオから流れてきたのはバックナンバー。ボクは最近聴いてなくて、懐かしいなぁと声を漏らしたら、キミから思いがけない返答が返ってきた。 ボクはそのことをずっと忘れていて。 ちょっとビックリしてしまった。 キミにおすすめしたのはいつのことだろう? 自分がハマっていたのはいつ頃だろう? おおよその時期を思い出すことすら難しいくらい前の話なので、それだけ昔にキミに与えた影響が今も残っ

          エピソード6:バックナンバーを聴きながら

          エピソード5:中1の春の第一印象

          彼女と出会ったのは中学1年生の頃。 全員が何かの委員会に属さないといけない中で、何となく選んだ厚生委員会がきっかけだった。 今思えば厚生委員会って何だろう?と思うくらいに仕事内容が曖昧で、昼食時に学校から配布される牛乳の瓶を片付ける際に、各クラスが保管場所に返しにくる瓶をトレーごと並べて整頓するというのが主な仕事で、この当番を回すためだけにあったような委員会だった。 このナゾな委員会の初回の集まりで、天気は生憎の雨模様。自分はどうやら手持ち無沙汰に傘をいじっていたらしく

          エピソード5:中1の春の第一印象

          エピソード4:キミが選んでくれるなら

          「何にしよっかなー?」 フンフンと軽く鼻歌のようなひとりごとのような何かを小声で口遊みながら、キミは店内を物色している。 プレゼントをあげることしか頭に無かったボクは、キミから何か貰えるとなると途端にソワソワしてしまってフワフワしてしまって、何も浮かんでこない。目に入ったものを手に取ってはピンとこずを繰り返しながらウロウロしている。 「お仕事用のものだったら普段使い出来るよね?でもどういうものをお仕事で使うんだろ‥」 それだ! 考える手がかりをもらったボクは、仕事で

          エピソード4:キミが選んでくれるなら

          エピソード3:ポテトの行き先は

          「この前はゴメンね‥ドタキャンになっちゃって。」 12月の中旬、世間がフワフワと落ち着かない空気になる頃。キミとモスバーガーでチキンを頬張りながらおしゃべり。 キミの都合は充分に分かってるし、仕方ないことはお互いにいっぱいあるのでほんとに気にしてない。それにこうやって次に会えた時にその分余計に嬉しくなるし。 「ん。ありがと。」 少しへの字に曲がっていた口元が緩んで、反対側に曲がった。けれどすぐにまた元のへの字側に戻してこう続けた。 「それはそうとさ!せっかく一緒のテ

          エピソード3:ポテトの行き先は

          エピソード2:待ち合わせは指定席で

          「それ楽しそう!ワクワクしちゃう♪」 映画を観たいと言い出したのはボクの方だった。 昔流行ったアニメ映画のその後を実写で描いたもので、そのアニメをボクは中学生の時に初めて観た。何故か授業の一環として、学年全員で体育館に集まって。 甘酸っぱい青春の香りがこれでもかと鼻をくすぐりまくる内容で、エンディングではそこかしこでヒューヒューと声が上がり、大いに盛り上がったのを覚えている。 当時は授業が潰れて尚且つ映画を観られるなんてラッキーと思った程度なのだけど、今のボクの年齢が

          エピソード2:待ち合わせは指定席で

          エピソード1:フラッペがこぼれる前に 

          「コレ飲んでみたいな」 コンビニでは滅多に買い物をしないというキミが嬉々として選んだのは、冷凍ストッカーの中に並んでいるチョコレートのフラッペだった。 ほほう、フラッペときたか。 キミとは対照的にほぼ毎日どこかしらのコンビニで何かしらを買っているコンビニ中毒者のボクだけど、フラッペを買ったことはまだない。 まして、そのキンキンに冷えて固まっているフラッペにどのような手を加えたら、吊り下げられたポップの写真みたいなツヤっとしたテカッとした良い感じのスイーツになるのか想像

          エピソード1:フラッペがこぼれる前に