エピソード2:待ち合わせは指定席で


「それ楽しそう!ワクワクしちゃう♪」

映画を観たいと言い出したのはボクの方だった。

昔流行ったアニメ映画のその後を実写で描いたもので、そのアニメをボクは中学生の時に初めて観た。何故か授業の一環として、学年全員で体育館に集まって。

甘酸っぱい青春の香りがこれでもかと鼻をくすぐりまくる内容で、エンディングではそこかしこでヒューヒューと声が上がり、大いに盛り上がったのを覚えている。

当時は授業が潰れて尚且つ映画を観られるなんてラッキーと思った程度なのだけど、今のボクの年齢が当時の先生方の年代に近いので、何故その映画を敢えて授業時間を使ってまで生徒に観せたのかは、今なら何となく分かる気がする。

青春のありがたみは過ぎ去ってから初めて分かるもので、でもそのさなかにいる若人にはそれはとても分かりにくくて、でもでも何とかしてそれが少しでも伝わればと思ってしまうのが大人なのかしらね。



自分にとってはそんな思い出深いアニメ、多くの人がどこかで観たことがあろう人気作のその後ということでキミも大いに乗り気なのだけど、時間的な都合の兼ね合いで現地集合&現地解散の流れに。

映画館で現地集合するなら、ロビーじゃなくて座席で待ち合わせなんて楽しくない?どうやって待ち合わせるかはプランを練るよ。

この提案に対しての返事が冒頭のキミの言葉だった。

果たしてどのような段取りを組もうか‥。
ここは腕の魅せどころだ。

後日ボクは早速映画館へ下見に行き、プランを練り練りすることにした。なんせ当日のキミの時間は限られている。

まずは駐車場と映画館の入口の位置どりをチェック。入口に直通の駐車階と位置関係を確認し、そのまま入口から入ってまず探したのはコインロッカー。
このコインロッカーを使えば、ロビーで会うことなくチケットを渡すという流れはひとまずOK。

でもそれだけじゃあイベント感が足りないな。
ロッカーの中にミッションを入れて、それをいくつかクリアしたらチケットが手に入る流れにしようかな。

‥‥

ということでアレコレ思案しての当日。

ボクは全ての段取りを終えて、視界の端にボクの車を視認出来る物陰からキミに連絡を送った。

ボクの車の鍵を開けた状態で、車の位置が分かる写真とミッション内容を伝達。

【車のサイドポケットにロッカーの鍵と車の鍵が入っているので、受け取ったら車の鍵を掛けて、後は映画館入り口近くのロッカーの中に入っているミッションに従うように】

しばらく様子を見ていると、少しわんぱくな外装のキミの車が、周りの車を千切っては投げ飛ばしそうな勢いで到着。
颯爽と降りたキミがスマホを確認しながらボクの車に近づいて行くのを確認してから、ボクはその場を離れた。

ピコンとキミからLINEの通知。

「封筒の中にあるミッションと1000円を確認しました!ご要望のポッキーと私の好きなお菓子と飲み物を買ってから次のロッカーに向かいます!」

「ちなみにこのロッカー、常温専用なんだって!なんか面白いね♪」

「飲み物はどっちが良い?マスカットティーかカフェオレのどちらか♪」

「気合を入れてお菓子を見ると、美味しそうなものがいっぱいあるね!見てるだけで楽しい♪」

「次のロッカーに到着!こっちは冷蔵OKだぁ!冷凍用もあるのかなぁ??」

「羽織るものの確認OK!中は寒いかもしれないからちゃんと上着を持ってきたよ!」

「謎のミッション〈3分間座って行き交う人を見る〉も達成!なんかスパイみたい♪」

「最後のミッションのお手洗いも完了して、無事にチケットも受け取りました隊長!」

用意した全てのミッションを思ったより早く終えてしまったキミ。予想外に楽しんでくれたようなのでとても嬉しいのだけど、映画の入場開始時間までまだ30分ほどある。この映画館はショッピングセンターの中にあって、施設内のロッカー各所に満遍なくミッションを配置したのだけど、キミはかなりの手練れエージェントだった模様。はてさてどうしたものか。

‥ピコン。

「このままお互い一人で待つのももったいないし、もう合流しちゃう?」

指定席での待ち合わせがこのイベントの1番肝心なところだったけど、そんなことよりも何よりも早くキミに会いたいから即OKしてしまった。くそぉ。

映画館のロビーの近く、最初のコインロッカー脇のソファで待機していたボクのところにやってきたキミの開口一番。

「楽しかったー♪子どもの頃に戻ったみたいだった!」

それは良かった。
心の中でガッツポーズ。

やっぱりキミの満面の笑顔が1番嬉しくて。
映画よりもこの時間が楽しくて。
映画を観てる間は顔も見れないしお話も出来ないので、楽しいのは映画よりもよっぽどこの時間の方だった。

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