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2022年5月9日/極限状態での品性。

「サラエボのチェリスト」を
図書館で借りて読んだ。
読み始めたら止まらなくなり
3時間で読み切ってしまった。

悪い癖で
ページをめくる手が急く。
もう一度、ゆっくりと読み返したい。


この本は、
現代の戦争史上
最も長い期間
都市包囲戦だった「サラエボ包囲」を
史実として描いている。

著者は、フィクションとしているが
ある程度は事実が描かれたものだ。

未だ続いている
ウクライナ侵攻。

今、まさに各戦場で生きる人々と
登場人物の日々の様子を
重ね合わせてしまう。

人間は
何度同じ過ちを繰り返せば
済むのだろうか。

この「サラエボ包囲」戦争は
約1万人が殺害されたもので
1992年4月から
1996年2月末まで続いた。
長期にわたって
恐怖と怒り、悲しみに
心を痛めつけられた人々の
苦しみは想像を絶する。

戦争の内容は歴史書に譲るとして
戦争の惨さ、複雑さ
人間というものの愚かさを
戦時を生きる3人の視線で
描かれている。

3人は、サラエボの各地で
敵のスナイパーに打たれる
可能性に怯える中
すぐ目の前で人が撃たれ死ぬという
極限の緊張の中において
取り乱しそうになりながらも
最後の最後に、踏みとどまり
人間として
「あるべき姿」を取り戻す。

他者への愛。
人間同士の支え合い。
倫理観。

果たしてわたしは
彼らのように
極限状態の中で
私利を優先せず
他者に心を寄せることが
できるだろうか。

今、日本で
平時の中においても
わたしは他者への貢献よりも
私利を優先している。
余力があれば
他者に手を差し伸べる程度だ。

まったく、情けない。

50年も生きてきて
このザマだ。
人間としての品性なんて
あったもんじゃない。

ロシアによるウクライナ侵攻は
未だ続いている。
戦争は建物を破壊するだけではない。
人の心も破壊する。

文中に、3人のうちの1人が
力強い一歩を踏み出す時
「死を恐れるあまりに
生きる気力を失っていた」
と述べている。


これこそまさに戦中の
ココロの破壊。

戦争は、
死ぬ必要がない人に
死をもたらす。

たとえ、終戦し
生命体としては
生き延びたとしても
ココロは瀕死の状態で
傷は癒えない。

この本は、
ひとりのチェリストが
スナイパー撃たれることも恐れず
22日間街頭で
「アルビノーニのアダージョ」を
演奏し続ける。

戦中のチェロの音色は
敵のスナイパーにも
人間らしさを取り戻させたことだろう。

このアダージョは
魂を沈める力強さがある。

クロアチア出身のチェリスト
HAUSERの演奏が
私のココロを捉えた。
https://youtu.be/kn1gcjuhlhg

わたしは書物から
多くのことを日々学んでいる。

世の中には
人間が生きる上で
知るべきことはたくさんあるが
それは、経験しなければ
知ることもできないことが多い

わたしが
直接経験できることは
小指の先ほどもない。

しかし、
書物を通し他者の経験から
こうして知ることができる。

戦争の罪深さ
そして、人間の強さを。

この世に
書物というものが
あることに、感謝しかない。

作中では
図書館が破壊されている。
そして、
戦中に生きる民間人は
命をかけて
水を汲みに
パンを得るために
遠くまで出かけていく。

わたしは、
こうして図書館で本を借り
「本を読む」時間を
得ていることに感謝し
これこそが
豊かさであることを
痛切している。

という、ちょっと真面目な日。

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