ゴールは「機器を購入してもらうこと」ではなく、「導入先の患者さんが良くなること」。だから、mediVRではセラピストも営業に同行します
株式会社mediVRでは、病院や介護施設、デイサービスからお問い合わせをいただいた際に、営業スタッフとセラピストが一緒に訪問し、mediVRカグラの特徴を説明、機器体験のデモンストレーションを行っています。
医療機器の営業に理学療法士や作業療法士が同行することはちょっとめずらしいようで、訪問先で驚かれることもしばしば。でも、わたしたちは営業段階からセラピストが関わることをとても大事なステップだと考えているのです。その理由について、営業チーム・セラピストチーム双方の統括リーダーを務める作業療法士の村川雄一朗に語ってもらいました。
作業療法士と名乗った瞬間に、反応が変わる
——営業を行う際のセラピストの役割を教えてください。
営業スタッフには基本的な説明や事務回りのことを担当してもらい、セラピストはカグラを操作して使い方をお伝えしたり、営業先の医師・セラピストや患者さまに体験していただいたりしています。
——セラピストが営業に同行する意義は?
自己紹介で作業療法士と名乗った瞬間に、先方が「えっ、作業療法士なんですか」と身を乗り出してくださることがあります。営業にセラピストが来ることは珍しいそうで、それだけで少し信頼度が上がるようですね。現場の医師やセラピストの方の医学的・学術的疑問にその場で答えられるので、話もスムーズに進みます。
また、デモ機の貸出期間や導入後にフォローしていることも、「そこまでしてくれるなら」「外部のセラピストの考えを知ることができるのは勉強になるし、続けたい」と好印象を抱いていただけることが多いです。
——導入施設へのフォローを行うのはなぜですか?
実はこの体制になるまでには数々の失敗がありまして……(笑)。カグラを開発した当初は、販売を営業代理店にお願いすることもありましたし、導入後のフォローも行っていませんでした。でも、それではダメだったんです。ただしく使ってもらえず、上手な使い方を実感してもらえなかったことが何度もありました。
カグラの真価を発揮するには、本当に細かな患者さんの観察や難易度のコントロールが必要です。病気や障害によっても効果的な使い方は変わってくるので、セラピストの方にきちんとカグラを知っていただかなければいけないのだと気づきました。それには2週間では足りないので、導入後もしばらくはフォローに入らせていただいています。
予算が少ないリハビリテーション科。どうすれば購入してもらえるか、現場のみなさんと一緒に考える
——営業の際によく聞かれることはありますか?
セラピストの方からは、「自分に使いこなせるだろうか」と心配されることが多いです。カグラはテンキーを操作して課題を出すのですが、パソコン画面も確認しないといけませんし、患者さんの動きも見て介助・誘導することも必要です。同時に3つのことを意識しなければいけないのはたしかに大変です。でも、使っているうちに慣れていくものですし、僕たちもそのためのフォローは惜しみません。
一般的な医療機器の営業では「機器を買っていただくこと」がゴールになるのかもしれませんが、僕たちは「導入先の患者さんに良くなってもらうこと」をゴールと捉えています。だから、施設側の医師やセラピストの方とある意味チームのような関係を築けるんです。患者さんの動作を一緒に見て評価し、次にどんな課題を出すかを相談していく。改善が見られたときは一緒になって喜びます。それがこの仕事のおもしろいところだと思います。
——導入の壁になるのはどういった点ですか?
やはり金額面ですね。整形外科や脳神経内科は予算がつきやすく高価な医療機器をいくつも導入しているのに、リハビリテーション科は予算がなくてひとつ機器を購入しようとするだけでも経営部門から渋られる、というケースはめずらしくありません。リハビリ道具はボールやブロックなど安価なものも多いので、それがあればいいだろうと思われがちなんです。僕自身、病院で働いていたときに50万円の機器でも購入してもらえず悔しい思いをしたことがあります。機器を導入すれば目の前の患者さんを治せるとわかっているのに、自分に権限がなくて導入できない状況は歯がゆいものです。
だから、現場の方がカグラに可能性を感じてくださっているのに予算が下りないときは、「悔しいですよね……」と思わず共感してしまいます(笑)。その上で、どうすれば導入できるのか一緒に戦略を練ります。
具体的には、機器の購入権限を持つ方にデモンストレーションを見ていただいたり、患者さんの変化をデータで示したり、経営上のメリットをご説明したり、場合によっては予算を持っている別の診療科に導入していただいたり、補助金情報をご案内したり。普通は僕たちが一方的に考えるものなのかもしれませんが、先方の医師やセラピストが味方になってくださるので心強いです。
“患者さんの変化”が一番の営業ツール
——村川さんは、まだmediVRに営業専門のメンバーがいない頃から営業を担当されていましたよね。
2020年4月に正式にmediVRに入社し、最初の頃は原先生と二人三脚で営業していました。当時はカグラの知名度もなく、営業先での扱いは散々でしたね。「何それ、聞いたこともない」「意味があるとは思えない」と。帰り道で原先生と「いやー、やられたね」「ダメでしたね」と話していたことを覚えています。
でも、原先生が各地で講演をしてくださって、学会発表や機器展示、論文発表なども重ねるうちに知名度が上がって、営業先で丁重にもてなされることが増えました。新しい医療機器への抵抗を薄めるには、時間をかけて結果やエビデンスを積み重ねていくことが必要なのでしょうね。でも、1年ちょっとでこんなに変わるんだな、と驚いています。
——国立病院のセラピストから転職して、慣れない営業の仕事で散々な対応を受けて。最初の頃はつらかったのでは?
プレゼンの最中に相手の方が半分寝ていたり、途中で「もういい」と言われたり、つらいことはもちろんありました。でも、数は少なくても興味を持ってくださる方はいましたし、そういう方は話していてとても刺激を受けるんです。豊富な経験を持っているから初めて見る医療機器でも価値がわかるし、常に勉強されているから知名度にとらわれず自分で判断できるのでしょうね。物事に対して前向きで、興味を持っていろいろ質問してくれて、優しくフレンドリーで。そんな先生たちとの出会いがあったから、自分たちがやろうとしていることは間違っていないと思えました。
——セラピストが営業も兼任することへの抵抗はありませんでしたか?
営業のマナーや作法は知らなかったし、最初はネクタイを結ぶのにも時間がかかっていました(笑)。でも、場数を踏むうちに、“目の前の相手がいま何を思っているのかを把握して不安を取り除く”という点では、臨床も営業も同じだな、と思うようになりました。
初期に冷たくあしらわれたことも、いま振り返るとめちゃくちゃいい経験だったと思います。「本当に現場の役に立つ医療機器なの?」という疑問や反感をストレートにぶつけてもらえたので、導入の際に何がネックになるのか、それに僕たちはどう応えられるのか、mediVRカグラの強み弱みはどこにあるのかを把握することができました。当時の経験がいまの営業に活きています。
——これまで営業を続けてきて、印象的だったことはありますか?
「VRでリハビリなんて全然効果がないと思う、うちには必要ない」と頑なだった先生が、カグラ後に患者さんの歩行スピードが10メートル歩行で10秒短縮したのを目の当たりにして、掌を返したように「すごい!」と目を輝かせてくれたことがあります。「なぜこんなに変化が現れるのか考えます」と言って、次にお会いしたときに「こういう機序なんじゃないでしょうか」と自分なりの解釈を聞かせてくださいました。
医師もセラピストも患者さんが良くなることが一番うれしいし、その光景を見て否定するのは難しいんですよね。それが一番の営業ツールだと思うから、デモンストレーションや貸し出し、フォローを大事にしています。
役に立てる可能性のある患者さんに、カグラを届けたい
——現在も営業ミーティングに参加されていますね。
原先生と営業メンバー、それから営業をサポートしてくださっている外部パートナーさんと一緒に戦略を練っています。誰がどのタイミングでどんなアプローチをするか意見を出し合って、ときにはプレゼンの練習をして。僕はセラピストの立場から、「現場の先生はこんなことを不安に思っているだろうから、この資料を送るといいんじゃないかな」などと提案することが多いです。
——セラピストとしての仕事に専念したいと思うことは?
それもあるのですが、「僕が一番カグラの良さを知っているし、プレゼンしてきた数も多いから一番上手く説明できる」という自負というか、「だれにも負けたくない」という思いもありますね(笑)。でも、営業メンバーはそれぞれ自分にはない突出した強みや光るものを持っているので、徐々に僕の出番は無くなっていくんだろうなと思います。皆が輝けるように支援の側に回ることが、営業部門・セラピスト部門の統括リーダーとしての自分に課された役割なのだろうなと、勝手に想像しています(笑)。
——mediVRカグラの販売台数目標は設けていますか?
現段階では数字はあまり意識していなくて、カグラの良さを知っていただくことを重視しています。どんな特徴のある機器なのか、どう使えば効果的なのかを医師やセラピストのみなさんにきちんと知っていただき、患者さんに対して結果を出していただく。いまは数ではなく質を追い求めることが大事な時期だと捉えています。カグラへの理解が進めば、その治療効果の高さから数は自然についてくるだろうなと。
——導入を検討してくださっている施設に向けてお伝えしたいことはありますか?
これまでにない機器ですし、最初はどうしても身構えると思います。でも、2週間の無料貸し出しもありますし、ぜひ一度使ってみていただきたいですね。その上で不安があれば何でもぶつけてほしいです。
僕らが目指すのは、たくさんの患者さんを良くすること。「カグラによって身体機能や認知機能が劇的に改善する可能性のある患者さんがいるのに、届けられない」という状況を無くしたいと思っています。病院や介護施設など、さまざまな場所で使えるようにしたい。でも、カグラを届けるだけではそれは達成できなくて、優秀な医師やセラピストのみなさまの協力が必要です。治療やリハビリにブーストをかける道具として、カグラを活用していただけると幸いです。
■株式会社mediVR
HP:https://www.medivr.jp/
リハビリセンター:https://www.medivr.jp/rehacenter/
Facebook:https://www.facebook.com/mediVR.media
instagram:https://www.instagram.com/medivr.jp/
取材日:2021年12月8日
撮影:山中陽平 執筆:飛田恵美子
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