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知財功労賞を受賞した医療機器ベンチャーの知財戦略、公開します

株式会社mediVRは、知財活用ベンチャーとして令和5年度「知財功労賞 経済産業大臣表彰」を受賞しました。知財功労賞とは、知的財産権制度を有効活用し、制度の発展に貢献した企業等に贈られる賞。mediVRはVRリハビリテーション用医療機器mediVRカグラにおいて16の特許技術を有しており、知財経営に力を入れているのです。

私たちの知財戦略は、これから医療機器を世に出そうとしているベンチャーの参考になるかもしれません。知財功労賞受賞を記念し、戦略の一部を公開したいと思います!

mediVRカグラに詰まった特許技術

まずはmediVRカグラについて紹介しましょう。mediVRカグラは、VRを活用しセラピストが脳と身体の情報処理過程の異常を整理することをサポートするリハビリテーション用医療機器です。循環器内科医の原正彦が大阪大学との産学連携により開発し、2019年から販売を開始しました。現在では全国の大学やリハビリテーション病院、介護付き有料老人ホーム、デイケア施設に導入されています。

mediVRカグラでは、VR空間上の狙った位置に手を伸ばす動作(リーチング動作)を
繰り返すリハビリテーションを行います

2023年4月現在、mediVRは以下の特許を取得しています(※最新の情報はmediVR公式サイトの「製品紹介」ページに記載しています)。

このなかで特に重要なのが、「マルチチャネルバイオフィードバックシステムによって脳の再編成を促す技術」。mediVRカグラでは、リーチング動作が成功すると画面が光って「あっぱれ!」という文字が表示され、ピコーンと音が鳴り、コントローラーが振動します。視覚・聴覚・触覚と多方面から強力なフィードバックを行うことで、身体の使い方を脳が効率的に学習できるのです。

また、「Sensory ConflictによるVR酔いを予防するための技術」も重要です。一般的に、VRでゲームや動画を見ると、約3割の方がめまいや不快感を感じると言われています。医療機器として安全に運用するために、私たちは内耳と視覚情報に齟齬を生じさせないための工夫を凝らし、VR酔いの発生頻度を0.5%未満に抑えました。これによって、平衡感覚障害患者の症状がmediVRカグラのリハビリによって改善する事例も生まれているほどです。
(※VR酔い予防の工学的理論背景に関する論文はこちら

これまで医学界では「VRリハビリテーションには“楽しい”以外の効果はない」というのが定説でしたが、mediVRカグラを使ったリハビリでは脳性麻痺で車いすを使っていた小児が一ヶ月で杖を使って歩けるようになるなど、さまざまな治療実績が生まれています。それは、先に述べたような独自の技術が詰まった機器だからです。自信を持って販売できるようになるまでには、多大な時間と労力を必要としました。安易に模倣されることを防ぐため、ひとつひとつの技術に対してきちんと特許を取得し機器を守っています。

「知財功労賞」受賞のポイントを解説

さて、前提条件を共有したところで、本題に移りましょう。mediVRカグラの知財経営について、特許庁から発表された「受賞のポイント」を参照しながら説明します。

①社長自身が知財に非常に精通しており、ほぼすべての特許出願において面接審査を活用して社長自ら特許庁の審査官とディスカッションし、海外でも通用可能な強い特許を取得するなど、経営と知財を一体で検討している。

代表の原は「医療機器ベンチャーが成長し続けるためには特許の取得が必要不可欠」と考え、手術支援ロボット「ダヴィンチ」などを開発するインテュイティブ・サージカルを参考に知財戦略を練ってきました。多くの企業が特許出願・審査を紙面のやり取りのみで済ませるなか、mediVRでは代表自身が直接審査官に出願技術の新規性・進歩性を伝え、より広い範囲で特許が認められるよう説得や意見交換をしています。また、面接審査を重ねることで、さらに知財に関する理解が深まるという循環が生まれています。

②社内研修として、審査官、審判官との面接の同席や明細書、補正書の作成に参加することで、全社員のリテラシーを高めている。さらに、すべての社員がJ-Platpat等を用いてアイデアの新規性に関する検証ができるレベルに達することができるよう、教育体制が整備されている。

社員の知財リテラシーを高めるメリットは2つあります。1つは、機器に対する理解が高まり、改良や新規特許のアイデアが出やすくなること。もう1つは、他社による権利侵害が見つけやすくなること。実際に、社員から侵害事例の報告があり、早期に対処できたケースがいくつもありました。

③将来的に取得可能な知財をリスト化し、20年の権利有効期間を適切にオーバーラップさせながら数年毎に新規特許取得を繰り返していく知財戦略を進めており、長期的な知財戦略を立案・実行している。

特許権の存続期間は出願日から20年です。一度にすべての特許権が切れることのないように、mediVRでは弁理士とディスカッションを重ね、2017年からほぼ毎年のように新しい特許を出願。常に「あと20年は機器を守れる」という状況を保っています。現在も5つの特許技術の出願を準備しています。

特許出願時における細かな工夫

上に挙げたのは、知財活用ベンチャーとしての姿勢に関するもの。特許出願時における細かな工夫も少しだけご紹介します。

① 最初から海外出願を想定して特許明細を書く

特許権が認められる要件は国によって少しずつ異なるため、発明の名称で特許請求の範囲に制限がかかることがないよう、表現に注意しています。これにより、知財功労賞受賞のポイント①に書かれている「海外でも通用可能な強い特許」となるのです。

② “見た目で判断できる”技術だけを特許出願の対象とする

2016年、クラウド会計ソフトを取り扱うフリー株式会社(以下、「freee」)が株式会社マネーフォワードに特許権侵害訴訟を起こし、2017年の第1審判決で敗訴となりましたが、システムのアルゴリズムのような目に見えないものは特許侵害の判断が難しいもの。mediVRは特許権が侵害されていると一目で判断できる、つまり侵害検出性の高い技術を対象に特許を出願しています。

③ “見た目で判断できない”技術は企業秘密にする

特許だけで知的財産を守れるとは考えていません。アメリカでは特許権侵害訴訟を起こすだけで多大な費用が必要となりますし、自国企業に有利な判決を出す傾向にある国では訴訟を起こしても勝つのが難しいこともあるでしょう。“見た目で判断できない”技術については特許を出願せずノウハウを企業秘密にすることで、仮に製品をまるごと模倣されたとしても当社にある程度の競合優位性を保てるようにも工夫しています。

④ すべての特許で分割出願をしている

仮に競合他社から特許の異議申し立てを起こされても、分割出願によって特許請求の範囲を少しずらしたり、補正したりすることで特許を維持し続けることが可能です。弊社では、請求範囲の拡大目的のみならず、知財訴訟の防衛力強化の観点からすべての明細を分割出願するようにしています。このような取り組みは、競合他社への牽制にもつながります。

⑤ 欧州では重要な技術はオプトアウトする

いま力を入れているのは特許の海外移行です。その中でもホットな話題として2023年6月から欧州単一特許制度が始まります。弊社では、ひとつの判決で複数国の特許を失うリスクを避けるために社内でも重要な位置づけの技術はオプトアウトする(欧州統一裁判所の管轄権を排除する)一方で、その他の複数特許は単一特許制度に乗せるなど、攻めと守りを意識しながら特許ごとにオプトアウトの有無を取捨選択して知財戦略を進めています。

2022年にオープンしたmediVRリハビリテーションセンター東京

世界で認められる医療機器を、日本から


こうしたmediVRの知財戦略は投資家からも信頼され、2021年にはシリーズBにおいて5億円の資金調達が完了しました。直近では医療・健康・福祉領域の研究開発型スタートアップ等を対象としたピッチコンテスト「Startup Pitch 第31回日本医学会総会 博覧会×CIC」で弊社東京リハビリテーションセンターの責任医師である新本が優秀賞を受賞しましたが、知財戦略も評価のポイントとなったようです。

一方で、医療業界にはビジネスを嫌う人も多く、mediVRが範囲の広い特許を取得していることに対して「これではほかの会社が製品を開発できない、医療の発展を妨げる」といった批判を受けることがあります。しかし、もし私たちが取得している特許技術を活用した製品を販売したいのなら、ライセンス契約を提案するなどの正当な取引をすればいいだけのこと。0から1を生み出した人/企業の権利が守られずタダ乗りが許される社会になれば、時間や労力をかけて新しいものを生み出そうとする人はいなくなるでしょう。

また、ベンチャーは資金力に圧倒的な差がある大企業が市場に参入する前に足場を固めることが重要ですが、扱うものが医療機器の場合、拙速になってはいけません。特許で20年間守られているからこそ、安全性を追求しエビデンスを積み重ねることができるのです。

mediVRの従業員は、半数以上が医師や理学療法士、作業療法士といった医療関係者です。私たちはビジネスを介することでより多くの患者さんに最適な医療を届けることができると信じています。そして、「日本でも世界で認められる医療機器を開発できるんだ」という実績と自信を医療産業に与え、イノベーションを加速させ日本の医療機器産業のエコシステムをつくりあげたいと考えています。同じ志を持つヘルスケアベンチャーのみなさんと、切磋琢磨していけたら幸いです。

■株式会社mediVR
HP:https://www.medivr.jp/
リハビリテーションセンター:https://www.medivr.jp/rehacenter/
Facebook:https://www.facebook.com/mediVR.media
instagram:https://www.instagram.com/medivr.jp/

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