脳性麻痺で車いすを使っていたぼくが、1か月で杖を使って歩けるようになった理由
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脳性麻痺で車いすを使っていたぼくが、1か月で杖を使って歩けるようになった理由

mediVR

2021年9月、私たちはある親子と出会いました。脳性麻痺の小学6年生、藤本りょうたくんと、お母さんの理恵さん(どちらも仮名)です。これまで患者さん個人へのmediVRカグラ販売・貸し出しは行なっていませんでしたが、やりとりをするなかで理恵さんの熱意を感じ、11月にオープンするリハビリセンターのモニターとして短期間だけリハビリを提供することにしたのです。

普段は車いすを使っていて、最初は背筋を伸ばしてまっすぐ座ることもやっとだったりょうたくん。1か月間ほぼ毎日リハビリをするなかで本人も驚くほどの改善を見せ、なんと短時間なら杖をついて歩けるように! 一所懸命リハビリに取り組む姿を見守ってきたスタッフたちは、みんな感極まってしまいました。

なぜカグラのリハビリに挑戦しようと思ったのか、実際にやってみてどうだったのか。りょうたくんと理恵さんに、この1か月の軌跡を教えてもらいました。

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理恵さん、りょうたくん、メインでリハビリを担当したmediVRリハビリセンター副施設長・藤井達也先生。mediVR代表の原正彦先生もZoomでインタビューに参加しました。

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VRを活用し、運動機能と姿勢バランス、認知機能を総合的に評価・刺激するmediVRカグラ。大学や病院、高齢者福祉施設に導入され、脳梗塞、高次機能障害、認知症、整形外科疾患、慢性疼痛など、幅広い疾患のリハビリに使われています。2021年11月15日、mediVRはカグラを使ったリハビリを提供する成果報酬型自費リハ施設を大阪府豊中市にオープンします。

新しい刺激を探していたときに、カグラを知った

まずは、りょうたくんのこれまでを確認しましょう。身体はどんな状態で、どんな治療を受けてきたのでしょうか。

理恵さん「体幹と下半身の麻痺があり自分の脚で立つことはできず、外に行くときは車いすを使い、家の中では腕の力に頼って四つ這いで移動していました。その分上肢は強いけど、細かな手作業はちょっと苦手ですね」

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幼い頃は尖足気味でしたが、保育園児のころに神経を切る手術をして足首が柔らかくなり、かかとを地面に着けられるように。術後の入院中は毎日リハビリをしていたため、できることが格段に増えたそうです。ただ、退院後、リハビリのペースが週1ほどになるとまた徐々に足が硬くなり、定期的にボトックス注射を打っていました。

理恵さん視点ではボトックスをすると足が柔らかくなり動きやすくなったように見えたけれど、りょうたくん自身に実感はなく、「ただ痛みを感じただけだった」とのこと。

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理恵さん「リハビリも幼いころからずっと通っているので、マンネリ気味だったんです。特に進展もなく、りょうた自身にも『もっとよくなろう』とか『歩けるようにがんばらなくちゃ』というやる気や自主性がなくて、仕方なく取り組んでいる感じでした」

りょうたくん「習い事の一部みたいな感じだったな。長下肢装具をつけて歩く訓練をするんだけど、10m歩くのに1分50秒くらいかかっていて、ちょっときつかった」

このままでは良くない、と考えていた理恵さん。たまたま視聴したYouTube動画でカグラを知り、その日のうちに問い合わせをしてくれました。すごい行動力!

理恵さん「何か新しい刺激が必要だと考えていたから、これはいいきっかけだなって。りょうたに合うかどうかはやってみないとわからないけど、マイナスになることはないだろうし、やってみてダメだったらまた別の方法を探せばいいと思いました」

原先生が出演したYouTube動画

初めて自分の脚で3秒立てた

9月半ば、mediVRリハビリセンター副施設長の藤井先生がりょうたくん宅を訪問。さっそくカグラを体験してもらいました。実際にやってみて、りょうたくんはどんな感想を抱いたのでしょう。

りょうたくん「これまでのリハビリより気軽にできるなって。それはなんでかって言うと、痛くないから。身体をがっつり伸ばされるわけでもないし。ただ、的を取るために身体を傾けて手を伸ばすときはちょっと怖かった。ふだん重心移動することがないから、倒れるかもしれないと思って」

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そう話すりょうたくんに、「怖がっているのは見ていてわかったけど、椅子から立ち上がる練習のときに『身体の使い方が上手だな』と思ったよ」と優しく語りかける藤井先生。脳性麻痺の患者さんを診るのは、整形外科医である藤井先生にとっても初めての経験だったといいます。

藤井先生「訪問する前はどうなるだろうと思っていましたが、1回目で体幹が良くなっていたので、これはすごく取り組む意味があるなと感じました」

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それからはほぼ毎日、夜にリハビリを実施。藤井先生以外のメンバーもオンラインでリハビリをサポートしました。リハビリを繰り返すなかで、りょうたくんも少しずつ手応えを感じはじめたようです。

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りょうたくん「最初は真横の的を取るのが難しかった。体重の乗っけ方がわかんなくて……ちょっとはわかってたつもりだけど、本当はわかってなかったのかもしれない。でも、やっていくうちにだんだんコツを掴めてきたかな。1か月前ってどんな感じだったっけ」

藤井先生「1か月前は10cmだった的の大きさもいまは5cmになったし、目標物の落下速度も25cm/秒から45cm/秒に上がって難易度は高くなっているけど、ついていけてるよね。最初は10分間で30〜40個くらいしか取れていなかったのが、いまは10分間で80個くらい取れるんじゃないかな。

一番変わったのはやっぱり真横を取るときの身体の支え方だね。最初は背中が丸まっていたけどいまはちゃんと反っていて、遠くに手を伸ばすときに反対側の筋肉が引っ張ってバランスを取ろうとしている。あと、最初は膝が内側に入りがちだったけど、2週間くらいしたら骨盤内の筋肉が使えるようになって、膝がちゃんと90度になったよ」

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ここで、インタビューを見守っていた原先生から指摘が入りました。

原先生「みんな忘れているみたいだから補足すると、最初はりょうたくん、くぼみのある椅子じゃないとカグラをするときの座位保持も難しかったんですよ。いまでは毎日できている落ちてくる目標物を手で受ける落下ゲームも最初は無理で、しばらくは水平型ゲームと呼んでいる目標を固定した状態で的の大きさは10cmでやってもらっていました」

そう聞いて、「そうだった、忘れてた!」「落下ゲームをやるのが当たり前になって、最初からできていた気がしちゃってたね」と驚くりょうたくんと藤井先生。たった1か月前のことなのに、変化が大きすぎてはるか昔のことのように思えるそう。でも、丸まりがちだった背中がぴんと伸びて姿勢が良くなったのはどうしてなのでしょう?

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藤井先生「推測ですが、的を取るときに背筋を伸ばすので体幹が鍛えられ、身体の使い方がわかるようになってきたんじゃないでしょうか。筋力もついてきましたね。りょうたくん、なんで姿勢が良くなったのか自分でわかる?」

りょうたくん「最初は的を下のほうで取っていたけど、上のほうで取るためには姿勢が丸まっていると取れなくて、背筋を伸ばすように意識したんだと思う。気づいたらできるようになってた。1回やるとめっちゃ良くなって、次の日にやるとまためっちゃ良くなって、その繰り返し」

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藤井先生「自分で一番変わったなって感じたときはある?」

りょうたくん「リハビリを始めて2週間目くらいだったと思うけど、立ち上がりの練習で、3秒くらい手を放せたとき。いつもは腕の力で立っていたけど、自分でも全然腕に力を入れずに立てたなって思った。あれはうれしかったな」

理恵さん「あのときはみんなで歓声を上げました。『いま立てたね!』って。介助をしていても、最初は全身の体重が腕にかかってきていたのがなくなって、ちゃんと脚に体重をかけていることを感じ取ることができて、これはすごいなと思いました」

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最初はカグラと立ち上がりの練習だけでしたが、バランスが良くなったことを確認し、途中から歩行器を使った歩行訓練も追加。“脚に体重を乗せる”感覚を掴んでから、りょうたくん自身も歩きやすくなったと感じているといいます。

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11年ずっと変化がなかったのに

身体には大きな改善が見られているりょうたくんですが、暮らしのなかでの変化はあるのでしょうか。

理恵さん「ずっと、階段を登るときは手すりにすがって腕の力で身体を引っ張り、脚は添えている感じでした。私も付き添って支えているのですが、身体が大きくなってきたから結構大変で。『絶対に後ろに倒れてこないでね、一緒に落ちちゃうからね』『いつ怪我をしてもおかしくないね』なんて話していました」

りょうたくん「何度2人で落ちそうになったことか」

理恵さん「ね。それがいまはある程度脚に体重をかけられるようになったので、介助が楽になりました。右脚が弱いのでだんだん左側に寄りがちだったのも、まっすぐ登れるようになってきて。見るからに良くなっているなと思います」

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また、理恵さん曰く、精神面にも変化があったとのこと。

理恵さん「mediVRのみなさんから『すごいすごい』『どんどん良くなってるよ』と褒められることもあって、『やればできるんだ』という自信や向上心が芽生えてきたように見えます」

りょうたくん「自分でもちょっと変わったかなと思う。これまでやる気がなかったのが……」

理恵さん「あ、やる気なかったって認めた(笑)」

りょうたくん「だって、11年くらいずっと手術とか入院とかリハビリとかしているのにこの状態で、でもカグラを始めてから数週間でいきなり良くなったから、やる気が出てきて。これまでも別に怠けているつもりはなかったけど、いまから考えると、やる気がなかったのかなって」

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最初は10分だけだったリハビリ時間は1時間になり、難易度もどんどん上がっていますが、「ちょっときついけど、体力ついてきたから大丈夫」とりょうたくん。頼もしい!

目標は、自分の脚で卒業証書を受け取りにいくこと 

心身ともにめきめきと成長しているりょうたくんを見て、幼い頃からリハビリを担当してきた先生方もさぞ喜んでいるのではないでしょうか。

理恵さん「歩行訓練のとき、これまでは骨盤からぐっと脚を前に出していたのが、ちゃんと脚だけを使うようになったと言われました。『なんていう医療機器を使ってるんだっけ? 調べておくね』って。短期間で大きく変化したから、興味を持ってくれたのだと思います」

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ふくらはぎや太ももに筋肉がつき、足裏の皮も厚くなってきました。歩ける身体に生まれ変わっているのでしょう。

カグラによるリハビリはあと2か月続ける予定です。「(カグラの目標物の落下速度を)90cm/秒くらいまではいきたい」と目標を掲げつつ、小声でそっと「……でも、いけるかな」とつけ足したりょうたくんに対し、「大丈夫、いけるよ!」と発破をかける藤井先生。一方理恵さんは、半年後に控えている卒業式での目標を語ってくれました。

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理恵さん「自分の脚で卒業証書を受け取りに行ってもらいたいです。前は長下肢装具と杖で行くことが目標だったけど、今は杖を使えば自分の脚で歩いていけるんじゃないかなと思うようになりました」

藤井先生「直近の2週間で筋肉がついてきました。それによって筋トレできる時間も増えていくはず。カグラの課題の速度が上がってバランスが整い、筋肉がついて持久力がついていく。この繰り返しで良くなっていきます。歩行器でも一歩一歩歩けているし、半年後には杖なしで歩くことも決して夢ではありません」

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ちなみに藤井先生、1か月間一緒に過ごすうちに親のような気分になってしまったのか、りょうたくんに向かって何度か「お父さんはね」と呼びかけてしまったそう。「5回くらい言ってたよ(笑)」とりょうたくんが教えてくれました。

藤井先生「りょうたくんが『頑張って立とうって言われても、身体のどこをどう使えばいいかわからない』とちゃんと伝えてくれたから、『たしかに身体の感覚は人によって違うし、伝え方を考えないといけない』と気づきました。普段から自分がどう身体を動かしているのか意識して、それをどう表現すればりょうたくんに伝わるかを考えて。僕にとっても、学びの多い1か月でした」

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語彙が豊富で、自分の身体の状態や感じたことを的確に捉え、ちゃんと言葉にして伝えてくれるりょうたくん。これまでの人生経験の賜物でしょうか。インタビュー中も「重心移動という言葉が当たり前のように出てくる……!」と驚かされました。

理恵さんとりょうたくんは、未知の世界に果敢に飛び込むファーストペンギン

「自分と同じ脳性麻痺の子がいたら、カグラをおすすめする?」——そう聞くと、りょうたくんは「する」と即答してくれました。

りょうた「良くなるスピードとかは人によって違うだろうけど、たぶんみんなカグラをやればある程度良くなるんじゃないかな。自分と同じくらいの状態の人が、いまの自分くらいになるのは、難しくないと思う」

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理恵さん「これまでいろんな先生のもとでいろんなことを試してきたけど、カグラをやる前はどう頑張ってもりょうたが自分で立ったり、ましてや歩いたりしている姿が想像できなかったんです。でも、カグラを始めてから、もしかしたら歩けるのかもと希望を持てるようになって。

どうしてだろうと考えたときに、これまでは誰からも、『これをすれば立てるようになるよ、歩けるようになるよ』と明言されたことがなかったことに気づきました。むしろ、現状維持ですら難しいのかもしれないと思うほどでした。大人になるにつれて筋肉が固まっていきこれまでできていたことができなくなるかもしれないから。

でも、そんな考えじゃダメだ、私自身が受け身でいたらダメだと思い、もっといろんな治療法を探そうとしていた矢先にカグラに出合いました。

原先生が『続けていけば歩けるようになる』とはっきり言ってくださったから、そして実際にどんどんよくなる様子を目の当たりにしたから、私も歩いているりょうたの姿を想像できるようになったし、りょうたも『そのためにいまこのリハビリをやっているんだ』という意識が生まれて、主体性が出てきたんだと思います」

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理恵さんの言葉を受けて、原先生がりょうたくんに対し、「なぜ今回、これまで行なってこなかった個人へのリハビリ提供をすることにしたのか」を説明しました。

原先生「普通は小学6年生まで改善が見られなかったら、もう治療をあきらめてしまう人が多いのではないかと思うんです。でも、お母さんはあきらめていなかった。チャンスがあれば掴みに行こうとしていたから、カグラを知ってすぐに電話をしてきてくれた。こういう行動力や気持ちに、心を動かされました。

お母さんのように未知の世界に飛び込める人をファーストペンギンと言います。何が潜んでいるかわからない海に飛び込むのは怖いけど、勇気を出して飛び込む1匹目のペンギンがいるから、ほかのペンギンも後に続くことができる。僕たちmediVRも、これまでのリハビリの常識をぶち壊しながら突き進まなければならないという意味ではファーストペンギンです。誰もやらなかったこと、常識外のことに挑戦している。だから、果敢に飛び込んできたお母さんの姿勢に共鳴して、ふたりの助けになりたいと思いました。

りょうたくんはまだまだ良くなるし、僕は杖なしでも歩けるようになると信じているし、何なら卒業証書も走って奪い取るくらいになってほしい。だから、あと2か月、一緒に頑張りたいと思います」

原先生の言葉に理恵さんとりょうたくんは目を潤ませ、その場にいたメンバーもその姿に思わずもらい泣きして……と、みんなに涙が連鎖してしまいました。

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そして、このインタビューから4日後。理恵さんから「りょうたが杖で歩けました!」と動画が届きました。りょうたくん、すごい! 動画を見て、社内は大盛りあがり。

カグラ施行前(左)は自分で立つことも困難でしたが、約1ヶ月後(右)には初めて杖で歩くことができました。

どうすればもっと良くなるか、自分で考え真摯にリハビリに取り組むりょうたくんと理恵さんの姿勢に、メンバー全員が大きな刺激を受けた1か月でした。また2か月後、もっともっと良くなった姿を見せてくださいね。

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<インタビューを終えて、mediVR代表・原より>
mediVRではこれまでに高校生と40歳台の脳性麻痺患者に対してリハビリを提供したことがあります。2人とも、カグラで5分間リハビリをしただけで、それまで難しかった座位保持ができるようになりました。神経ネットワークさえつながれば、脳内運動モデルの再構築さえできてしまえば、もともと筋力がある方の回復は早いのです。りょうたくんは筋力がなかったパターンですが、1か月のリハビリでめきめき筋力がついてきましたので、改善スピードはさらに加速することが期待できますね。

この3例を通じて、これまで改善を得ることが難しいと考えられてきた脳性麻痺患者でも十分にアプローチできる自信を得ることができました。世界中の脳性麻痺患者を、ほかの医師から「もう治らないだろう」と言われてしまった方を、ゴリゴリ治していこうと思います。りょうたくんとお母さんから、そのための知見とパッションをいただきました。ファーストペンギンとして飛び込んでくれてありがとうございました!!

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取材日:2021年10月17日
撮影:山中陽平  執筆:飛田恵美子

mediVR初の自費リハビリセンターは、2021年11月15日、大阪府豊中市の緑地公園駅ビル内にオープン予定。東京都江戸川区にも2軒目を計画中です。詳細はHPやSNSに順次アップしていきますので、ご興味のある方はご確認ください。

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VRを使ったリハビリテーション医療機器「mediVRカグラ」を提供する株式会社mediVRの広報チームです。このnoteでは、導入施設へのインタビュー等をお届けします! https://www.medivr.jp/