吉田茉恭(よしだまゆき)

見つけて頂いてありがとうございます。 プロの脚本家を養成する学校で勉強中です。 現在掲…

吉田茉恭(よしだまゆき)

見つけて頂いてありがとうございます。 プロの脚本家を養成する学校で勉強中です。 現在掲載中の「色彩の闇」は芥川賞獲ったる!と息巻いて始めたものの、 自分の筆力のなさ、語彙力の乏しさに愕然として泣きながら書いた作品です。 ぜひご笑覧くださいw近況はTwitterにて!

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色彩の闇、後記

色彩の闇をお読みくださった方々、 どうもありがとうございました。 感想もたくさん頂けて、とっても嬉しいです。 この拙い文章を、プロット代わりに、 1本の映画用脚本にしようと思っています。  映像は性描写に限界があるので、 手直しがかなり必要なのですが、 私の思い出の作品なので、頑張ろうと思います。 またチャンスがあればこちらに記録用として残していきたいと思っています。 そのときはぜひぜひ。

    • 色彩の闇エピローグ

      「直也…、愛している人がいるなら…行ってもいいのよ。」 「そうじゃないよ。邑が教えてくれた愛を、指南したんだ。素質のある子がいてね」 「そう、どんな子なの?」 「自分のことを全然わかってない子だったね。でも強さはあってね。叩いたら響いた」 「ふふっ…それはすごくいい女よ」 「…いい女。そうだね…。幸せになってほしい。」 「私、直也にも幸せになってほしい…」 「俺の幸せは邑だよ。邑が俺といて幸せだと思うなら、それが幸せだよ」 「うん。もう直也しか要らない」 「俺もだよ、邑しか要

      • 色彩の闇29

        人の気配を感じない、人を避けるようにさえ感じられるマンションの住人のひとりが、シビレを切らして管理会社へ連絡してきたのは、まもなく冬になろうとしていた頃だった。 2階の角部屋の前に運ばれた新聞の量が尋常ではなく、隣に住むその女性の家の前まで圧し迫って来ているのと、どうにも初夏の頃から人の出入りを感じないが、新聞だけが止まる気配なく運ばれてくるので気味が悪いと言うのだ。 このマンションは分譲賃貸なので、各部屋ごとに大家が違うらしく、2階の角部屋のオーナーは外国人で連絡を取り付

        • 色彩の闇28

          「美沙さん…ずいぶんと雰囲気が変わったな…。」 演奏中に渡す予定のチップと、リクエストカードを黒服に渡しながらVIP席の内藤はステージ上の美沙を見て言った。 紙幣10枚をセロハンテープで繋げて作るレイは、店側があらかじめ作り置きしてあり、金額によってそれを買うシステムになっていた。 もちろん最高額は1万円10枚で作ったレイだが、千円札10枚で作るレイの方が一般的だった。 内藤はいつも10万円を出そうとするが、担当のリエがそれを阻止していた。 「あら、そうかしら…。毎日見て

          色彩の闇27

          手に握ったままの携帯が鳴り続けているのに気がつくまで、暫くかかった。 それは意識を失うように眠ってしまったことで、現実を掌握できなかったからだった。 ここは自分の部屋で、しかもほぼ全裸に掛物も羽織らずに眠っていたようで、全身が冷蔵庫の中にある食べ物のように冷え切っていた。 カーテンを閉め忘れた窓から、陽が燦々と差し込んでいた。 「やっと出たわね!間に合わないかと思ったわ!」 電話の主は志乃ママだった。 昨日の夜に、ケンちゃんという人が飛び降りたビルの前で別れたきりだった。

          色彩の闇26

          「どうしてもわからないんです。愛するって、愛されるって、どういうことなんですか? 私はなぜ…、どうして直也さんに愛されなかったんですか? 私は…父に、母に、愛されて育ったんでしょうか…?」 唐突な質問にもかかわらず、直也は静かに答えた。 まるで美沙からその言葉を聞けて嬉しいかのようだった。 「愛とは、感謝だよ。」 一瞬、勢いを殺し考えたが、さっぱり解らなかった。 感謝とは、なにかしてもらった時にはじめて感じる感情で、それと愛が結びつくとは到底思えなかった。 だとすれば、

          色彩の闇25

          深夜、たまらない気持ちになって眠れずベッドから起きた。 目を閉じれば、いろいろなことを思い返してしまうし、そのどれもが、解決策などないように思えた。 目の前にいた人が、その1時間後くらいには帰らぬ人になっていたこと。 志野ママとガクのこと。 裏切られたと知ったときのリエさんのこと。 そしてなにより…直也のこと。 あれから一度も連絡していない。 あの日、浴室から出ると直也はバスローブ1枚のまま薄暗い部屋で机に向かってパソコンを開いていた。 音楽が小さく鳴っていた気がしたが、な

          色彩の闇24

          「こんばんは…。」 「あら、いらっしゃい。リエさん後から来るの?」 「いいえ、…今日はひとりです。」 「……ふーん。ま、いいわ、ここ座んなさいよ。」 「ありがとうございます。」 美沙がひとりでオカマの志乃ママの店に来たのは初めてだった。 最後のステージが終わるのが23時30分で、その後に後片付けや翌日の支度などをすると、あっという間に午前0時を過ぎる。 最後の客がエレベーターに乗り込み、閉店を知らせる音楽が止まると超特急で帰り支度をする黒服たちに、いつも急かされて店を出るの

          色彩の闇23

          直也の自宅は、築20年ほどの7階建てマンションの2階にあった。 エントランスはいつも薄暗く、集合ポストにはたくさんのチラシが挿さったままで、いつからそこにあったのか見当もつかない自転車が数台、そのカゴはゴミ箱代わりにされていた。 人の気配があまり感じられない、人を避けるようにさえ感じられるその建物を訪れたのは、2回目だった。 エレベーターはずっと1階に止まったままなのか、室内は節電対策らしく真っ暗だった。 その横に雨水に晒され、段ごとに水溜りができているコンクリートの階段で美

          色彩の闇22

          外は土砂降りだった。 文字通りバケツをひっくり返したような雨粒が一斉に道路を叩きつけていた。 普段なら我先にと追いかけてくる客引き目的のホステスや、慣れない繁華街を地図を頼りに上を向いて歩く観光客を、ボッタクリの店へツナぐ男たちは、皆、軒下に避難していた。 路肩に芸術的とも言える間隔て複数列で駐車していた空車のタクシーは次々と客を乗せてあっという間に消え去り、街は目的地へ急ぐ傘を持った少数の人間だけが視界のぼやけたネオンに影を落としていた。 その中で、この街では有名店の、有

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          「よ!美沙おつかれ。」 「あ、ガクちゃん!楽屋にいるなんて珍しいね。いつも終わるとすぐに帰るのに。最近なんだか副業の方が忙しいって噂聞いたよー。」 「あぁ、それな。リエには内緒に頼むよ。」 「そうなの?どうして?」 「いろいろ複雑な事情があるんだよ…。それよりお前はどうなんだよ。彼氏出来たか?。」 「なにその展開…。」 「なぁ…お互いに内緒の共有をしようぜ!な、いいだろ?」 美沙は急に馴れ馴れしくしてくるリエの恋人、ガクの言葉に警戒した。 そしてそれと同時にこれはリエの差し

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          「運転手さん、悪いんだけどやっぱり繁華街に戻ってくださる?」 「あ、はい。かしこまりました。」 呼吸も整わないまま、リエはケータイを閉じ、タクシーの窓の外に視界を移した。電話の相手は一緒に住んでいる恋人のガクだった。 今夜は早く帰って子供達の面倒を見ると約束していたが、その子供達が寝静まるとすぐに外出し、オカマの志乃ママの店で飲んでいるという…だからこれから来ないかという誘いの電話だった。 誘ってくれるなんて珍しい…。 確かに約束は守ってくれたかもしれないけど、家で待ってて

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          「おいで、身体を洗ってあげる。」 直也が真っ白な視界の浴室から、真っ暗な視界の部屋の中に声を掛けた。 机の上にある照明だけが、部屋の中をぼんやりと映し出し、もぞもぞとシーツの波を泳ぐ白い肌が水飛沫をあげた。 「だっこしてくれないとそこまで行けませーん。」 「やれやれ、手間のかかるお姫様だね。」 「ふふっ、今日は甘やかしてくれるって言ったもーん。」 「そうだったね…よいしょっと!」 泳ぐ白い肌は、直也の長く細い腕に水揚げされた。 抱えられた足がピチピチと楽しそうに跳ねた。

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          その時、直也の指先が未知の感覚を捉えていた。 触れられただけで美沙の身体はビクッと跳ね上がり、その指先から反射的に逃げようとした。 しかし直也にとっては想定内だったようで、もう片方の手で美沙の腰をがっしりとベッドに押し付け、諸刃の意思を容易く封じた。 細く長くしなやかな指先が、その部位を宥めるようになぞった。 1本1本の皺を丁寧に撫でるように、その中心の蕾に狙いを定めていた。 指滑りが悪くなると、その真下にある秘壺からぬめぬめとしたものを手繰り寄せ、再びそれを繰り返した。 美

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          「良い子だ。…状況を報告して。」 直也は見たこともない表情をして見せた。 それは満面の笑みともとれるし、なにかに打ち震えているようにも見えた。 確かなのは、美沙が放った言葉が、直也の何かを触発した事だった。 呼吸が徐々に荒くなり、美沙への愛撫が非常に情熱的になっていった。 「彼は…私に過去の…忘れら…女性…を重ね…した…。」 「どうした?…ちゃんと説明してくれないと困るよ。」 そう言った直也が愛撫を止めるものではなかった。 つまりは、この状況下での報告を楽しんでいるよう

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          「いらっしゃい。」 「…おじゃまします。」 初めて訪れた直也の部屋は、12畳ほどのワンルームで、間接照明と机の上の照明だけが灯され、暫し目が慣れるまで時間を費やすほどの暗さだった。 しかし目を凝らすと、そこらじゅうにギターが立て掛けられ、洗濯機の横に高そうな自転車があったり、キックボードが置いてあったり、サッカーボールが転がっていたりと、つまりはベッドの上と机の下しか余白がない様子だった。 「足、躓かないようにね。ほら。」 直也は美沙の手を取り、ベッドの上まで誘導した。