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色彩の闇24

「こんばんは…。」
「あら、いらっしゃい。リエさん後から来るの?」
「いいえ、…今日はひとりです。」
「……ふーん。ま、いいわ、ここ座んなさいよ。」
「ありがとうございます。」

美沙がひとりでオカマの志乃ママの店に来たのは初めてだった。
最後のステージが終わるのが23時30分で、その後に後片付けや翌日の支度などをすると、あっという間に午前0時を過ぎる。
最後の客がエレベーターに乗り込み、閉店を知らせる音楽が止まると超特急で帰り支度をする黒服たちに、いつも急かされて店を出るのが日課だった。
もともと人付き合いに積極的ではない美沙は、誰かを飲みに誘えるわけもなく、だからといって直也のように一人で寛げる店もない。
リエさんのアフターがなければ毎日まっすぐ帰宅する優等生なのだが、今夜は違った。

消化しきれない鉛のようなものを胃にずっしりと感じていた。
しかし誰に話せるものでもないので、そういう事を察して言及してこないのは、ママしか思い当たらなかったのだ。
案の定、ママは目の前に飲み物を置いたら、さっさと売上になりそうな客のところへ行ってしまった。
どう見てもなにか訳ありの様子の美沙を、承知で放って置いてくれたのだ。
こういうのが、とても有り難い…。

店内はカウンターに男女2人ずつ、カラオケで盛り上がっているグループと、後ろのボックス席には、酔い潰れて眠ってしまったらしいサラリーマンが一人いた。
いわゆる懐メロを機嫌よく歌う平均年齢50代くらいのカップルたちを、ママは上手に煽ってどんどん酒とツマミを追加させていた。
お世辞にも上手と言えない歌でも、いまの心境のBGMにはちょうど良かった。

今夜は一杯だけ飲んだら帰ろう。
そう思っていた。
お会計をお願いするためにママに目配せをしたら、小さなメモを渡された。

《話があるから、ちょっと付き合いなさい。》

ママがこんなことを言ったのは初めてのことだった。
だがいまの美沙に人の話を聞く体制など整っていなかった。
体調が悪いと言おうか…。それとも用事があると言おうか…。
いろいろと考えてみるも、どれも白々しい感じがした。
だいたい一人で今日、ここにいること自体が不自然なのだ。
そのことを心配されて付き合えと言っているわけではない気がした。
そこまでこのママはお節介ではないし、だいいち金にならないことを深追いしない。
それに日頃お世話になっている人だけに断ることはできなかった。
美沙はメモをポケットにしまい込み、店の閉店まで待つことにした。

カラオケで盛り上がっていた4人がお会計を済ませて帰る頃、いつの間にか後ろのボックスで眠っていたサラリーマンが消えていた。
トイレに席を外した間に帰ったのだろうと思っていた。
そうしてグラス類を流し場に置いただけの、簡素な後片付けを済ませたママが、毛並みの気持ち良さそうなショールを着物の上から羽織って、美沙を促した。
思えばママと二人きりになることも初めてだった。

ママは同じ階の、まだ営業している店のドアを開け、簡単に挨拶をしてまわった。
「こういうちょっとした挨拶がご近所では大切なのよ、アンタももう少し機転がきかなきゃね。」
この街で2番目に大きいキャバレーの、看板歌手でVIP専用の接待係でもある美沙に、なんというお節介だろうと思った。
あぁ、でも確かにママは仕事中の美沙を見たことがなかったのだったと思い出した。
ここに来るときはリエさんにとってはアフターという仕事中でも美沙は、《居るだけ》の、アクセサリーくらいにしか見えないのだろうと思った。
ここは素直に聞き入れるふりをしようと思った。
しかしこの調子でいろいろと説教されたのではたまらないので、まだ向かう先は解らなかったが、歩きながら話を切り替えることにした。

「ママが私に話があるって珍しいというか、初めてですよね。なにかあったんですか?」
「…そうね、どうしようか迷ったんだけど、アンタは口が固そうだから話しちゃうわ。」
「ということは…リエさんのことですか?」
「…シッ!どこで誰が聞いているかわからないじゃない!店に着いたら話すわよ!」

そういってママはこれまで以上に足早に歩き出した。
女性用の着物を着ているといっても、やはり脚力は男性だと美沙は思った。
ついていくだけで息が切れた。
そうして着いた先は、繁華街のはずれに位置した雑居ビルの一番奥でひっそりと営業している、いや営業していることすら傍目からは解らない店だった。
行灯が出ているわけでもない、暖簾が出ているわけでもない。店の名前すらどこにもなかった。
入口さえ店内を覗くこともできない磨りガラスで囲まれ、薄暗く、どちらかというと気味が悪い…そんな印象を受けた。
ところが店内はびっしりと人がせめぎ合っていた。
こんなに人がいるのに店内は実に静かだった。
皆、小声で話し、新たに入って来た客には興味もない様子だった。
ママはここの常連らしく、店主はカウンターの一番奥の席を指差し促した。

「ここはなんでも美味いのよ。びっくりするわよ!好きなもの頼みなさい。」
「あ、はい、ありがとうございます…。」
「その代わり、この店のことはリエさんには言っちゃダメよ!いいわね?」
「は、はい…。」

つまりは、ママにとっての隠れ家なのだと察した。
ママにとってのリエさんは金蔓だ。
店の休みの日以外は、ほぼ毎日金持ちの客を連れてアフターに来てくれるので、ママにとっては店の売上の半分以上をリエさんから頂いている計算だろうと思う。
そのリエさんの言うことはママにとっては絶対だろうし、どんなわがままも聞き入れているだろうが、そうすると不満も溜まって来るのかもしれない。
そんな時にここに来て、愚痴を消化しているのだろうなと美沙は思った。
水商売の序列をひしひしと感じていた。

ママがびっくりすると言ったこの店のお通しは、本当に驚くべきものだった。
すし職人が尻尾を巻くのではないかと思うくらい、豪華で美しい刺身の盛り合わせが出て来た。
これがお通し…?!これ、伊勢海老だよ…ね?
これだけで3000円くらいしそうだけれど、この店の雰囲気と全く合ってない。
薄暗く汚くて古い。そんな場末感満載の店で、こんな見事なものが出てくるとは。
そのギャップに興奮した美沙は、店主にその喜びを素直に伝え、嬉々として楽しんでいた。
店主は照れ臭そうに頭を下げ、奥へ引っ込んでいってしまった。

「アンタに、そんな側面もあったのね、そっちの方がびっくりよ。」

あっ…。
かつて直也にも同じことを言われたことを思い出した。
ちゃんと感情を出せていない、だから歌がつまらないんだと…。
あの時はじめて人前で大泣きした。
自分ではどうすることも出来ずに過呼吸にまでなったのを、直也が優しく介抱し、そして初めて抱かれた日でもあった。
あの時も、直也が唐突に作ってくれたスープパスタが驚くほどに美味く、嬉しくてそれを素直に伝えたことがきっかけだった。

「そんなに…愛嬌ないですか?私…。」

思わず口から出てしまった。
こんなことを言ったら、何かあったのかと探られてしまう…!
いつも通りに、なんでもないフリをしなければ。
自分の感情を即座に整理して平静を保つ、そして場に溶け込む。
美沙はそれが自分らしさだと思っていた。

…えっ、つまり、これが私の悪い…ところ?
直也さんが言っていたのはこのことなの?!
自己完結してしまっている美沙を見て、ママはフッと笑った。

「そうね、ちょっと…ナニサマに見えるわね。」
「そ、そんなつもりは…!」
「アンタは自分の仕事に誇りをもってやっているでしょうけど、こちらから見たら、場末の歌手よ。飲み屋のBGMよ。なのにお高いところで微笑んでやり過ごそうとしている。アタシたち庶民とは違うのよってオーラを感じるのよね。そこが虫唾が走るわ。」

さすがオカマ、言いたい放題だ。
それは水商売歴の長いママの言い回しに、悪意はまったく感じられなかったからかもしれない。
驚くより先に、傷つくより先に、感心してしまった。
なんだか爽快感さえ感じた。
美沙はなんだかたまらなく可笑しくなって笑っていた。
声をあげて涙目で笑っていた。
ママも一緒になって笑ってくれたことで、いつの間にか胃の中の鉛が少し軽くなった気がした。

「そんな風に言ってくれる人はいませんでした。ありがとうございますママ。」
「あら、言っていいなら今度からいつも遠慮なく言うわよ。」
「ぜひそうしてください。あー、なんかスッキリしました!」
「そう…それは良かったわ。」
「私、小さい時から目立つな、言葉を選んで喋ろ、歯向かうなって言われて育ったので、自分の感情をうまく外に出せなくなっていたんだと思います…。」
「…アンタも見かけによらず苦労してんのね。」
「いえいえ、それが当たり前だと思ってました、つい最近まで。」
「つい最近?」
「ええ、ある人に《おまえの歌はつまらない。》と言われたんです。」
「まぁ…!私より毒を吐くじゃない!…でもついでに言うわね、その通りよ。」
「…ママまで?!」
「でも本当のことを言ってくれる人って貴重よ…。歳をとるとね、だんだん誰も言ってくれなくなるのよ。どんなに仲良くしてもよ。さみしいわ…とても孤独よ。」
「……そうなんですか。」
「…そうしたら今度は私の話を聞いてくれるわね?」
「あ、そうでした!はい、聞きます。誰にも言いません!」

美沙は姿勢正しくしてグラスを飲み干した。
さっきまでジョッキ一杯のビールが重く、拷問にさえ感じていたのに。
ところが今度はママのほうが、重い溜息を全身で表現していた。
ママは店の奥の方に視線をしばらく置き、その次に意を決したように美沙の方へ向き直った。
その表情は固く、なにかを覚悟したようでもあった。

「話というのは、リエさんのとこのガクちゃんのことよ。」
「あぁ、ガクがどうかしたんですか?」
「いま…アタシの部屋にいるのよ…。」
「…えっ?!」
「出て来ちゃったのよ…リエさんの家から。」
「…それって、リエさんと別れたってこと…ですか?」
「そのようね…。ある程度の荷物持ってきたから、そうみたいよ。」
「いやいやいや、それがなんでママの家に居るんですか?」
「行くところがないから、泊まるところもないから暫く置いてくれって言われてね…。」
「だからって!…リエさんに連絡したんですか?」
「してないわよ!…してたらアンタに話さないわよ!」
「…そう、ですよね。」

美沙は背中に鳥肌がたったのを感じた。
それほどに、この事態は恐ろしい結果になることが火を見るより明らかだからだ。
リエさんがガクのことにどれほど執着しているかは、ママだって十分知っていた。
そのガクがリエさんと一緒に住んでいた家を出て、よりによってママの家に来たというのは何故なんだろう?
ガクはそれなりによくモテるほうだと思う。
泊めてくれる女くらいは困らない程度にいるだろう。
なのになぜ、よりによってママなのだろう?
ママはどんな気持ちでこれを受け容れたのだろう?
リエさんのことには絶対のはずのママが、リエさんが最も大切にしているガクを、…お預かりしている?!
勢いで出て来てしまっただろうから、少し落ち着かせてリエさんの元に戻そう、そう考えているのだろうか?
だったら私に言う必要などないだろう、そうじゃない。そうじゃない!
これは…もしや…。え、…まさか!

「えっと、ママとガクはいつから…?」
「さすが察しがいいわね。」
「…っ!…ママ!それって!」

思わず立ち上がり、声を荒げてしまった。
狭い店内を肩を寄せ、ひしめき合っていた客たちが怪訝な表情でこちらを一斉に見た。
美沙は小さな声で謝り、席に座り直した。

「何度かガクちゃんひとりで飲みに来てたのよ。リエさんのボトルが空いたら帰るって感じでね…。ヒモはヒモらしくしなきゃっていつも寂しそうに笑ってたわ。最初は自分の立場をよく解ってるじゃないと感心してたんだけどね、そのうちいろいろ話を聞いてたら…可哀想になってきちゃったのよ。」
「ガクが…可哀想、ですか?」
「そうよー。アンタも知らないみたいね。リエさん子供が2人もいるのよ、一人は小学生で、もうひとりは障害があるらしいわ。その子達の面倒をリエさんは一切見ないそうよ。」
「えっ…?じゃあガクが?」
「そう、ヒモでもこのくらいは出来るでしょって。家に住まわせて、お金も出してるんだからこのくらい当然よねって。手のかかる子供ふたり面倒見るって、思ってるよりずっと大変なのよ、家事は通いの家政婦さんが来てくれるらしいけど、ぜんぜん自分の時間がないってぼやいてたわ。」
「そうだったんですか…ぜんぜん知りませんでした。」
「リエさんは怖い人よ…。お金で縛りつけるもの。散々欲しいもの買い与えて、贅沢させて、美味しいものたくさん食べさせて、ちゃーんと労力で返せと要求してくる人だもの…。毎晩八つ当たりされて、身体を洗わされて、眠るまで添い寝させられてたらしいわ。」
「確かに…怖い人なのは、想像できます。」
「だからこのままだと飼い殺しになると思って、副業を始めたらしいわ。自立してちゃんと生計を立てるために。ところがそれがリエさんにバレちゃったみたいで。」
「あぁ…。勘が鋭いですからね…。」
「それで、刃物持ち出されて、出て行くなら子供を殺すって言ったらしいわ。」
「えっ…?!自分の子ですよね?ガクとの子供じゃないですよね?!」
「そうよ…。あの人いくつか知ってる?!相当若作りしてるけどもう50過ぎてるのよ…。もう正気の沙汰じゃないわ。それで警察呼んでおおごとになったそうよ。」
「それで警察の人が少し距離を置いて冷静にって、宥めてくれたおかげで出てこれたって。」
「子供たち…どうしてるんですか?」
「近くに妹さんが住んでいるから、そっちに避難させたみたいよ。」
「それは安心ですね…でもどうするんですか…!いずれママのところに居るってバレますよ…?!」
「そうよね、そうなったらうちの店はもうおしまいよ。」
「それで…済みますか…?」

ママの顔から色が無くなるのが見えた。
それもそのはず、リエを裏切ったと本人に知れた時、彼女がどんな行動を起こすか計り知れないからだ。
リエにとってこの志乃ママは従順な召使い同然だった。
ママの店の閉店時間は午前1時にも関わらず、リエが客を連れてくると気が済むまで営業しなくてはならないし、
他の店でアフターをした後にも、アフターのアフターと称して、この店で飲みなおすということが常だったので、だいたい朝まで営業していた。
ママは数年前から痛風を患い、自分でお酒を飲んで売上を稼ぐことができなかった。
酒の飲めないママが稼げる金額などたかが知れている、そこにリエは目をつけたのだ。
毎回この店には不似合いな金額を、客が支払っていたのは美沙も何度か目にしていた。
それらは、リエへのキックバックが加算されていたからだと聞かされた。
だいたい20%で、リエの合図次第では40%まで引き上げられた。
そうしてほぼ毎日、違う客を連れて来ては、その客が気が済むまで接待し、自分の稼ぎにしていたのだ。

しかし店が潰れるくらいならまだマシだろうと美沙は思った。
リエの気性はよく知っている。
彼女は自分のモラルを持っていた。そのモラルに反したものを全力で潰す傾向にあった。
少し前、リエが乗車したタクシーの運転手が、リエが頼んだことを拒んだとかで、彼女は憤慨し、そのタクシー会社自体をグランドハイツの前で空車待ちすることを禁止にしたのだ。
グランドハイツは繁華街のど真ん中にあり、ここで空車待ちができないということは、この街のメインストリートで客を捕まえられないということになり、タクシードライバーとしては大損害となった。
タクシー会社の社長および幹部らしき人たちが、平身低頭でリエの席で姿勢正しく飲んでいた光景を美沙もステージから見ていた。
それは、数日に及んだが徒労に終わったようだった。
いったい、どんな力を使ってタクシー会社に圧力をかけたのかは誰も知らなかった。
ただ、周囲にはリエを怒らせるとこうなるという見せしめのような形となった。

果たして、今回のことがリエの知るところとなったとき、どんな報復が待っているか考えただけで背筋が凍る思いだった。
しかしガクはどうしてママのところへ行ったのだろう?
彼はノーマルだったはずだ。ママは…ちがうはずだし…。
いったいどういう経緯でこうなったのか聞きたくて仕方がなかった。

その時、店にすごい剣幕で入って来た男がいた。
「おい…っ!ケンちゃんがツインビルから飛び降りたぞ…っ!」
「えっ?!」
一番先に立ち上がり反応したのは志乃ママだった。
「やだ!さっきまでうちの店で酔っ払って寝てたのよ!」
「なんだって?!それからどうしたんだ?!」
店主も常連客もみな気もそぞろにママに注目した。
どうやらケンちゃんというのは、さっきボックス席で酔って眠っていたサラリーマンのことのようだ。
そして彼もこの店の常連だったようだ。
小柄ではあったが仕立てのいいスーツを着て、靴をきちんと揃えた状態で眠っていたのが眼下に蘇った。
育ちの良さそうな、良い企業にお勤めのサラリーマン、そんな印象だった。
突然のことに、誰もが動揺を隠せないでいた。
「連絡もなくふらっとやって来て、1杯も飲まないで寝ちゃったのよ。そうしたら急に起き上がって、帰るといって帰ったのよ。」
「様子がおかしかったとかないのか?!」
「…そうね、アタシの店に来たこと自体がおかしいわね。今まで一度も来たことがなかったもの。いつもここで会うだけだったから。」
「どうしたってんだ…!なにか思いつめていたなんて全然わからなかったぞ…!」
「ねぇ、ケンちゃんの身元とか、誰かわかるのかしら?」
「とにかく警察も野次馬もすごいことになってるが、行ってみるか?!」
「そうね!近くまでいきましょう!」

そうしてケンちゃんを知る客や店主たちは急いで現場まで向かった。
飛び降りたであろうツインビルは、この店とママの店のちょうど中間くらいに位置した。
7階建の飲食店と風俗店が混在している2つのビルは、3階、5階、7階に連絡通路があり、常に人の出入りが激しく、どんな事情を抱えた人間であっても呑み込んでしまう建物だった。
しかし建物のだいぶ手前からテープで遮られ、複数の警官が両手で野次馬たちを制御していた。
赤灯を照らした車が何台も防波堤のように壁をつくり、どんな状況なのかまるで解らなかった。
たくさんのフラッシュが焚かれ、道路にアルファベットのプレートのようなものが複数置かれているのが見えた。
関係者の焦点の先から、きっとあの辺りというのを察することができた。

「ケンちゃんって人とは、仲が良かったんですか?」
「そうね、あの店で知り合って、アタシが痛風になるまでよく一緒に飲んだわね…。」
「なにか…あったんでしょうね…。」
「…あんな店に入り浸っていたけど実はエリートなのよ、ケンちゃんは。あとちょっとで定年だった筈なのに…。なにがあったのかしら…。こんなことになる前に相談してくれたって…ひどいわ。」

いつの間にかママが、近くの警官に自分が関係者だと告げ、状況を説明するように頼んでいた。
しかし突然の飛び降り自殺のため、身元を知るママや店主たちは、警察署で説明をすることになった、
美沙はここでママと別れ、後日店に行くことを伝え、自宅へと帰ることにした。
その日は、季節の割に気温が高い夜ではあったが、湿度が高くいまにも雨が落ちてきそうな不快な天気だった。

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