見出し画像

色彩の闇25

深夜、たまらない気持ちになって眠れずベッドから起きた。
目を閉じれば、いろいろなことを思い返してしまうし、そのどれもが、解決策などないように思えた。
目の前にいた人が、その1時間後くらいには帰らぬ人になっていたこと。
志野ママとガクのこと。
裏切られたと知ったときのリエさんのこと。
そしてなにより…直也のこと。

あれから一度も連絡していない。
あの日、浴室から出ると直也はバスローブ1枚のまま薄暗い部屋で机に向かってパソコンを開いていた。
音楽が小さく鳴っていた気がしたが、なんの曲か覚えていない。
仕事をしていたのか、他のことをしていたのか、そんなことも確認できないほど、身につまされる想いだった。
大口を叩いたのに、最後には自分の我を選んでしまったことに負い目を感じて、濡れたままの衣服に袖を通し、そっと家を出た。

直也は試したのだ。
私が言っていることが本意かどうか…、いや、たぶん本意ではないと解っていたのかもしれない。
それを私に思い知らせるために、あんなことをしたのかもしれない。
確かに直也の言った通り、私の好きは押し売りだったのだろう。
もうなにも返す言葉もなかった。
もう直也のことが好きなのかどうかもわからなかった。
ただ…。

この体の疼きはなんだろう。
直也から与えられた行為は、どれもこれもがノーマルと言えるものではなかった。
むしろアブノーマル、変態がする行為そのものだった。
優等生気質の美沙にしてみれば、避けて通りたい世界だった。
知らなくて済むなら、知らずにいたかった…。
なのにその傷なき傷痕が、夜な夜な疼き出していたのだ。
なにも気持ちよくなかった、そこに快楽などなかった。
なのに、なぜ私の身体はそれを求めているのだろう…。

ただ、寂しいのかもしれない。
そうだ、そうかもしれない。
身体が、体温を求めているだけかもしれない。
この仕事を始めて、ずっと恋愛はしていなかった。
特定の恋人も作らなかったので、SEX自体もしていなかった。
それが直也によって火を灯されただけー

いつものように自分の感情を即座に整理して、平静を装おうとしたが、それが欠点だと指摘されたばかりだったのを思い出し、首を振った。
あぁ…だったらどうしたら…。
適当な男と、排泄のようなSEXをするのは絶対にいや。
そんなことをしたらどんな噂を流されるかわからない。
仕事がしにくくなるのは堪えられない。
この街で暮らせなくなってしまうかもしれない。
でも、だからといってアテがあるわけでもない。
もやもやと考えるも、自然と指先が自分の敏感な部分に導かれてしまう。
ほんの少し触れただけなのに、獣のように飢えた粘液が音をたてる…。

どんどん息が荒くなり、指先に力が入る。
しかし慰め方を知らないので、昇ることができない…イライラが募る。
あの時…直也さんは…どんな風にした…?
私の意思を無視して、どんどん指を追加していった…。
そう、少し痛みもあって…少し排泄感もあって…そして…。
あぁ、助けて…直也さん…私を、助けて…。

息も切れ切れのまま、携帯の番号を押した。
こんな、こんな私を、彼がどう思うかなんて考えられなかった…。
この状況を鎮めることができるのは、直也しかいなかった…。
呼び出し音が鳴る。まるで全速力で走っているように息が切れている。

直也さん…直也さん…直也…。

やはり私は直也さんが好き!
直也さんがしてくれたことが嬉しかった。
今でもすべて思い出せる。
もっと酷いことをされたって、もっと怖いことを命令されたって、
私きっと、受け容れられる!…時間はかかるかもしれないけれど…!

お願い…直也さん、私を愛してください…。

身体の熱量と共に、涙が溢れた。
下半身は淫らな音を立てているのに、胸が熱くてたまらなかった。
何度も呼び出し音が鳴った。
回を追うごとに、美沙の中の感情が真意へ変わっていった。

お願い…お願い…出てっ…!

咽び泣くような声が受話器を通して自分に圧し返ってきた。
この想いを、どうすることもできなかった。
ただただ、いま直也に聞きたいことがあった。
その一心で、呼び出し音を鳴らし続けた。

「……もしもし。」

か細い声で直也が出た。
きっと眠っていたのだろう。こんな夜中だもの当然だ。
しかし美沙の勢いは止まらなかった。

「教えてください直也さん、愛って、なんですか?」


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?