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ひとりぼっちの楽しみ

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2022年に某俳誌に連載していたエッセイです。
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記事一覧

ひとりぼっちの楽しみ④ わたしの料理修行

ひとりぼっちの楽しみ④ わたしの料理修行

 美しき緑走れり夏料理      星野立子

 一九八七年のこと、散歩がてらふらりと入った世田谷美術館で北大路魯山人展を観た。魯山人の陶芸を中心に食通の魯山人の業績が紹介されていた。はじめて触れた世界だった。感化されやすいわたしは、魯山人の本を読み、ささやかな食いしん坊の道を歩みはじめた。美味しい豆腐を買い、魚屋で鯖をさばいてもらってしめ鯖をつくった。
 もちろん陶芸にも手を出した。渋谷にある陶

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ひとりぼっちの楽しみ⑥ パソコンに向かう

ひとりぼっちの楽しみ⑥ パソコンに向かう

 ノートパソコン閉づれば闇や去年今年  榮猿丸

朝4時に目覚ましが鳴る。ぐずぐず起きて、顔を洗う前にパソコンにスイッチを入れる。立ち上がりが遅いパソコンなのだ。ものを書くのは夫が起きてくるまでの朝が集中できる。
 今回、パソコンのことを書こうと思っても、パソコンを詠んだ俳句が思いつかない。そういうときは、グーグルに「パソコン 俳句」と打ちこむ。
トップに出てきたのは「増殖する俳句歳時記」(詩人

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ひとりぼっちの楽しみ⑤ 本を読む

ひとりぼっちの楽しみ⑤ 本を読む

 淋しい寝る本がない      尾崎放哉

 出かけるときにバックに本がないと不安である。東京へ行くときは、往きと帰り用に2冊もっていく。たいてい出かけた先で本屋に入るので、帰りに本は4冊か5冊に増殖して、重いバッグを担いで帰ってくることになる。
 車で近くに買い物へ行くときにも本をもつ。夫が「すぐ帰って来るのに」というが、世の中はなにが起こるかわからない。車の事故で警察を待つあいだとか、隕石が

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ひとりぼっちの楽しみ③ 佐藤初女さんの思い出

ひとりぼっちの楽しみ③ 佐藤初女さんの思い出

おむすびは心のかたち雪のくに  成田千空

 平成十四年の成田千空の句である。おむすびといえば、佐藤初女さんを思い出す。
 わたしが佐藤初女さんの存在を知ったのは、龍村仁監督の「地球交響曲第二番」(一九九五年)に佐藤初女さんが出演され、話題になってからだ。
 初女さんは、こころ苦しく迷っている人たちの話を聞いて一緒にご飯を食べるという活動をしていた。岩木山の麓に「森のイスキア」という宿泊できる活

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ひとりぼっちの楽しみ② 山登り

ひとりぼっちの楽しみ② 山登り

 頂上や風入れてゐる登山靴   太田 土男

 ある日、大学生のわたしは急に山登りに目覚めてしまった。
大学の図書館。美術コーナーで本をパラパラ見て暇つぶしをしていたとき、ぐうぜん辻まことの山の画文集を手にとった。イラストのような軽みのある山の絵に魅かれ、辻まことのほかの本にも手をのばす。図書館をでたころには、わたしは辻まことに恋をしていた。
 辻まことは、イラストレーターで雑文書き、山スキーの

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ひとりぼっちの楽しみ① 映画が好き

ひとりぼっちの楽しみ① 映画が好き

ロシア映画みてきて冬のにんじん太し    古沢 太穂

 子どものころからの趣味は映画である。いまでも月に一回は映画館に行き、休みの日はインターネットで映画を観ている(家事もしないで日に三本観ることも)。
映画を観はじめたきっかけは、アンナ・パブロワというロシアのバレリーナだ。小学生のわたしは、テレビでアンナ・パブロワの「瀕死の白鳥」を見て、こんなに美しいものがあるのかと感動した。そのことを学級

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