38日目 あじさいとOKサイン

お隣ベッドさんが明日退院することになった。私のベッドのそばに来ては、軽く世間話をしてくれる奥様だった。棚に貼ってあった猫の写真を見て、うちにも猫がいるのと、嬉しそうに教えてくれた。お隣ベッドさんはすでにゆっくり歩けるようになっていた。退院できることになって喜んでいた。私まで嬉しくなる。でもなんだか少しだけ、寂しい。

創洗浄の担当した看護師さんははつらつとしている若い男性だった。一見ちゃらいが、細かいところに気がついてくれる。(でもたまにうっかりすることもあって、ほかの看護師さんに呆れられてる)週末に実家に帰って親孝行したんっすよ、と言っていた。誇らしげだった。素直にえらいなと思った。

作業療法リハビリでは感覚テストをした。左手のいろんな場所を細長い糸のような棒のようなもので、つんつんとつついて、感覚があるかないかを確かめる。感覚が鈍いところは、つつかれているのに感じない。細部まで丁寧にみてもらった。

親指の運動の成果がでた。今までできなかったOKサインの形ができるようになったのだ。親指と薬指がにぎりぎりつくくらいにまでになった。あと、肘を伸ばしきっても痛くならないようになった。

リハビリテーションルームから病室に戻る時、外の空気を吸いにいきましょうと誘われた。外に出られる!車いすを押してもらい、病院の外へ。暖かい風、空気、梅雨の匂い、セミの声。日射しが強く、熱い。青空に入道雲、花壇にはローズマリー、あじさいが揺れている。自然の中に包まれる、ひととき。

理学療法リハビリはPTさんがベッドサイドで足の運動を指導してくれた。

その後、レントゲンを撮る。左手の中指だけ、他の指よりかたいのが気になっていたので、調べることになっていたのだ。もしかしたら、骨折しているかもしれない。

言語聴覚療法リハビリは、リハビリテーションルームとは別の、小さいリハビリ室で行われた。CDラジカセを使う。男の声が流れ出す。「ド・ポ・ゴ・ト・コ」の5種類の音がランダムに聞こえる。その中で「ト」が流れた時に、合図をする、集中力テストだ。私の合図は、「テーブルを右手でたたく」。

夕食前にお母さんがお見舞いに来てくれた。ヨーグルトやプリンを冷蔵庫に入れておいてくれた。蓋つきじゃなくていいよと言っていたのに蓋つきのコップを買ってきてくれた。買ってきてほしいと言っていないのに洗口液を買ってきてくれてありがたかった。

寝る前に、今日のレントゲンの結果を伝えに、整形外科の担当の先生が来てくれた。左手の中指は、第二関節の骨が欠けていたらしい。欠けたものが邪魔しているのか、腫れが邪魔をしているのかわからないが、動きがかたいのはそういう理由が考えられると。

指一本、ちょっと不自由になるかもしれない。でも手首がくっついたんだから、それだけでもありがたいと思う。大丈夫、ピアノは中指がかたくたって、弾けるよ。弾ける指で弾けばいいのだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?