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ミスチルが聴こえる(短編小説)

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Mr.Childrenの曲を聴いて浮かんだ小説を創作します。 ※歌詞の世界観をそのまま小説にするわけではありません。
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2022年6月の記事一覧

いつでも微笑みを(短編小説「ミスチルが聴こえる」)

いつでも微笑みを(短編小説「ミスチルが聴こえる」)

「今の時代は風が吹いている。だから戦争は起こるし、疫病でたくさんの人が死んでいく」
「その風を止めることはできないの?」
「できない。自然現象に逆らえば死ぬだけだ。我々は風が吹く中を生き抜かなければならない」
「でも、そんな状況で生きていくって辛いよね。正直、これ以上人間たちが不幸になっていく姿を見ているのは胸が痛むよ。どうにかならないの?」
「残念ながら、この状況を変えることはできない。これは神

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君が好き(短編小説「ミスチルが聴こえる」)

君が好き(短編小説「ミスチルが聴こえる」)

 清風は青い春を巻き起こして、僕らを一歩前へ踏み込ませてくれる。それは偶然吹くかもしれないし、必然的に吹くかもしれない。だけど、いずれにしても僕は行動しないといけない。何もしないと始まらない。
 今日、僕は君に想いを伝える。

 風は背中を押す自然現象。それは物理的にも、精神的にもグッと前へ進ませてくれる。
 そんな風が吹いている日に、告白しない理由はない。
 好きな気持ち、伝えよう。俺は息を整え

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ファスナー(短編小説「ミスチルが聴こえる」)

ファスナー(短編小説「ミスチルが聴こえる」)

「好きです、付き合ってください!」
 告白しちゃった。三年間ずっと好きだった。頑張って距離縮めて、だけどなかなか想いを伝えられなくて、もどかしい時間を過ごした。いや、それじゃあいけない! となんとか自分を奮い立たせて、放課後空いてる? なんて意味深な誘い方しちゃって、授業中もずっとドキドキしちゃって、死ぬかと思ったけどここで死んだら告白できないだろ! ってやっぱり自分を奮い立たせて、やっと放課後に

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渇いたキス(短編小説「ミスチルが聴こえる」)

渇いたキス(短編小説「ミスチルが聴こえる」)

 朝、僕が家を出たのは仕事へ行くためじゃない。おそらく、この現実が嫌になったからだろう。何を客観的に見ているんだと自分自身を責めたくなるが、そうでもしないと理性を保てそうにない。
 

 いつからだろうか。僕と君の間には見えない壁があって、それを打ち壊そうとするどころか、その壁は日が経つごとに分厚くなっていった。
 僕に突然の進化が訪れたわけじゃない。僕は毎朝ドリップして淹れたコーヒーを飲み、今時

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ユースフル・デイズ(短編小説『ミスチルが聴こえる』)

ユースフル・デイズ(短編小説『ミスチルが聴こえる』)

 サンシャインエブリデイ、だったかな。彼女がよく呟いていた言葉が、僕は好きだった。
「いつだって、気持ちは晴れやかでいないとダメだよ」
 あの頃の僕はよく不満を嘆いたり愚痴をこぼしたりして、自暴自棄気味になっているところがあった。そんな僕に彼女は「あつ君はいつも暗いよ」と言って、「もっとポジティブに生きようよ」と初夏の陽射しみたいに眩しい笑みを浮かべていた。
「そうだね。芽衣ちゃんの言う通りだ。僕

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ハレルヤ(短編小説『ミスチルが聴こえる』)

ハレルヤ(短編小説『ミスチルが聴こえる』)

 あの先に眠る光の魂は、僕を照らしてくれるだろうか。
 聞こえてくるのは潮騒、それからゆったりとした風が吹く音。どちらも音色は美しい限りだが、穏やかさの反面凶暴になってしまう二面性を知っている僕は、決して人間とは調和できないことを悟ってしまう。
 君が死んでから二年が経つが、僕はいまだに晴れた空を見た記憶がない。君があまりにも突然いなくなってしまったせいで、僕は君の物語が終わった実感を持てずにいる

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友とコーヒーと嘘と胃袋(短編小説「ミスチルが聴こえる」)

友とコーヒーと嘘と胃袋(短編小説「ミスチルが聴こえる」)

「単純な話、嘘は誠だってこと」
 あなたは大学教授ですか? と言いたくなるほど堅物そうに見えるマスターが淹れたコーヒーは、少しだけ酸味が強かった。僕は顔をしかめながら、だけど口では「美味しい」と嘘を吐きながら、さらには「とても居心地がいい」なんて思ってもいないことを口に出している。多分、それが正解だから。そして僕の目の前にいる友人もまた、偽りの仮面を被っていると告白した。それも、包み隠さず堂々と。

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つよがり(短編小説「ミスチルが聴こえる」)

つよがり(短編小説「ミスチルが聴こえる」)

「それで、お前は美月ちゃんのことが好きなんだろう?」
 僕の目の前で苛立っている健は、まるで自分のことのように真剣だった。
「まあ、好きだけど」
 対して僕は、彼の溢れた情熱に引いてしまっている。
「だけど?」
「だけど、近寄りづらいというか」
「どこが?」
「いや、美月はどこか変わり者だし、踏み込めない領域を持っているからさ」
「そんなもの、お前が壊せばいいだろ。何をさっきからブツブツ言っている

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ノットファンド(短編小説『ミスチルが聴こえる』)

ノットファンド(短編小説『ミスチルが聴こえる』)

 見つからない、君の感情。笑っているのに「喜」が見えない。泣いているのに「哀」がない。怒っているのに「怒」を感じない。愛してると僕が言って君は笑うけど、「嬉」も「照」も「愛」もない、まるで誰もいない遊園地みたいな「無」でしかない。
 僕は探す。必死で君自身の感情を探すけど、君はいない。どこかへ飛んでしまったのか。あるいは吸い取られてしまったのか。
 焦って、君を揺すってしまう。どうしてこんなことに

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