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ハレルヤ(短編小説『ミスチルが聴こえる』)




 あの先に眠る光の魂は、僕を照らしてくれるだろうか。
 聞こえてくるのは潮騒、それからゆったりとした風が吹く音。どちらも音色は美しい限りだが、穏やかさの反面凶暴になってしまう二面性を知っている僕は、決して人間とは調和できないことを悟ってしまう。
 君が死んでから二年が経つが、僕はいまだに晴れた空を見た記憶がない。君があまりにも突然いなくなってしまったせいで、僕は君の物語が終わった実感を持てずにいる。
 あれから、確実に月日が進んでいる。不思議なことに、これだけ科学が進歩しても、人類が地球を支配しても、時間軸だけは変わらず、一方向に直進し続けている。今日から明日へ、明日から明日へ。たとえ深海に潜み続けても、僕は常に未来を更新し続けるだけだろう。だから永遠に、君には会えない。君は、未来には存在しない生命だから。
 僕の鼓膜は波の音で震え続けている。頬は温かい涙で濡れる。胸は焼かれ続ける。悲しみの感情は、君がいた頃の記憶ばかり追ってしまう僕を動かし続ける。
 君はもういない。だからこそ、明日が訪れる。
 光の魂は、いつものとおり大海から顔を出し、僕を照らそうとする。僕ら人間は、いずれ死を迎える生き物である。それでも太陽が出てくる瞬間を待ちわびるのは、生きていることに対する賛美の気持ちが存在するからだろうか。
 僕はそっと手を合わせて、明日が来るこの世界に祈りを捧げる。いつかまた、二人で晴れた空を見ることができるように、生きていることを喜び合えるように。
 

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