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若林正丈「『台湾という来歴』を求めて―方法的『帝国』主義試論」若林正丈・家永真幸編『台湾研究入門』東京大学出版会(2020年)

こんなつもりはなかったんですが「おー、なるほどー」、「なかなかやるなー」とすっかり感心してしまったので学術論文ですが取り上げさせていただきたいと思います。ちなみに私は台湾研究者ではありません。

「『台湾という来歴』を求めて―方法的『帝国』主義試論」は、研究者二十七名の論文が収録されている論文集『台湾研究入門』の、「Ⅴ 台湾研究序説のために」と題された最終章を独り占めにしている貫禄のラスボス論文です。

といっても二十ページほどの短いものなので、興味がある方は図書館で借りて目を通していただけたらと思います。この論文には概念図が二つ掲載されていて、著者の言わんとするところを理解する助けになります。ただしそれでも内容が頭に入るかどうかは保証できません。<(_ _)> 申し訳ない

なにしろガチガチの学術論文なので、「論文大好き~♪」だとか「台湾研究命!」みたいな人向けに書かれていて、一般の方が楽しんで読むようなもんじゃないんです。

そんな難解な論文を説明図もなしにどうやって紹介するんだという話なのですが、どうすんねんほんまに。(;^^A アセ

「無理やんこれ…」とたったいま気づいたのですが、せっかくここまで書いてやめるのはもったいないのでもうちょっと続けてみます。

というわけで諸般の事情により細かいところは思いっきりはしょって、できる範囲で解説を試みます。覚悟はよろしいでしょうか。

それでは始めま~す。(太字は本論文からの引用となります)

台湾の民主化後に広まった市民的台湾ナショナリズム(civic nationalism)の台湾史観を反映する時代区分は下記の通りです。

1 オランダ東インド会社時代
2 明鄭時代
3 清朝統治時代
4 日本統治時代
5 国民党政府時代

この「時代」「国家」(的な統治組織)に変身させます。

⑴ オランダ東インド会社
⑵ 鄭氏政権

⑶ 清朝州県制官治機構
⑷ 日本植民地帝国(台湾総督府)
⑸ 中華民国

上記⑴~⑸はすべて、台湾に外部から入り込んだ存在である広域的権力主体「帝国」です。「台湾は諸帝国の周縁である」ことがわかります。(1~5および⑴~⑸は、わかりやすいように一覧にしました)

ここで著者はカッコよく言い放ちます。

台湾歴史は諸帝国の歴史の一部としての側面を持ちながら、同時に諸帝国の歴史が台湾歴史の中にある。その意味で、そして世界の他の多くの地域がそうであるように、台湾史も世界史なのである。

著者は、市民的台湾ナショナリズムに寄り添いながら試行錯誤を続ける「台湾島史観」の「場所中心主義(topo-centrism)」、即ち台湾島という「舞台」こそが「台湾歴史」の連続性を提供するとの観点を建設的に批判し、過去においてバトンリレーしながら台湾を統治してきた、そして現在も台湾に巨大な影響力を持つ「帝国」へも視野を広げよと説きます。

…「台湾という来歴」の把握のためには、…

①台湾に関わる諸帝国の興亡のプロセスと台湾の帰属変更を含むその歴史との関連台湾にとっての「代わり・変わる」帝国の世界史ダイナミズム「帝国の網」

②諸帝国の外挿国家の台湾における振る舞い「代わり・変わる」帝国がその周縁である台湾に惹起するダイナミズム周縁ダイナミズム「帝国の鑿(のみ)」

という二つの側面を同時に視野に入れて捉えるアプローチが必要となるだろう。

このアプローチこそが、著者の掲げる”方法的「帝国」主義”なのです。

基本的な理論部分についてまとめてみましたが、やっぱりよくわからないですね。(^^;)

念押しですが、これだけを読んでこの論文を理解できたとは決して思わないでください。あと十九ページ分ほどの内容が漏れてます。(全二十ページ)

このあと著者は「帝国の網」の視覚三つの局面にわけて、「帝国の鑿(のみ)」の視覚四つの局面にわけて詳説し、方法的「帝国」主義の概念図(これ大事!)を提示します。ほかにもまだいっぱいオマケがあるのですが説明しきれないのではぶきます。

この論文には、台湾についての貴重な知見がちりばめられています。そして”方法的「帝国」主義”は、著者の言葉にもあるように「世界の他の多くの地域」でも応用できる方法論なのです。

正直かなり読みづらい論文で、台湾の歴史や政治について詳しくないとなんのことかピンとこない話ばかりでしょう。それでも宝探しのつもりで読み進めていけば、素晴らしい発見があるかもしれません。

みなさんも新世界へと船出してみませんか。(危険です!)

「オレの財宝か?欲しけりゃくれてやる。探せ!この世のすべてをそこに置いてきた」 
                      ゴール・D・ロジャー

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