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音楽レヴュー 2

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音楽作品のレヴューです
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#ハウス

Beige『AMEN! Vol. 1』

 アメリカのデトロイトを拠点に活動するベージュは、さまざまなクラブやパーティーでスキルを磨きながら、着実に知名度を高めてきたDJだ。The Lot RadioのプログラムChaotic Neutralで定期的に披露されるミックスなどを聴いてもわかるように、DJスキルの質はかなり高い。

 アグレッシヴなビートでリスナーのハートを滾らせながら、多くの情動を発露するベージュのプレイは、私たちを深淵な音

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Daft Punk『Homework (25th Anniversary Edition)』

 2022年2月22日の22時22分(日本時間2月23日早朝)、ダフト・パンクがtwitchで過去のフルライヴ映像を配信した。ライヴはアメリカのマヤ・シアターにて1997年12月17日におこなわれたもので、トレードマークであるヘルメットを被る前の彼らがパフォーマンスしている。配信は一度限りのため、現在は視聴できない。
 配信終了後、彼らはファースト・アルバム『Homework』(1997)の25t

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Yu Su『Yellow River Blue』



 中国で生まれ、現在はカナダのヴァンクーヴァーを拠点とするアーティスト、ユー・スー。筆者が彼女のサウンドに触れたきっかけは、2016年にGeneroからリリースされたアルバム『AI YE 艾葉』だった。サウンドコラージュとローファイな音質が特徴の心地よいアンビエント作品で、多彩なアレンジや複層的シンセ・サウンドなど多くの魅力で溢れている。

 『AI YE 艾葉』のリリースから3ヶ月経った20

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Various Artists『Modernation Vol 2』



 ここ最近の音楽シーンを見ていると、《イタロ》の観点から興味深いと感じる動きが多いのに気づく。ヤング・マルコ主宰のレーベルSafe Tripは、『Welcome To Paradise』シリーズ(2017〜18)で古のイタロ・ハウスを蘇らせた。サウス・ロンドン出身のシンガーであるジェシー・ウェアも、『What's Your Pleasure ?』(2020)でナンバー・ワン・アンサンブルあたり

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Cherry Coke(체리콕) 『Every Flower You Gave Me』



 韓国のシンガーソングライター、チェリー・コークを知るキッカケは『Here』だった。2016年にリリースされたミックステープで、彼女の創造力を紹介というには十分以上のクオリティーが詰まっている。太いキックが印象的なビートは、影響を受けたと公言するR&Bやヒップホップ要素が色濃い。とはいえ、夢見心地な音像と幻想的な彼女のヴォーカルの組みあわせはドリーム・ポップとも言えるサウンドだ。ひとつひとつの

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Inner City『We All Move Together』



 ケヴィン・サンダーソンはダンス・ミュージック・シーンのレジェンドだ。ホアン・アトキンス、デリック・メイと共にデトロイト・テクノのオリジネイター(いわゆるベルヴィル・スリー)として知られ、インナー・シティー名義では“Good Life”(1988)や“Big Fun”(1988)といったワールドワイドなヒット・ソングを生みだした。

 ホアン・アトキンスやデリック・メイを含め、デトロイト・テク

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Magik Deep『Views From Within』



 優れたハウス・アーティストを多く輩出している南アフリカのなかでも、Ababiliは熱心に追ってきたレーベルのひとつだ。若手のトラックメイカーを積極的に取りあげる姿勢だけでなく、良質な音をコンスタントにリリースしているのが好感ポイント。体を動かさずにはいられない肉感的グルーヴをまとうハウス・ミュージックの数々は、ダンスフロアはもちろんベッドルームで聴いても耳を喜ばせてくれる。

 そんなAba

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Rebel Yell『Fall From Grace』



 幼少時からポスト・パンクを大量に聴かされてきた筆者にとって、オーストラリアの3人組バンド100%に惹かれない理由はなかった。Minimal WaveやDark Entriesあたりのレーベルに通じるサウンドは、さまざまな側面を見いだせる。
 そのサウンドを強いて形容するなら、ゴシック風味のあるダークなシンセと、グラス・キャンディーなどItalians Do It Better周辺のバンドとも

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Earth Boys『Earth Tones LP』



 ここ最近のエレクトロニック・ミュージックを聴いていると、1080pが蒔いた種は偉大だったなと感じることが多い。

 2013年5月にカナダで設立されたレーベル1080pは、現在も活躍するアーティストを多くピックアップしていた。D.ティファニーことソフィー・スウィートランドは自らの作品をコンスタントに出すのみならず、Planet Euphoriqueやxpq?といったレーベルを作り、刺激的なア

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Park Hye Jin(박혜진)「How Can I」



 DJ/プロデューサーのパク・ヘジンを知ったきっかけは、2018年に彼女がリリースしたミックステープだった。デトロイト・テクノの叙情的なサウンドを匂わせる“Are You Happy ? 행복하냐고묻지를마”、レーベル1080pの台頭によって急増したメロディアスなローファイ・ハウスが脳裏に浮かぶ“You Say Me 너는내게말해”など、良質なダンス・ミュージックが揃っている作品だ。
 一方で

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Andras『Joyful』



 オーストラリア出身のアンドリュー・ウィルソンは、さまざまな名義を使い分けてきた。幽玄なバレアリック・サウンドが特徴のハウス・オブ・ダッドに、ファンクの要素が漂うディープ・ハウスを鳴らすアンドラス・フォックス。その多面性に多くの人々が魅了され、アンドリューはオーストラリアのエレクトロニック・ミュージック・シーンに留まらない存在となった。日本も含めた世界中の都市でパフォーマンスを繰りひろげ、観客

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Elliot Adamson『PiHKAL』



 イギリスのDJ/プロデューサーであるエリオット・アダムソンを知ったのは、確か3年ほど前だったか。ある日、彼のサウンドクラウドにアップされていた、リカルド・ヴィラロボス“Enfants”のリミックスを聴いたのだ。原曲よりもBPMを上げつつ、〝わーわーやや〟という掛け声の中毒性を活かしたメロディック・ハウス。太いキックとハイハットの抜き差しでグルーヴを作る、正統派のダンス・ミュージックだ。派手さ

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Aura Safari『Aura Safari』



 ここ数年、多くの素晴らしいアーティストを輩出しているサウス・ロンドン。グライム、UKドリル、ジャズ、R&B、ロックなど、ジャンルは実にさまざまだ。

 そのなかでも、ダンス・ミュージック・シーンはもっと注目されてもいいのでは?と常々思っている。Rhythm Section Internationalや22aといったレーベルのみならず、BBZというおもしろいパーティー集団もいるからだ。
 Ch

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Theo Parrish『Thanks To Plastic』



 先月、人生という名の道を歩きはじめて、30年目の節目を迎えた。そのうち、ライターとしてさまざまなところで書いてきたのは、8年くらいである。いまでこそ音楽以外の仕事も舞いこむようになったが、ライター活動当初はダンス・ミュージックを中心に書いていた。素人時代の拙文でも書いたように(いま読むと本当に恥ずかしい。後悔はないが)、筆者は幼い頃から両親にその手の音楽を聴かされてきた。そのおかげか、現在も

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