Andras『Joyful』


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 オーストラリア出身のアンドリュー・ウィルソンは、さまざまな名義を使い分けてきた。幽玄なバレアリック・サウンドが特徴のハウス・オブ・ダッドに、ファンクの要素が漂うディープ・ハウスを鳴らすアンドラス・フォックス。その多面性に多くの人々が魅了され、アンドリューはオーストラリアのエレクトロニック・ミュージック・シーンに留まらない存在となった。日本も含めた世界中の都市でパフォーマンスを繰りひろげ、観客を熱狂させている。

 そんなアンドリューの新たな顔こそ、アンドラス名義でリリースされたアルバム『Joyful』だ。アシッド・フォークやアシッド・ハウスがインスピレーション源になったという本作は、確かに古のダンス・ミュージックを連想させる。
 たとえば、オープニングの“Honeybird”はイントロでTB-303のアシッディーなサウンドが鳴り響く。心地よいピアノ・サウンドが時折紡ぐ上品なメロディーや、リスナーを包みこむ暖かいサウンドスケープも光る良曲だ。

 そうしたサウンドスケープは“Live Forever”でも描かれる。郷愁をいざなう上品なストリングスに、やわらかい質感の4つ打ちが交わる良質なハウス・ミュージックだ。それを聴いて想起したのは、DJコーツェやスーパーピッチャーといったアーティスト。レーベルでいえば、KompaktやPampaのカタログに並んでいてもおかしくない。

 作品全体を通して際立つのは、ビート以上にメロディーが重視されていることだ。本作の中ではストレートなアシッド・ハウスの“River Red”にしても、シンセ・ストリングスによる美しいメロディーが耳を潤してくれる。
 その影響か、サウンドもダンス・ミュージックにありがちな低音を強調したものではなく、中域以上の音域が目立つ。もちろん、巧みな音の抜き差しが生むグルーヴはダンスフロアでも機能する。しかし筆者は、ヘッドフォンをして孤独に聴きこみたいと思った。最低限の音だけを選び抜く審美眼や、それを支える秀逸なプロダクションスキルは、クラブよりもホームリスニングのほうが深く味わえる。


※ : 執筆時点でMVがないので、Spoifyのリンクを貼っておきます。


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