Yu Su『Yellow River Blue』


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 中国で生まれ、現在はカナダのヴァンクーヴァーを拠点とするアーティスト、ユー・スー。筆者が彼女のサウンドに触れたきっかけは、2016年にGeneroからリリースされたアルバム『AI YE 艾葉』だった。サウンドコラージュとローファイな音質が特徴の心地よいアンビエント作品で、多彩なアレンジや複層的シンセ・サウンドなど多くの魅力で溢れている。

 『AI YE 艾葉』のリリースから3ヶ月経った2016年4月、筆者は再び彼女の名を見かけた。ホットスプリングことスコット・ゲイリーと組んだユーアー・ミーとして、アルバム『Plant Cell Division』を発表したのだ。1080pから世に放たれたこの作品は、繊細かつたおやかな電子音が終始鳴りひびくアンビエントでありながら、ダブやトリップホップといった要素もちらつく多様なサウンドを構築している。

 この『Plant Cell Division』以降、彼女はソロ活動を積極的に押しすすめた。ゲリラ・トスやヒドゥン・スフィアーズなど多くのリミックスをこなしつつ、オリジナル作品でも良作を積みあげている。
 後者のなかで特にお気に入りなのは、“Watermelon Woman”だ。2019年に
Technicolourからリリースされた、素晴らしいダンス・トラックである。シカゴ・ハウス的な細かいハイハットの刻みが耳に残るビートに、いなたさを隠さないシンセ・フレーズ。そこにはイタロ・ディスコに通じる要素が確実にあり、イタロ好きの筆者は瞬く間に惹かれた。だからこそ、2019年ベスト・トラック50でも7位にランクインさせたのだ。

 そんな彼女の最新作は『Yellow River Blue』と名付けられた。欧米圏での販売を担う(中国での流通は彼女が設立したbié Records)Music From Memoryによると、自伝的要素が込められた作品だそうだ。確かに、アルバム・タイトルでは黄河を引用するなど、随所でルーツの中国をアピールしている。

 収録曲で特に惹かれたのは、オープニングの“Xiu”だ。古筝を思わせる音が響きわたるアップ・テンポなナンバーで、本作のコンセプトを見事に具現化している。
 “Futuro”も素晴らしい。ディレイやリヴァーブといったさまざまなエフェクトを上手く使いわけ、トリッピーなサウンドスケープを描いた曲だ。ベース・ラインはもろにキング・タビーを想起させ、ダブ/レゲエの要素が色濃い。

 “Touch-Me-Not”も特筆したい。上質な天鵞絨を想像させる艶やかで柔らかい質感のシンセ・サウンドに、微細な変化でリスナーを惹きつけるアルペジオ。それは筆者からするとミニマル・ミュージック的に聴こえるもので、思わずエレニー・リリオスの曲群を聴きたくなってしまった。

 “Watermelon Woman”に通じる曲を求める者は、“Melaleuca”が琴線に触れるだろう。親しみやすいメロディーと執拗な4/4キックが映えるエレクトロ・ディスコで、本作中もっともダンスフロア向けのトラックだ。シンセで奏でるメロディーにアジアの匂いを塗しているのが心憎い。

 『Yellow River Blue』は、これまでユー・スーが残してきた作品の要素を詰めこんだ集大成的アルバムだ。


※ : 本稿執筆時点ではMVがないので、Spotifyのリンクを貼っておきます。



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