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「ワケあり」(その2)【エッセイ】二六〇〇字

この話の、続きです。

 「サンデー毎日」精神のほうが、いい。必死にならないほうが、いい。「ワケあり」なヤツらに任せ、楽しんだほうが、いい。しかし何でも任せたせいか、PCの設定さえもできない、ワタクシ…。

 47歳で会社を興した1997年は、インターネットの「イ」の時代。メール(Eメールと、あえてEをつけていた)を利用するひとも少なかった。そのむかしファクシミリが登場したころに、笑い話があった。「いまファックスを送りました。届いていますか?」と、そのつど電話するひとが多かったのだ。と同じく、メールを企業が使い始めたころも、「届いています?」なんて。
 ネットに接続するのは、ダイヤルアップ。高速回線(いまよりは、はるかに遅いが)のADSLが登場するのは、2000年ごろ(「光回線:光ファイバー」は、ずっと後。2010年代半ば)。その前のインターネットは、モデムから契約しているプロバイダのアクセスポイントにダイヤルして、電話回線で接続する。接続時にモデムから聞こえる「ピッポッパッ、ピッポッパ、プー…、ピポパポピポパポ…、ピピービォー…ポービーブーー…、ザザザザーーー」という音。まあ、うるさいのだ。そして、極めて遅い。が、ネットの世界が開くのをワクワクしながら待っていた。

 スタッフを募集し始めたのは、高速回線になる2000年頃からだった。

 「ワケあり」人材の筆頭Nくんの話には、続きがある。(彼が読むとまずいが)フォロワーさんへの読者サービスで、少々、ご披露。
 「おはようございます」の「お」しか言えない(そのうちに、「おはよ▼*&%」くらいは聞こえるようになったけど)Nだが、記憶力は天才的。というところまで書いたが、それに加え、WEBの知識も抜群。もちろん、キーボードは、ブラインドタッチ。ショートカットなる操作も完璧。とにかく、仕事が早い。
 その彼についた女性アシスタントSさん(けっこうカワユイ)。そのテキパキさに、惚れてしまったのだ。私のデスクと10mくらい離れていても、彼女の目が☆になっているのがわかるほど。彼も、男。仕事のスピードを彼女に見せつけるかのように、さらに早くなる。私にとっては、ウェルカムであった。
 ところが、Nには、もうひとつ「ワケあり」があった。これは、Nと同じく内勤の、Mくんから聞いた話なのだが…。
 ある日、NとSさんがデートしたらしいのだ。Sさんから誘ったらしい。ところが、SさんがMにこぼしていたという。「どこかで食事しよ、とNさんに言ったんだけど、彼、店を決められないんですぅ。仕方ないから、私が行ったことのある店に入ることになって。そのあとも口数少ないし…」と。
 仕事では、やるべきことが決まっているのでカッコいいが、プライベートになると、自分で決められない、「ワケあり」だったのだ。

 JHさんという、26歳になるT女子大卒の超美人さんが、面接にいらした。
 「学歴主義」者のワタクシとしては、竹下景子と同じ大学なので満足。だけど、わがままそうだなあ、と思いながら渋っていた。すると、「採用するんですか、しないんですか。どうなんですか?」と、宣うではないか。で、思わず「OK、OK、さ、さ、採用しましょう」と、発してしまったのだ。
 案の定、マイペース。好き嫌いが激しい。Nも扱いづらそう。

 2003年頃から、実は、〇勢丹のマルチメディア事業部にスタッフを出向させることが始まっていた。日課(?)である夜の街での話がきっかけで。
 「WEBライターが必要なんですけど、います?」となり、「もちろん!」と、言ってしまったのである。顧客ニーズに沿うべく仕事をするのが、ワタクシの流儀である。
 あわてて募集を、開始。そこで、応募があったなかの一人が、某KO大学を卒業し4年の、YHさん。前職が、ブライダル誌「ゼクシィ」編集部。〇勢丹への出向から始まることを伝えて、採用する。
 「〇勢丹の社員よりも高キャリアだ! ヨロシク」と、担当課長も大喜び(YHの「ワケあり」は、「呑んべい」ということぐらい)。YHの成功で、別のスタッフも依頼されることに。さすがに、何人も送るわけにはいかない。そこで、「ワタクシは、いかがですか? 机を用意していただければ、早朝から日参させていただきます! 掃除も、お任せください!」と申し上げたのだが、さすがに、あえなく却下。
 その後も、ネットやPCの教育が必要なので継続的に誰かよこして、となったのである。そんなときに、JHが入ってきたのだった。
 ひらめいた。オフイスから離しておけば、わがままも聞かなくてもいい、と。事業部には、先に「ネットオタク」のM(先ほどのデートの秘密を教えてくれたヤツ)が行っている。JHは、前職が広告代理店だったのでPCやネットに詳しいわけではない。しかし、超美人。統括部長も、きっと気に入る。ネットの知識は、Mに特訓させればいい。竹下景子が出たT女子大だ、すぐに習得できるだろうし、出向先では甘えることもできないだろう。ということで、出向を命じたのだった。
 すると、わがままなJHさんは、水を得た魚のごとく、生き返った。広告代理店での経験も活かし、企画力もある。担当部署の面々の評判も、上々。
 出向者には、業務報告をメールで送ることを義務付けていたのだが、きちんと毎日報告してくる。しかし最初は、その日の業務の内容だったのだが、そのうちに企業秘密じゃないかと思われることまで、書いてくるようになった。かように素直な一面もあった。むろん、彼女との二人の秘密なのだが、メールチェックを受けたら、取引停止は間違いナシの、内容。給与以上の貢献度があった。(決してスパイを命じたわけでは、ありませぬ)
 1か月もたたないうちに、統括のH部長が気に入ってしまい、秘密裏にデートもしているようだった。むろん、その(業務外の)内容までは報告メールには書かれていない。が、そのH(な)部長と飲んでいる席で聞くことになる。「J子ちゃんさ、ボクを押し倒してさ、被さってくるんだよぉ~」と。
 「スパイ大作戦」計画は、大成功であった。

 とにかく、新しいもの好きで、「ワケあり」が集まった。他にも、そんなヤツらの話はあるが、次にまわそう。

 「サンデー毎日」と思い込んでも、頭の片隅には、常に翌日はマンデーがあり、日曜日の夕方のブルーな不安な気分は、(多少は)あった。それが、解放されたいま、「サタデー毎日」になっている。しかし、あいかわらず、PCの設定は分からないままである。

画像;note「よしだたつや」さんから拝借しました。

(ふろく)
山田太一さんも、「ワケあり」なヤツらを描いていましたね…。


東京新聞朝刊(12月2日)



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