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マニュアルなし!原価計算なし!?子供を連れてき放題!喫茶ランドリーの「働かせ」改革は、「働く」ではなく、「その人らしくいる」という何にも代えがたい価値の共有から!

今、喫茶ランドリーでは、4人のママさんたちが働いてくれています。開店から2カ月で完全なバトンタッチが叶い、それから約1年、訪ね来る人たちにここまで愛され続けるようになったのは、すべて彼女たちの力によるものです。

今回は、「喫茶ランドリー」を通した「働くこと」のお話です。

私たちは、喫茶店を、飲食店を持った経験はありませんでした。しかし、ここにはこういうお店があるべきだというビジョンは明確にありました。だから、われわれが考える「喫茶ランドリー」に共感し、自分がやりたいと思ってくれる人を探していました。

でも、オープンする前から、完全な共感を得る人材を探すには無理がありました。「こんな想いで、こんな空間、こんな場所になるはず!」それを言葉にして、アルバイト募集チラシをつくることは困難です。「コミュニケーション好きの方」と書いた紙を妄想しては、大きくバッテンを心の中で描き、オーナーたちはふたりお店に立つことにしました。

「喫茶ランドリー」のコピーには、「どんな人にも 自由なくつろぎ」とあります。実はこれ、お客様だけではなく、働いていただく方へもむけられたメッセージでもあります。

働くスタッフに対して「自由なくつろぎ」!? 何言ってんだよと言われそうなものですが、私たちは、今の日本に定着している「働き方」にいたたまれないほどの違和感を感じていたのです。

田中は、最近よく言っています。

「よくニュースで、働き方改革とか言ってっけど、あれ違うよな?働いている人が主体的に改革などできないっしょ。だから、本当に必要なのは『働き方改革』ではなく『働かせ改革』なんだよ!!!」

全くその通りです。つまり、オーナーサイドが働くということの意味、オーナーシップとうものの使い方を改めて考え抜かない限り、働いている人たちに何も改革なんて起こせないのです。

などと理想は高くもちながら、ヒーヒー言いながら二人でお店に立つこと2週間……

そこに、ひとりのママさんが働きたいと申し出てくださいました。料理の学校を出て、いろんなところで働いてきて、けど、子どもができて幼稚園のお迎えなどがあると、なかなか働ける場所もなかったと。料理が上手でママさんたちの中では有名で、そして何よりも、喫茶ランドリーを好きになってくれて、いつかカフェをやるのが夢だったと言うのです。

われわれにとっては、突如目の前に現れた女神さま! 迷わず働いていただけるようお願いをしました。

そのとき、時給額と共に大きくお伝えしたのが、次のことでした。

1)お子さんつれてき放題!
2)洗濯・乾燥・ミシンし放題!
3)幼稚園のお迎え時お店を離れても良し!

とにかく、まずはお子さんに対するケアが最優先だと考えました。別に子どもが遊んでいたっていいし、10分そこら幼稚園にお迎えにいくときにお店を離れても、お店にはなんら支障はありません。その瞬間誰かがサポートに入れば済むことです。

そして、次のことを伝えました。

フードメニューを、すべておまかせしたい!

もちろん、つくったら、みんなで食べて意見を出し合うことは楽しみましょうと。でも、最終的なジャッジはすべてあなたに委ねますと。喫茶ランドリーの世界観も自分なりに捉えて提案してみてくださいと。そして、新しいメニューをつくるにあたって、ひとつだけ大事な要件を伝えました。

それは

原価計算はナシ!自分が良いと思うものをつくって!

とうこと。

ビジネスのどんな本を開いても原価計算は基本の「き」で出てくるものですが、ママスタッフが、あんなのはどうかな?こんなメニューがいいじゃない?と思った能動的な気持ちを一ミリも削ぐことはしたくなかったのです。

何にもとらわれず、まずはノビノビとつくってもらうこと!そして、値段はお客様の気持ちを考慮して設定してみて、売って、食べてもらって、反応を見て、最後の最後に、原価を計算してみましょうと。そこで、問題があれば調整すればいいと。

こんな話をするとビックリされる方もいますが、結果、どのメニューもほとんど微調整することもなく、お客様にも美味しいくて安いと喜んでいただいているメニューばかりになり、売り切れ状態になることもめずらしくありません。原価率も非常にいい数字を出しています。

そして、何よりもそうして自分の想いが100%のってつくられたものたちが、お客様たちに「美味しい!」と言ってもらえたときの気持ち、その喜びは何にも代えがたいものになってるはずです。

そうして、スタッフママさんは、ポンポンポンっと、4人まで増えていきました。皆、個性豊かで、子育て中のママから、子育てを終えたママまで、さまざまです。

ママスタッフが増えるにつれ、最初はやはりマニュアルのようなものをつくらなくてはいけないかな、とも思いました。しかし、一人増え、二人増え、彼女たちを観察していると、それぞれにコミュニケーションを重ねながら、仕事を伝達し、さらにその先で、「自分がやりたいこと」「自分ができること」を見つけては、率先して行いはじめていることに気付きました。

僕は、書きかけたマニュアルのデータを消しました。こんなものは、彼女たちの能動性を狭めるだけだと。

とにかく人が大好きなママスタッフは、このひとちょっとヤバイなぁと思ってしまうような人にでも、フランクに話かけていたり、植物好きなスタッフママは、最高にカワイイ花を買ってきて植えてくれていたり、もちろん料理好きのママは、これはどうかな?と日々、楽しくつくっては提案してくれます。

これは、最高だなと思いました。あるべき姿だと確信しました。

そう、これはつまり言い換えると、「その人であり続けている」とうことなのです。

日本における多くの社会人は、働くとき、「自分という人間」の上に、会社やお店の「着ぐるみ」的なものを被ってしまうものです。そして、「プロ○○」になりきります。与えられたマニュアルには「プロ○○」になるべし!と、記されています。こうふるまいなさい、こう言いなさい、とさまざまなことが書かれています。

マニュアルを目にしたわたしたちは、自然と一生懸命にそれを行おうとします。しかし、そういったマニュアルの「これをしてください」というメッセージは、暗に「それ以外はしないでください」というメッセージも同時に伝えてしまうものです。つまり、その先で人は、自然といわれたコトだけをやろうとするようになるのです。そこにはどんどん自分がいなくなっていく。でも、これは人間として自然な反応なんだと思います。(そういう環境の中で、クリエイティブであれ!なんて求められるもんなら、いやいや無理だからと言うしかありませんよね。)

だから、私たちが、もしマニュアルなんてものをつくるのであれば、最初の1ページ目にこういうことを書いておかなくてはいけないと思いました。

「あなたという人間のままでいてください」

もちろん具体的な仕事は存在するので、はそのためのプロセスは学ばなくてはいけません。でも、すべてはあなたという人間(個人)が土台としてあって、その上でやってください。決して、同じように話しかけ、同じようにつくり、サービスを提供することが大切ではないし、そんな必要はありません。そこはあなたという人間が考えてやればいいことですよと。

昔、ロンドンで生活をしはじめたあるとき、スーパーのレジにいた黒人のちょっとぽっちゃりした女性に、「また来てね!良い一日をね!」と言われました。それは、マニュアルに載っているから言ったのではなく、明らかに彼女の気持ち100%で言ったことが伝わりました。彼女は制服を着ていたとしても、一人の人間として僕に声をかえてくれたわけです。

海外では、こういう場面に多く出会います。要はそういうことです。みんな「いつものまま」で働いているのです。喫茶ランドリーも同じ、そこには「働く」と「生きる」の間に何ひとつ線引きがない。その境界があるのだとしたら、究極的に取り除きたいと考えていたのです。

「あなたという人間のままでいてください」「あなたという人間ができることを、ただ純粋にしてください」。もちろんこんな話は、面と向かってママスタッフにすることはありません。それでも、その理念は確実に伝わっています。

ベビーカーが来たら手伝ってあげて、子どもが来たらおもちゃを貸してあげて、お客さんの醸し出す空気を読み取って、最適な形で言葉でコミュニケーションをはじめる。その先に、お客さんのちょっとしたおもしろいこと、能動性を引き出してあげる。

今働いているママスタッフたちは、みんなお店から半径400メートル以内に住んでいるのですが、お子さんの病気から、不意な家庭のアクシデント、お店の材料がなくなった!とか、ちょっとしたトラブルがあるたびに、臨機応変にお互いが支え合っています。こういう時の自然な言葉のやりとりも、「あなたのままで」ということが効いてきます。根底にはきちんとしたリスペクトがお互いに生まれるからこそ、そういうコミュニケーションが取れる。(そう、喫茶ランドリーには店長は設けてないのも、ここにつながる話です。)

ママスタッフたちは、こういうことをいとも簡単にやってしまうくらい、メチャクチャ優秀です。でもこれって本来は人間誰しもが持っている力なんだとも思いました。今の社会では、「自分」でいられない状況によって、自らのコミュニケーション力が下がってることにつながっているのです。その中での「あなたのままの人間でいてください」というメッセージは、個人から発する自然なコミュニケーションを最大化させます。

さらに面白いのは、これはお客様へも伝わるということです。たとえそれがレジ越しだとしても、レジの向こうの店員(のような人)は、ひとりの人間として、お客である自分と対等な人間として立っているのだと。

だから、こうして洗い物がたまると見かねたお客様が「わたし、手伝おうか」となる。ベビーカーがお店の前に泊まって、スタッフが忙しそうにしていたら、お客様のサラリーマンが出て行って入店を手伝ったりもする。「あなたのままの人間でいてください」という空気メッセージは、店内でどんどん伝搬していきます。

ママスタッフが起点となって発する空気が店内に広がると、その「働く」環境そのものの居心地が最高のものになります。

ママスタッフたちは、これまでいくつかの「働く」を体験されてきたと思います。正規社員だったこともあれば、パートで働いていたこともある。でもどうやら、ここでの「働く」は、それまでの「働く」とかなり変わっているようです。

シフトに入っていなくても、立ち寄ってくれるママスタッフも少なくありません。自分の家の離れのリビングくらいな意識でいてくれているのかもしれません。少なくとも「自分の場所(テリトリー)」だと思ってくれています。私の人生がガラッと変わってしまった。そこまで言ってくれるママさんもいます。本当にすばらしいことです。

ここで創り出したものは、これからの日本社会にあるべき、まちに必要な「働き方」改め「働かせ方」のひとつを提示できていると思います。

たとえば、ここで起きている働き方を、もう少し大きく、喫茶ランドリーをひとつの街だと捉えると、さらに理想的な働く環境の可能性が見えてきます。職住近接はもちろん、支え合うシステムや、コミュニケーションを最大限に高めるための「働かせ方」に至るまで、さまざまなことが拡張展開できそうだな、とも。まだまだ、日本の「働く」には、かなりの伸びしろがありそうです。

写真は1周年記念日の1月5日のときのもの。

いつものように「こんなのつくってみました!」「いいね!いいねー!!」とスタッフ同士いいながら、オーナーに無断で、こういうものを振る舞っていたりします(笑。

こういったものを「能動性の発露」と言うわけですが、「あなたがそのままでいてください」というメッセージの最大の産物はこれだと思います。ある個人がマックス楽しんでいると、そこに付随して予想外のことが次々現れはじめます。これも田中が提唱する「マイパブリック」のひとつ。個人からこういうものが滲み出るとそれが知らない人同士の最初の一言になっていきます。そして、この一言がコミュニティーの最初の種なんです!!

というわけで、今回は、喫茶ランドリーの「働く」について書いてみました。

もう少し具体的なワンオペの話や、ちょっとした事業的な話は、またタイミングをみつけて書こうかなと思います。

それでは、また!

1階づくりはまちづくり。


大西正紀(おおにしまさき)

ハード・ソフト・コミュニケーションを一体でデザインする「1階づくり」を軸に、さまざまな「建築」「施設」「まち」をスーパーアクティブに再生する株式会社グランドレベルのディレクター兼アーキテクト兼編集者。日々、グランドレベル、ベンチ、幸福について研究を行う。喫茶ランドリーオーナー。

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