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計画は大事だが、未来を決めるのは計画ではなく目標設定だ [目標設定の原則](4)

4回目の今回は目標設定の話の最終回です。
トップダウン型で目標設定する場合の具体例を、目標設定のプロセスに沿って見て行きましょう。
今回も、例としては事業計画を取り上げます。

中身に入る前に目標設定の流れを復習しておきます。

 1. 目的を理解する
 2. 目的と整合した目標を設定する
 3. 目標達成に向けて手段を洗い出す
 4. 手段の実現性を評価する
 5. 手段の成果を積み上げることで目標達成できるかを評価する
 6. 手段の実行状況を把握するための評価指標を設定する

それでは、1から順に見て行きましょう。

1.目的を理解する

事業計画作成においては、まずは事業の “目指す状況(なりたい姿)” を理解する必要があります。なりたい姿は “目的” にあたります。今回は、目的を以下のように描きました。

・ 株主満足度を業界トップレベルまで引き上げる。
・ 業界トップの成長率で、業界最大手であるA社に肉薄する。

これらの目的を、しっかりと腹落ちするまで理解しなければなりません。関係者の間で誤解が生じないように、とことん議論してください。

2.目的と整合した目標を設定する

業界団体が実施した顧客満足度調査ではA社の評価点は100点満点の90点でした。そこで今回は、A社と同じ90点を目標とすることにしました。
また、A社の売上規模は昨年実績で1100億円、それに対して我々の売上は1000億円でした。売上規模でA社に肉薄するには10パーセントの売上成長が必要ということになります。
そこで、以下の数値を目標として設定することになりました。

・ 顧客満足度 = 90点
・ 売上成長率 = 10パーセント

3.目標達成に向けて手段を洗い出す

この目標を達成するために、現場には、ありとあらゆる手段を尽くすことが求められます。現場からは以下のような手段が出てきました。

・ 営業の顧客訪問回数を1.2倍に増やす。
・ 提案書のひな形を作成して営業効率を向上する。

しかし、これでは、これまでやってきたことと代り映えしません。もっと大胆な打ち手が必要です。
このようなありきたりな手段しか思い浮かばないのはなぜなのか、彼らは夜遅くまで議論しました。そして、自分たちが “今できること” をベースに、現状ありきでしか考えていないことに気づきました。自分たちで勝手に限界を決め、その範囲内でしか考えていなかったのです。

現場の責任者はその場にいる全員に向かって言いました。

「たとえば、お金をいくら使ってもいいとし仮定したら、これまでは思いつかなかった、まったく別の手段があるのではないか」

このようにして発想を膨らませた結果、出てきた目標達成の手段がコレです。

・ ヘルプデスクの対応人数を3倍に増やす。その上で、単に「答えたらおしまい」のヘルプデスクではなく、必要に応じて顧客訪問し、根本課題の解決を支援するような顧客寄り添い型のヘルプデスクをスタートする。
・ 顧客の相談に乗るための技術者(アカウントSE)の人数を増やし、それぞれの担当顧客数を現在の5社から2社に減らす。その上で、1顧客あたりの目標面談時間を設定し、SEの人事評価と連動させる。

4.手段の実現性を評価する

「営業の顧客訪問回数を1.2倍に増やす」と「提案書のひな形を作成して営業効率を向上する」を実現するために、各イニシアティブのワーキングチームを結成しリーダーを任命することにしました。
残った問題は、追加で考えたふたつでした。

責任者はその場の勢いで「お金をいくら使ってもいい」とは言ったものの、いざやるとなると簡単ではありません。そこで手始めに、いくら必要なのかを試算することにしました。

・ ヘルプデスクに派遣社員10名を採用し、社員が顧客に寄り添う時間を確保する。そのためには年間7000万円が必要。
・ アカウントSEを新たに10名、社員として採用する。そのためには年間2億円が必要。

責任者が中心となって目標達成のシナリオと投資効果を明らかにし、幹部に提案しました。この熱意が幹部を動かし、上記の投資は承認されました。

これまでと同じことをやっていたのでは限界は越えられません。しかし、そのためには、幹部をはじめ周囲に仲間を増やさなければなりません。こんな時に欠かせないのが共感力です。
概念化して共感するためのノウハウは、別のブログで公開しています。

5.手段の成果を積み上げることで目標達成できるかを評価する

経営企画室のサポートを得た現場は、自分たちが洗い出した手段を実行に移した場合の成果を予測し、積み上げました。過去の数値を分析したり、お客様にヒアリングをかけたりと、様々な手を尽くしました。その結果、ヘルプデスク強化とアカウントSE増員は、当初の予想を超えて数字に効きそうなことがわかりました。顧客満足度に効くのはもとより、アカウントSEの増員は売上アップに貢献することが判明しました。顧客のロイヤリティを促すからです。

現場の結論はこうでした。

・ 期待できる顧客満足度 = 92点
・ 期待できる売上成長率 = 15パーセント

現場の説明と彼らがはじき出した数字に、幹部たちは納得しました。

6.手段の実行状況を把握するための評価指標を設定する

幹部は月次の進捗報告を現場に課しました。現場では喧々諤々の議論が続き、その結果、評価指標を定めました。評価指標には先行指標と結果指標があります。先行指標は将来を予測するための指標で、結果指標は実績を評価するための指標です。
彼らは先行指標に重きを置きました。

現場が定めた評価指標は以下の通りです。

・ イベント開催回数、営業の顧客訪問回数
・ 提案書ひな形作成に費やした工数、提案書ひな形の進捗状況
・ 提案書ひな形の活用比率、1件の提案に要した工数、提案件数
・ ヘルプデスク要員の採用人数
・ ヘルプデスクの電話呼び出し時間、電話を取れなかった率(放棄呼率)
・ ヘルプデスクへの問い合わせ件数
・ ヘルプデスクへの問い合わせがきっかけとなった案件数
・ アカウントSEの採用人数、アカウントSEひとり当たりの顧客数
・ アカウントSEの1顧客あたりの目標面談時間
・ アカウントSEがきっかけとなった案件数
・ 案件の勝率

今回の例には、ステップ “4” での差し戻し(実現性が低い)やステップ “5” での差し戻し(手段の成果を積み上げても目標に到達しない)はありませんでしたが、実際には何度も差し戻され、壁にぶつかることでしょう。
差し戻された場合にはステップ “3” に立ち返り、新たに手段を絞り出さなければなりません。たいていは、ここで打ちのめされます。目標達成に執着し、高いモチベーションを維持できた人たちだけがこの壁を突破できるのです。

さて、これまで4回に渡って目標設定の話をしてきたわけですが、目標設定のポイントはうまく伝わったでしょうか。

私は目標設定に強い思い入れがあります。なぜなら、私たちの未来を決めるのが目標設定だからです。
計画力は目標達成を助けますが、起点は目標設定です。目標設定を間違えてしまったのでは、私たちに、明るい未来はありません。

私は、欧米のやり方を鵜呑みにするのは好きではありませんが、目標設定は別です。目標設定に関しては、トップダウン型はボトムアップ型より優れています。これまで慣れてきたボトムアップのやり方を改めるのは簡単ではありませんが、これを機会に、ぜひチャレンジしてみてください。

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