神経科学からみたエクササイズ
エクササイズ
エクササイズは、ある特定の目的を改善するための身体運動です。目的は、運動不足解消からプロポーション維持、アンチエイジングまでさまざまです。さらに怪我をして、痛みが解消したなら怪我の前のコンディションに戻すためにもエクササイズをします。
スポーツ選手なら怪我の予防のためにルーティンワークとしてエクササイズを行います。パフォーマンスに関するエクササイズなら筋力、瞬発力、跳躍力からパワー向上のために行い、個人のスポーツスキル向上に繋げます。パフォーマンスという全身からの出力なので体幹部を強調したりもします。ちなみに体幹部の筋力の実際は日常生活で最大筋力の5%、それなりの激しい運動でも最大筋力の10%ぐらいしか活性していないと説明されています(Kibler 2006)。
随意運動、反射、リズム
エクササイズ、身体運動を神経科学視点で考えるなら、大きく3つに分けることができ、1つは随意運動、次に反射、3つ目にリズムです。
随意運動は意識的に筋肉を動かす運動です。たとえばアームカールやスクワット、マシンエクササイズなどのことです。
反射は、熱い物を触った時に熱さの感覚の前に手を引くなどの脊髄反射から身体バランスを崩した際、転倒を防ぐために抗重力筋の緊張など無意識的な反応があります。スクワットは股関節、膝関節の伸展運動、随意運動なのですが、背中や胸など意識的に緊張しているのでしょうか。パーソナルトレーナーなどによって指導があれば意識が注がれ、膝についても内側に入らないように股関節外旋筋を緊張したりしますが、普通は意識していないと思います。こうした運動目的以外の筋肉も対応している点から反射と言えます。
リズムは、始めは随意運動で途中は反射的活性そして終わりは随意運動になります。たとえば歩行やランニングが典型的です。歩行やランニングなどいちいち足を前に出すために足関節を背屈し、膝を曲げ、大腿部を上げてなど意識してられない。逆側の脚部全体を真逆の動きで一連に行い、それが随意運動でやめるまで連続です。
スポーツならウォームアップで用いる「ラダー」や陸上のスキップなどもリズムになります。何度も繰り返し身体に覚え込んだ動きなので、考えずにその動作ができ、むしろほかのことも意識できたりします。
複雑なラダーのステップワークも意識的に一つ一つの関節を屈伸するのでなく、むしろ身体のバランス、平衡感覚を保ちながらリズムでおこなっています。身体のバランスは先ほどの対応型の反射になります。
練習で習得したリズムはその動作スピードを上げることもできます。複雑な動きの究極はダンスやバレエかもしれません。動きを習得したなら完全に覚えたならリズムになります。
対応型
先ほどの運動中の身体のバランスや平衡感覚も表現の練習中で鍛えることができます。たとえば一輪車やスキー、アイススケートなども意識的に脚を操作しますが、体幹から頭の位置が転倒しないような緊張の仕方を覚え、目的の動作をリズム良くできるように貢献します。意識的に動かす動作とは別に身体バランスを調整している機能は無意識的であり、対応型と言えます。
固有受容器
私たちの動作は、末梢感覚、視覚、内耳にある三半規管前庭器からの情報を処理しながら行っています。固有受容器と呼ばれる末梢感覚からの情報で私たちは時空間の中で四肢(腕や脚)の位置を知ることができます。固有受容器には筋肉の長さや収縮速度を察知している「筋紡錘」、運動負荷や筋肉の張力を察知している「ゴルジ腱器官」があります。
ストレッチ
ストレッチはこの固有受容器を上手く刺激すると、相反抑制や自己抑制などが筋肉で起きリラックスに作用します。
相反抑制とは動かく筋肉を主導筋と呼び、その裏側の筋肉のことを拮抗筋と呼びます。たとえば肘を曲げるなら上腕二頭筋は主導筋になり、裏側の上腕三頭筋は拮抗筋になります。肘を曲げる際にわざわざ上腕三頭筋を大脳がリラックスの指令を出さなくても脊髄レベルで抑制してくれます。このことを相反抑制と呼んでいます。
自己抑制は重たい物を持ち続け、これ以上筋肉を働かせるなら怪我をするかもしれないので主導筋自体を抑制させる仕組みのことです。これも脊髄レベルで調節されています。
マッサージ
ストレッチは単関節でなくむしろ複合関節でも行うことができ、筋肉を弛緩させるのに有効です。一方でマッサージは気持ちよく「もっともっと」が働くばかりで、終わったは20分もすればマッサージを受けていた感覚を忘れます。むしろ下手なマッサージを受けると逆に時間の無駄や怒りすら覚えたりします。実はこれらすべてドーパミンという脳内物質の作用によるものです。これについては筋肉の張り解消法その5をご覧いただければ幸いです。
リハビリテーションエクササイズ
スポーツで怪我をした後、痛みが取れれば再発予防のためにリハビリテーションエクササイズを行います。このエクササイズは室内で行われます。怪我の箇所にもよりますが、単調な屈伸運動から様々な運動器具を用いた特別な運動があります。これら室内で行うエクササイズすべてが固有受容器を刺激しながらの運動になります。意識的に四肢を動かす中、私たちはその上肢や下肢の位置を知覚します。
リハビリテーションにおけるエクササイズのパターンを6つの神経学的な視点で考えることができます。6つの視点を理解すれば、あとは応用になり、さまざまなエクササイズも解釈でき、さらに創意工夫できるのではないかと考えます。是非マガジンで少しでも多く学んでいただければと思っています。