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「楠栞桜」から学ぶ V炎上のミカタ

【2022/01/04 追記】
記事公開から日がたち、状況も大きく変化しました。VTuberファンも増え続け、当時の状況に詳しくない方も多くなったことでしょう。
そこで、楠栞桜やアイドル部を知らなくても理解できるよう、簡単な追記と表現の修正を行いました。


ここしばらくのVTuber界は炎上続きだ。Twitterで #Vの炎上 がトレンド入りするなど、「VTuber界は炎上が多い」と内外に認識されつつある。

つい最近もにじさんじの「金魚坂めいろ」さんが契約解除され、「夢月ロア」さんとともに炎上した。
炎が燃え広がり、憶測が憶測を呼ぶようになると、次のような言葉がぽつりぽつりとつぶやかれた。


「楠栞桜を忘れたのか」


楠栞桜」さんは個人勢VTuberで、活動開始は2019年12月末から(本格的には2020年1月から?)と活動期間は決して長くないものの、登録者数180,000を超える人気VTuberだった。
だった、と過去形で表現したのは、彼女もまた特大の炎上を起こし、実質的な活動休止になるとともにその進退が一切不明となってしまったからだ。


私は過去の記事で次のように述べた。

氏の数ある疑惑をここで説明することは控える。
多くは未だ疑惑であるし、いずれも簡単に説明できるものではない。
そして、それらを徒に敷衍することを、私は良しとしない。
(氏とは楠栞桜のこと)

https://note.com/marysue/n/n0baa8cd72935

この言葉の通り、私は楠栞桜の疑惑については口をつぐむつもりであった。それらは簡単に説明できるものではなく、またそれらを広めることに価値を見出せなかったからだ。

しかし、先のにじさんじの炎上で、憶測が憶測を生み、誹謗中傷がエスカレートする様を目の当たりにして考えが変わった。

既視感のある展開。見慣れた光景。
あれほど天高く燃え上がった楠の火柱も、見えていない人には見えていなかった。(もしくは、見ようとしていなかったか。)
私は今一度彼女の疑惑を解説し、そこから得られる教訓を共有するべきだと感じたため、筆を執ることとした。


※注意※
この記事はVTuberにおける「転生」「演者」「中の人」などに関する内容を取り扱っております。また、特定人物の個人情報について、この記事で直接取り扱うことはありませんが、記事の性質上、周辺情報を調べていくことで個人情報にたどり着いてしまう可能性があります。それらについて不快に思われる方は、読むことをお勧めいたしません。
この記事をもとに特定人物や組織への攻撃・誹謗中傷はお控えください。
くれぐれも、良識に基づいたご判断をお願いいたします。


この記事の目的

この記事の目的は楠氏を追求すること、非難することではない。
記事の性質上、非難めいた書きかたになってしまう部分も多分にあると思うが、それは本来の目的ではない。

この記事の本来の目的は、楠氏の一連の騒動から得られる「視聴者側の」教訓を提示することにある。

早速、それらの一般化した教訓を示していこう。


教訓の一覧

今回提示する教訓は、以下の4つだ。

①不確定な情報から結論を出さない

②情報の精度、恣意性を意識する

③感情論や印象での判断は避ける

④二元論に陥らないようにする

そして最後に、何事にも言えることであるが、

◎当事者以外が不必要に騒ぐべきではない

ということだろう。

続いて、楠栞桜氏の炎上について、あらましを見ていこう。


騒動のあらまし

※注意※
簡略化のため、詳しい情報や根拠などは省くことがございます。参考資料へのリンクをできる限り張りますので、深く知りたい方はそちらをご参照ください。

※補足 登場人物/組織について※
楠 栞桜(くすのき しお)Twitter / Youtube / note
個人勢VTuberでこの記事の中心人物。
かつて「夜桜たま」として活動していたことは、公然の秘密を通り越し、ほとんど周知の事実であった(いわゆる「前世」)。

夜桜 たま(よざくら たま)
かつてどっとライブ/アイドル部に所属していたVTuber。「猫乃木もち」と共に、2019年12月に契約解除となった。

どっとライブ( .LIVE )
アップランド社が運営するVTuberグループ。主な所属VTuberは「電脳少女シロ」、「ばあちゃる」、「もこ田めめめ」、「ヤマトイオリ」など。

アイドル部
2018年5月にどっとライブに加入した12人のVTuberで結成されたグループ。どっとライブ内のグループ内グループのような立ち位置。
2019年12月に「夜桜たま」「猫乃木もち」の2名が契約解除となり脱退。
2021年4月末にメンバーの契約満了に伴い解散。うち5名(「花京院ちえり」、「神楽すず」、「カルロ・ピノ」、「もこ田めめめ」、「ヤマトイオリ」)はどっとライブ所属として活動を継続。

この騒動は5ちゃんねるの悪名高いアンチスレ「アイドル部アンチスレ」(通称ドルアン)から始まった。
最初のきっかけはドルアンに日常的に書き込みをしていた人物(通称ec)が注目を集めたことだった。ecは楠氏しか知り得ない情報をドルアンにリークしていたのだ。

ecおよびecが投下した楠氏しか知り得ない情報とされるものについて、以下の記事が詳しい↓
〇ecの書き込み内容のまとめ(note記事)
〇「天鳳速報」の検証(note記事)
〇「天鳳速報」の検証(より詳細)(はてな匿名ダイアリー)
※上記の記事には5ちゃんねる独自の識別符号「ワッチョイ」やipアドレスの解説なども含まれている。興味がある方はご一読を。


これらの事実から、楠氏が「アンチスレで同業者の情報流出、誹謗中傷を行っていたのではないか」、ひいては「『前世』である夜桜たまの時代から同僚を貶めようと暗躍していたのではないか」との疑惑が出ることとなった。

そして、ニコニコ動画に投稿されたジョーカーの嘘字幕動画などの影響もあり、この疑惑は世に広まっていった。


しかし、この時点での世論はまだ楠氏の疑惑について懐疑的であった。
楠氏の名声、悲劇のヒロインという外聞、麻雀業界への貢献……そしてアンチスレに書き込む合理的理由がないという至極もっともな理由から、根拠の希薄な噂、アンチによる捏造だとする向きが強かった。


しかし、2020年8月14日に世論が一変する事件が起こる。
noteからのipアドレス流出事件である。(note株式会社の公式報告(1)(2)、その他参考記事
この事件で楠氏のnoteから流出したipアドレスが、件のecと一致することが発見されたのだ

※ipアドレスに関して補足情報※
余裕があればこちらも参照されたし
〇ipアドレスは一致しうること、その他疑惑に対する反証(note記事)
〇↑に対する反証(note記事)


この事件は他の著名人を巻き込んで大きく取りざたされ、楠氏の疑惑が広く世に知られるきっかけとなってしまった。このip流出事件で騒動を知った人も多いだろう。それ故、ip流出のみが疑惑の根拠だと思っている人も多いようだ。
しかし、ip流出より前からec=楠栞桜ではないかとの疑惑があり、状況証拠からほぼ彼女しかありえない、というところまで疑惑は深まっていたのだ。


ipアドレスという直接的に紐づけられる証拠の影響は甚大で、これを機に彼女への評価は180度変わった。


楠氏は出生の経緯から、悲劇のヒロインとしてとらえられていた。
そのヒロイックな悲劇性を説明すると以下のようになる。

所属組織の運営改善を願い、問題提起をするも同僚に裏切られ、愛する組織を抜けざるを得なくなった。その後、麻雀業界や一緒に抜けた親友と共助することで個人VTuberとして転生する。精力的な活動と周囲の温かい手助けのおかげで前世を超える人気を手に入れ、麻雀業界を盛り上げる第一人者として認識されるにいたる。

一方、元の所属先であるアイドル部、どっとライブは彼女の脱退をきっかけに人気が急落した。善意の問題提起を足蹴にし、あまつさえ後ろから刺すような真似をしたのだから当然の報いである。

このように、彼女の人気は二項対立として語られることが多かった。彼女の活躍が語られるとき、「それに比べてアイドル部は」と続けて語られた。
特に出生以前から彼女を知っている層(妙な言い方だが)はこれが顕著であったように思う。
楠栞桜となってからのファンは関係ないと思うだろうか。しかし、古くからのファンがアイドル部を悪し様に言っても、「あんな過去があったしな…」と許容する雰囲気は間違いなくあったはずだ。

そう、彼女の人気の根底には「悪に対立する正義」というイメージが存在した。彼女は正義でなければ成り立たないコンテンツだったのだ。

また、彼女の誕生以降、ドルアンが実質的に彼女のファンスレを兼ねるようになっていたことも、彼女の人気が歪んだ構造で成り立っていたことを証明しているのではないだろうか。


正義の改革者、悲劇のジャンヌダルクは、実は姦計をめぐらす簒奪者であった。
少なくともドルアン——誹謗中傷は日常茶飯事、演者の個人情報や社員のSNSアカウントの晒し上げなどを平然と行うかの悪名高きドルアン——に日常的に書き込み、コミュニケーションをとっていたことはほぼ間違いないのだ。正義のイメージからは程遠い。

善と悪はひっくり返ってしまった。


ここで、先ほどの悲劇のヒロイン物語を善悪反転させてみよう。

所属組織の情報を秘密裏に流出させ、組織内を混乱させた。そこで生じた瑕疵は運営の能力不足という風潮を生み出し、それに糾弾する体で脱出。同僚の反発があったが、匿名掲示板や裏垢で風説を誘導することで自分は被害者であると印象付け、ファンを引き連れて独立に成功した。何も知らない人たちは同情的で、快く協力してくれた。

一方、元の所属先であるアイドル部、どっとライブは彼女の脱退に伴い風評被害にあい、大きく求心力を低下した。他社との契約や、ともすると流出した個人情報を認めることになることから詳細な発表はできず、そのことも批判を浴びた。辛酸をなめながらも、残ったファンのために前を向いて活動を続けた。

こうなると元所属先は不当に貶められた被害者で、楠氏はどう見ても悪役である。それも、劇的な転落が熱望されるタイプの悪役だ。
そして驚くべき経緯で真実は開示され、劇的な転落が現実に起こってしまった。


前述の通り、楠氏の元所属先であるアイドル部は夜桜たま=楠栞桜を中心としたトラブル、そして脱退によって大きく評判を落とし、感情論による批判、その他様々な誹謗中傷にさらされた。(前記事でも少々触れている。)

ツイッターや掲示板には「〇体蹴り」「バクスタ」「ムラ〇チ部」など彼女らを揶揄する言葉が並び、動画投稿サイトには数多くのアンチ動画が投稿された。投稿されたアンチ動画、それどころか関係のない純粋なファンアートにもアイドル部を嘲笑する言葉(『滑稽』というのが彼らの合言葉だった。)が書き込まれた。


加害者だと思われていた人たちは悪意によって貶められた被害者だった。
そのことは、彼女たちに浴びせられた誹謗中傷は非常に妥当性の低いものだったことを意味していた。(誹謗中傷そのものに正当性などありはしないのだが)

もちろん、アイドル部運営には至らぬ点があったのだろう。アイドル部メンバーにも迂闊な点はあったのだろう。
しかし、彼女たちはあれほどの誹謗中傷を受ける必要があったのだろうか。

この騒動が浮き彫りにしたのは、「傷つく必要がない人を不当に傷つけてしまったのではないか」という、もはやどうすることもできない虚しい事実、我々視聴者(の一部)が負うべき咎だ。

この騒動は「楠栞桜は邪悪だった」という単なる感想で済ませていいものではない。不当に傷つく人が少しでも減るよう、我々は学ばねばならない。
私は無力な一視聴者であるが、せめてこの記事がその一助になればと願っている。

次に、ec周辺の動きとアイドル部の受けた風評被害について、時系列順に確認していこう。


時系列順 ドルアンec騒動とアイドル部の風評

ここでは騒動の大きなきっかけとなった夜桜たまの「お気持ち配信(2019/10/7)」前後からのec周辺の動き、そしてその際にアイドル部・どっとライブが、受けた中傷についてかいつまんで説明していこうと思う。
この項は「具体的にどのような状況で事態が進行したのか」を理解するための項である。かなりのボリュームがあるので、あらましのみで十分な方は飛ばしていただいて構わない。

また、これまでよりも不快になりかねない情報が多くなる。直接に目に触れないよう配慮するが、不安な方はリンクを踏まないようご注意ください。

※補足①※
ec周辺とは、楠栞桜との関連が疑われる「ec(ip表示後)」、「ec(ip表示前)」、「76」 である(いずれも通称)。
楠栞桜と結びつけられる蓋然性はそれぞれで異なり、短絡的にすべてを楠栞桜につなげることは危険であることを最初に記しておく。
初出の「76」についてはこちらを参照

※補足②※
楠氏をめぐる疑惑は大きく3つあり、
1.5chでの情報漏洩者とのIP一致問題
2.cottageとの関与問題
3.ゴースティング疑惑
である。
この中で、1.はこの記事の話題の中心であり、主にこの疑惑について大きく文面を割いている。また、3.に関しては突き詰めれば楠氏のモラルの問題であり、この記事の主旨から外れるため、言及を避ける。
一方で、2.に関しては記事の内容と関連はあるものの、不確定情報が多いことと、現役で活動しているVTuberへの風評被害を避けるため、この記事で深く掘り下げることはしない。
2.に関して、有志がまとめた調査報告があるので、気になる方はそちらをご参照ください。


◆は特に重要な部分

ドルアンec騒動タイムライン

2019年9月某日
・76が夜桜たまの共演者の非公開情報を暴露
10月6日
・76が夜桜たまのTwitterプロフィール変更を速報(後に異常な速度であることが指摘される)、「夜桜たまは辞めるのでは」とほのめかす
・アイドル部:金剛いろはの誕生日配信
10月7日
◆夜桜たま、急遽配信を行い、「運営に後回しにされた」と報告(書き起こし
◆アイドル部:花京院ちえり 上記配信中にTwitterで反応
◆花京院ちえり その後、配信で「不安にさせて申し訳ない、明日以降のイベントを楽しもう」「夜桜たまおよび自身の配信をアイドル部の総意と捉えてほしくない」と呼びかけ(書き起こし
10月8日
・ アイドル部:もこ田めめめ1stソロライブ「もこもこ毛玉収穫祭」
10月10日
・76、鳴神裁(ゴシップ系VTuber)からリークされたとしてアイドル部のディスコード画像を貼る ※鳴神裁は後に自分ではないと否定
10月12日
・76、花京院ちえりをディスコードリークの犯人として誘導
10月21日
◆76、夜桜たまの(ドルアンでは周知の)Twitter裏アカウントに注目を向けさせる。上記アカウントからさらに別アカウントへの誘導がなされ、131人がフォローした時点で鍵アカウントになる。
10月某日
・76、某関係者の個人情報を何度も書き込み拡散
11月2日
・76、「夜桜たまの転生先を見つけたかも」とひなの羽衣のTwitterアカウントに誘導
12月1日
・アイドル部:牛巻りこの活動休止が発表される ※実質休止状態だった
12月2日
◆アイドル部:カルロ・ピノ 配信にて「メンバー間の不安を煽るような言動や、内部情報の漏洩があった」と言及(書き起こし
12月3日
・ec、夜桜たまの(10/21~10/22とは別の)Twitter裏アカウントへ誘導
・鳴神裁が夜桜たまと猫乃木もちの脱退を予想
12月4日
◆夜桜たま、猫乃木もちの契約解除が発表される
12月5日
・ec、以前の76の書き込みを自分だと語る
◆アイドル部メンバーがnote、Evernoteで声明を発表(もこ田めめめ神楽すずヤマトイオリ金剛いろは八重沢なとり花京院ちえり
◆夜桜たまの裏アカウントにて上記声明への対応と思われるメッセージを(なぜかドルアンで周知されたアカウントで、さらに履歴が残らないプロフィール欄で)出す
12月6日
・猫乃木もちと思われる裏アカウント(夜桜たまの裏アカウントからの誘導により周知されていた)が『See You Again(歌)』を投稿
12月10日
・ec「12/8に天鳳ユーザーのオフ会があって夜桜たまの話題が出た」「角田真吾(天鳳運営)が動いている」
12月12日
◆天鳳運営 角田氏が思わせぶりなツイートをする
・夜桜たまの麻雀本第二弾が竹書房より発売
12月13日
・楠栞桜、Twitterアカウント作成
12月18日
・楠栞桜、YouTubeチャンネル開設
12月24日
◆楠栞桜と柾花音が天鳳クリスマス杯にゲスト出演してデビュー、角田氏の伝手で津田弁護士(兼麻雀プロ)がSkypeで同席する
12月25日
・楠栞桜、ひなの羽衣のYouTubeアカウントにログインしてコメント誤爆
2020年1月9日
・ec「10/22に話し合いがあって、辞めたいかの意思確認」「猫乃木もちは辞めるって言った」
1月17日
・楠栞桜、YouTube単独初配信
2月29日
・竹書房『近代麻雀』にて「楠栞桜のまーじゃん交換日記」連載開始
4月1日
◆ec、アイドル部運営会社社員のLINE画像を貼る
5月4日
◆ec、楠栞桜の天鳳昇段を速報(通称「天鳳速報」)。同じスレ内で楠栞桜本人ではないかと疑われ反論、また7月19日に蒸し返された際ipありで返答
6月7日
・楠栞桜が自身を題材としたマンガの制作者を募集
6月9日
◆ec、楠栞桜の漫画制作者を予想、実際に採用された人物を最有力とする ※ipあり書き込み ※公式発表は7/31
7月7日
◆楠栞桜、ツイキャスで顔も知らないネット上の友人が自殺した、自殺した友人の彼氏に聞いたと涙ながらに語る
7月8日
◆上記ツイキャスをきっかけに蓄積された不満が噴出し、5chに楠栞桜アンチスレが立てられる(疑惑が認知されるきっかけ)
7月12日
◆ec、自身が疑われていることを知り茶化しながら否定、同時に4/1のLINE流出は自分がやったと語る ※ipあり書き込み
7月20日
・初代まとめWikiが開設。現行Wikiは三代目(2020年10月現在)
7月26日
・ニコニコ動画にジョーカー嘘字幕動画が投稿される
7月31日
・楠栞桜自身を題材にした漫画「サクラノシオリ」の制作者発表
・楠栞桜、noteにて悪意のある動画や書き込みに関して法的処置を進めると発表
8月14日
noteからのipアドレス流出が発見され、ecの書き込みで表示されるipアドレスと一致した
・鳴神裁、夜桜たまがディスコード画像をリークしたのではないかという疑惑について「わかんない」と配信で発言
・ニコニコ超会議の企画が楠栞桜の申し出により途中で中止
・楠栞桜、自身も家族も5ch書き込みをしていないと否定し、17日までの活動休止を発表
8月17日、18日
・楠栞桜がYouTubeで配信を実施。大いに荒れる。
8月18日
・雀魂公式、楠栞桜が出演する公式生配信「てん×くす」の延期を発表
8月19日
・楠栞桜、配信場所へ行けなくなったので当日の配信を休止すると発表
8月20日
・楠栞桜、自身と家族の身の安全を第一に考えてYouTubeでの活動を休止すると発表、案件はクライアントに任せるとした
8月25日
・楠栞桜、『近代麻雀』誌の「楠栞桜のまーじゃん交換日記」と「サクラノシオリ」の掲載延期を申し出たと発表 ※これ以降楠栞桜からの公式な声明は途絶える(ニコニコchのブロマガは除く)。
9月7日
・Loose公式より楠栞桜がまいてつアルバムへの参加を辞退していたことが発表される
9月25日
・ 福地誠氏のnote記事にて、月刊「麻雀界」9/1発売号のコラムに対して楠栞桜が問い合わせをしてきたと言及される(有料記事)
10月8日
・雀魂公式、楠栞桜が出演する公式生配信「てん×くす」の配信終了を発表
10月31日
・ニコニコチャンネル「楠栞桜のしおるーむ」の概要欄が変更され、11月中に声明を出すとした。
11月22日
・ニコニコチャンネル「楠栞桜のしおるーむ」のブロマガにて声明を発表
12月12日、13日
・同ブロマガにて生放送の予定を告知。翌日、12/24に生放送をすること、ニコニコチャンネルの閉鎖を予定していることを報告
12月24日
・「楠栞桜のしおるーむ」にて生放送を実施(有料会員限定コンテンツにつき、内容には触れない)。
2021年1月14日
・同ブロマガにて、予定通りチャンネルを閉鎖することを宣言(1月29日に新規入会終了、2月26日に閉鎖)。
2月26日
・予定通りニコニコチャンネル「楠栞桜のしおるーむ」が閉鎖


期間を区切って詳細を見ていこう。

2019年10月6日まで

2019年9月某日
・76が夜桜たまの共演者の非公開情報を暴露
10月6日
・76が夜桜たまのTwitterプロフィール変更を速報(後に異常な速度であることが指摘される)、「夜桜たまは辞めるのでは」とほのめかす
・アイドル部:金剛いろはの誕生日配信

■補足事項
これらの前に「ばあちゃる」のモンペ発言、急かつ杜撰な印象の拭えないbilibiliコラボリレーなどにより、運営への不満が蓄積していた。また、運営は「ファンに十分な説明をしない」との印象がファンの間に広まっていたと言われている。
さらに、ゲーム部やアズマリム、キズナアイなど、『運営』に非があると認識されるトラブルが多く発生していたこともあり、『運営=悪』とのイメージが広がりつつあった
このことから、運営が非難されやすい土壌ができていたと考えられる。


10月7日から10月8日

10月7日
◆夜桜たま、急遽配信を行い、「運営に後回しにされた」と報告(書き起こし
◆アイドル部:花京院ちえり 上記配信中にTwitterで反応
◆花京院ちえり その後、配信で「不安にさせて申し訳ない、明日以降のイベントを楽しもう」「夜桜たまおよび自身の配信をアイドル部の総意と捉えてほしくない」と呼びかけ(書き起こし
10月8日
・ アイドル部:もこ田めめめ1stソロライブ「もこもこ毛玉収穫祭」

■夜桜たま、花京院ちえりの配信の影響
夜桜たまは泣きながら(※)配信を行い、「運営に後回しにされた」と訴えた。(※心ないことを言うと、彼女の涙は画面に映らないのだが、通常の情緒を持つ人であれば彼女は泣いていたと思ったであろう。)
「何を」後回しにされたかについて、当時から視聴者間で認識に差異があったように思う。すなわち、①自身のソロライブ自体 と思っていた層と、②自身のソロライブの告知 と思っていた層がいたのである。さらに最近、もう一つの解釈として③自身のソロライブの告知を早めることを打診していたが、その返事が後回しになっていた という意見も出ている。

実際にどれが正しいかはご自身で書き起こしなりで確認していただきたい。重要なのは、ファンの間に認識の差異があったことである。
当時、主流は②の解釈であり、配信直後は「思ったより大したことなかった」「なんでこんなことで?」という意見が多かった。しかし、認識の差異は徐々にファンの間で確執を生み、「推しが泣いていた」ことで冷静さを失った視聴者たちは険悪な雰囲気となっていった。

花京院ちえりに話を移そう。
花京院ちえりの配信は翌日以降のイベント(もこ田めめめソロライブ、ちえりーらんど)についての言及が多く、視聴者の情に訴えかけるように話された。その中で、「夜桜たま(および自分)の配信はアイドル部の総意とはとらえないでほしい。」と語った。また、夜桜たまの配信は知らされていなかった、運営はファンを蔑ろにする人たちではないと語った。

花京院ちえりの配信は、一部のファンから「夜桜たまの捨て身の行動を潰した」と評され、苛烈な攻撃を受けることになった。10/8に行った通常配信は荒らされ、その後皮肉ともとらえられるツイートをしている。
彼女への攻撃の中で、その悪辣さから有名なものが『寄せ書き』だろう。これはドルアンで企画され、実際に本人に送られた中傷目的の寄せ書きだが、そのどす黒い悪意は各所でドン引きされた。

こちらのnote記事で各お気持ち配信への解釈、そして『寄せ書き』の画像(あまりに酷い部分はモザイク処理あり)が載っている。また、こちらのまとめ動画でも確認することができた(こちらは修正薄め)。どうしても見たい方は自己責任でリンク先を見てください。私はここに貼りたくありません。


10月10日から11月

10月10日
・76、鳴神裁(ゴシップ系VTuber)からリークされたとしてアイドル部のディスコード画像を貼る ※鳴神裁は後に自分ではないと否定
10月12日
・76、花京院ちえりをディスコードリークの犯人として誘導
10月21日
◆76、夜桜たまの(ドルアンでは周知の)Twitter裏アカウントに注目を向けさせる。上記アカウントからさらに別アカウントへの誘導がなされ、131人がフォローした時点で鍵アカウントになる。
10月某日
・76、某関係者の個人情報を何度も書き込み拡散
11月2日
・76、「夜桜たまの転生先を見つけたかも」とひなの羽衣のTwitterアカウントに誘導

裏アカウントについて
夜桜たまのものとされる裏アカはすでに消去され、確認することはできなかった。

しかし、間接的な情報であれば2020年10月現在でも確認できた
以下のツイートではファンが夜桜たまの裏アカを認識していたことが確認できる。そしてそのアカウントで何らかの仄めかしが行われ、彼はそれを状況判断の材料にしていたようだ。

裏アカ情報a
裏アカ情報b

また、こちらのnote記事で裏アカについて情報がまとめられている(上記の『寄せ書き』が貼ってある記事と同一。人によってはかなり不快に思うような情報も載っているので、閲覧の際はご注意を)。

■運営の動き
この間、運営は「アイドル部メンバーと話し合う」とし、そして夜桜たまは沈黙した。また10月末に視聴者からの問い合わせに返答する形で運営から回答が出されたが、その内容は視聴者を納得させられるものではなかった。
また、「事務所が意図して話し合いを遅らせることはない」ともツイートしたが、これにも批判が寄せられた。
夜桜たまの涙の配信、花京院ちえりの反応、沈黙した夜桜たま、荒らされた花京院ちえりの配信……これらの要素はファンを不安にさせ、要領の得ない回答しかしない運営に対する不満は加速度的に増していくこととなる。

そして、12月にそれらは爆発した。


12月1日から6日まで

12月1日
・アイドル部:牛巻りこの活動休止が発表される ※実質休止状態だった
12月2日
◆アイドル部:カルロ・ピノ 配信にて「メンバー間の不安を煽るような言動や、内部情報の漏洩があった」と言及(書き起こし
12月3日
・ec、夜桜たまの(10/21~10/22とは別の)Twitter裏アカウントへ誘導
・鳴神裁が夜桜たまと猫乃木もちの脱退を予想
12月4日
◆夜桜たま、猫乃木もちの契約解除が発表される
12月5日
・ec、以前の76の書き込みを自分だと語る
◆アイドル部メンバーがnote、Evernoteで声明を発表(もこ田めめめ神楽すずヤマトイオリ金剛いろは八重沢なとり花京院ちえり
◆夜桜たまの裏アカウントにて上記声明への対応と思われるメッセージを(なぜかドルアンで周知されたアカウントで、さらに履歴が残らないプロフィール欄で)出す
12月6日
・猫乃木もちと思われる裏アカウント(夜桜たまの裏アカウントからの誘導により周知されていた)が『See You Again(歌)』を投稿


■激動の一週間
ここは非常に書くことが多い。できる限りかいつまみながら説明していこう。

■牛巻りこ活動休止、カルロ・ピノの配信
牛巻りこはもともと活動頻度が極端に低く、実質的に活動休止状態であったが、実際に休止報告がなされると落胆が広がった。
そして気持ちを休める間もなく、「心配をかけているファンに伝えたいことがある」とカルロ・ピノの配信が予告された。この時、ドルアンの住民は「内部情報の暴露や運営批判が飛び出すのでは」と期待していたようであるが、実情はその期待を大いに裏切るものだった。
カルロ・ピノは運営の至らぬ点を認めつつも擁護し、さらにメンバーの不安を煽り、情報漏洩する人物がいたことを語ったのだ。(文脈上、この人物は夜桜たまだと受け止められた。)

ドルアン、および運営に嫌悪を抱く視聴者はこの内容に強い拒絶反応を示した。彼女の配信は、怨敵である運営を擁護し、あまつさえ「可哀想な」夜桜たまを敵呼ばわりしたと受け止められた。
このことで、花京院ちえりに集中していた攻撃はカルロ・ピノにもおよび、さらに苛烈さを増していった。

■契約解除
翌々日、「夜桜たま」「猫乃木もち」の2名の契約解除が発表された。
ファンたちは阿鼻叫喚となり、「どうして」「なんで」「納得できない」そんな悲痛な叫びが溢れていた。特に猫乃木もちの脱退は青天の霹靂であり、ファンに大きなショックを与えた。
また前日に鳴神裁(ゴシップ系VTuber)が猫乃木もちも含めての脱退を予想していたこと、アイドル部のディスコードのスクリーンショットがリークされていたことにも注目が集まり、様々な憶測を呼んだ。

■noteリレー
さらに翌日のリレー形式での声明発表(通称noteリレー)は大きな衝撃をもたらした。これにより、世論はますます攻撃的となっていく
この声明群で特徴的なのは花京院ちえりのものだ。そこには以下のように書いてある。

虚偽の発言や事実の誇張、今回表に出ている部分だけでなく会話の中で感じたことの積み重ね、それら全てをお話することは個人の名誉に関わることなので難しいのですが私はそれらをこれ以上見て見ぬふりをすることができませんでした。
守りたいもののために行動をしたつもりです。

Evernote 『2019.12.5 皆様へ』 花京院ちえり

これは明確に脱退した2名、特に夜桜たまの行動に不信が点があったと言及している。

しかし、それ以外のメンバーは脱退した2名に強く言及することはなく(神楽すずのみ「夜桜たまは約束を破っていた」と書いている)、視聴者への謝罪と感謝がほとんどだ。
しかし、なぜかこの声明は「〇体蹴りリレー」と揶揄されることとなる。
このように表現する感情について、私は現在まで理解できていない。これは当時それを口にしていたものにしかわからないだろう。
(何となく「たまちゃんは正しいことをした。」と誰も主張しなかったから、ではないかと思うが、あまりに短絡的すぎるだろうか。)

次に特筆すべきは、もこ田めめめが強いヘイトを集めたことだ。彼女に呪詛を吐く者たちの言葉から、以下の文言が反感を買ったと考えられる。

上手く伝わらないかも知れません。
けど、どうか信じてほしいと思って今この文章を書いています。

みんなが知っていることはほんの一部で、本当のことは他に沢山あります。事実ではなく訂正したい事も沢山あります。
でもたくさんの出来事や関係者のしがらみもあって、言えることが限られています。みんなが誤解をしてしまうのも無理はありません。
色んなところで憶測が飛び交っているかと思いますが、信じるのは私達本人から出た事だけにしてください。
私も、事実を見極めようと努めています。
「何でこうしないの?」と思う人は沢山いるかと思いますが、「できない理由がある」と思ってもらえたらとても嬉しいです。

https://note.com/mokomeme_ch/n/nd43cac377781

これを一般的に解釈すると、「根拠不明な憶測ではなく、自分たちの言葉を信じてほしい」となるだろう。特別変なところはなく、至極最もなことを言っている。
そして「言えないこともある」と正直に認めており、少なくとも私はこの文章に誠実さを感じた。

しかし、彼女にヘイトを向ける人々はそうではなかった。
ここから先は私の推測なのだが、ドルアンや裏アカから情報を得ていた人々は、この声明が自分たちの行動を否定しているように感じたのではないだろうか。
自分は他の人が知らない情報を知っている、という優位性は自己陶酔感をもたらす。アンチスレや裏アカなど、通常では知り得ない情報を知ることができると、自分が「情報強者」であるかのように思えてしまうのだ。
もこ田めめめの声明はそれを破壊するものであり、彼らは強い不快感を覚え、反発したのだろう。

これを機に、花京院ちえり、カルロ・ピノ、そしてもこ田めめめも一括りにして「3馬鹿」という蔑称で呼ばれることとなる(にじさんじのユニットとは無関係)。

■裏アカの動き
契約解除、noteリレーの衝撃の裏でひっそりと、しかし着実に周知されていったアカウントがあった。「よん(ID@AgyoKagyoSagyo)」だ。当該アカウントは既に削除済みである。(なお8/30に同一IDを誰かが取得したようだが、詳細は不明。)

このアカウントはフォローや発信内容から夜桜たまの裏アカとされ、かのecによってドルアンに周知された後、騒動に乗じて広まっていった。このアカウントは傷心したようなツイートを繰り返し、またnoteリレーに対してはプロフィール欄を逐次変えることでメッセージを発信していた。さらに、アイドル部内にディスコード画像をリークした犯人がいる、と仄めかす文章も出していた。(参考note記事

さらにこの「よん」と相互フォローにあり、猫乃木もちの裏アカとされたのが次の「音琴(ID@ne_tapiooo)」である。

もち裏アカ

「音琴」もまた傷心ツイートを行い、「よん」とTwitter上でやり取りをしていた。

もち裏アカhb
たまもち裏アカ1

↑消えているツイートは「よん」のもの

この時点での世論は、これらアカウントが夜桜、猫乃木の裏アカであることに懐疑的であった。しかし、「音琴」の最後のツイートで、世論は「よん」「音琴」をあの二人であると認識することになる。
『See You Again』だ。

これらは不安定になっていた視聴者によく「効いた」。


『二人の絆は本物だ』『彼女たちは被害者だ』
そして
『アイドル部にはユダがいる』『真の邪悪はまだ残っている』


……こうしてアイドル部は、「悪」になった。


正直に言おう。私にはこの光景が、とても気味が悪く見えた。
突然周知され始めた裏アカ、決定的な証拠など何一つ提示していないにもかかわらず、ほとんどの人はそれを彼女たちだと信じていた。
(歌ですら、確実に猫乃木もちと結びつけられるものではない。単に声や歌い方が似ているだけの可能性もあるし、投稿したのが彼女だと決定づけるものは何もない。)
さらに裏アカの発信はいずれも仄めかしの域を出ない。アイドル部運営ははっきり回答をしないことを叩かれていたが、なにも明確なことを言わず、匂わせるだけ匂わせて歌を投げてドロン。それでも視聴者は都合よく解釈した。

藁をもつかむ気持ちでいた人々は、か細い蜘蛛の糸を必死につかんでいた。差し出される一本の葱に、疑問を抱く余裕はなかった。


なお、裏アカによって二人への疑惑を深めた者たちも確実に存在した。あれらを胡散臭いと感じた人は一人二人ではなかった。
二人に疑いの目を向けた層と支持した層、数の上でどちらが多かったかはわからない。しかし、「声の大きさ」では後者が圧倒的だった
彼らは二人が被害者であると声高に喧伝し、騒動に詳しくない層は「被害者」に同情した。さらに表で二人への疑惑をつぶやけば訂正のレスが飛び、場合によっては晒上げられ攻撃の的にされた。
こうして批判の声は隅へと追いやられてしまった。まともな批判者ほど口をつぐんだ。

その後、アイドル部ファンはしばしば「閉じた界隈」「異常な連帯意識を持った集団」と評された。しかし、そうしたのは「支持しないこと」を許さなかった彼らではないだろうか。それとも、これも「可哀想な彼女たち」を信じない者の、哀れな妄想なのだろうか。

「悪」となったことでアイドル部は「攻撃しても良心が痛まないもの」「攻撃されていても良心が痛まないもの」になってしまった。
ここから数か月は、アイドル部とそのファンにとって、最も苦しい時期となる。


12月10日から年末まで

12月10日
・ec「12/8に天鳳ユーザーのオフ会があって夜桜たまの話題が出た」「角田真吾(天鳳運営)が動いている」
12月12日
◆天鳳運営 角田氏が思わせぶりなツイートをする
・夜桜たまの麻雀本第二弾が竹書房より発売
12月13日
・楠栞桜、Twitterアカウント作成
12月18日
・楠栞桜、YouTubeチャンネル開設
12月24日
◆楠栞桜と柾花音が天鳳クリスマス杯にゲスト出演してデビュー、角田氏の伝手で津田弁護士(兼麻雀プロ)がSkypeで同席する
12月25日
・楠栞桜、ひなの羽衣のYouTubeアカウントにログインしてコメント誤爆

■アイドル部への失望と運営の不手際
先に説明した契約解除に伴う騒動で、アイドル部への失望が広がっていた。さらに、このころの運営は傍目に見ても不手際が目立った。

特徴的なのは『マネージャー部』だろう。noteリレーの翌日に作られたこのアカウントは、存在意義にも行動にも合理的理由が見いだせず、なんとも形容しがたい雰囲気を醸し出していた。

・黒背景に白抜き文字で「マネージャー部」とだけ書かれたアイコンとヘッダー。
・アカウント作成日を誕生日に設定しているため、アカウントページに入ると風船が飛んでいる。

と間抜けな絵面を提供するこれは、平時ならともかく、不安と悲しみで潰れそうなファンを怒らせるのに十分だった。
また、マネージャー部はファンに対して返信を行い(どっとライブ公式アカウントは基本的に返信をしていなかった)、おかしなテンションで繰り出される中身のない言葉は、「クスリでもやっているんじゃないか」と評された。

画像6

現在(2020年10月)のマネージャー部は、公式アカウントの補足情報やイベント情報のまとめを出すなど、対外的な活動方針が明確であり、またマスコット的な要素も加わったためか、比較的好評なようだ。

しかし、現状はさておき、当時においては間違いなく悪手であったろう。このアカウントの存在でアップランド(アイドル部運営会社)に愛想が尽きた、という元ファンもいた。
悲しい出来事が続いた中、意図不明なこのアカウントを受け入れる余裕があるファンばかりではなかったのだ。

■天鳳の匂わせと楠栞桜、柾花音の誕生
二人の契約解除の傷が癒えぬ中、思いもよらぬ形で事態は進展する。
天鳳運営 角田氏の以下のツイートは、明らかに夜桜たま、および猫乃木もちを意識したものだった。

二人の脱退を嘆き悲しんでいた者たちは、この知らせに歓喜した。
『もしかしてあの子たちですか!?』『本当ならすごくうれしい』

一方で、それなりに権威あるサービス運営が、他業種他社に対して当て擦りともとらえられかねない発信をしたことは、少なくない人間に不信感を与えた。

後に12月24日の天鳳クリスマス杯に2名の女性ゲストが出ることが発表。告知には夜桜たまの画風に酷似した、彼女が描いたとしか思えない絵が添付され、もはや彼女たちの「転生」は誰の目にも明らかだった。

『天鳳さんありがとう』『麻雀業界あったけぇ……』そのような反応であふれていた。彼らは自分たちを裏切った箱を捨て、新たな光に縋るように群がった。

他方、裏アカや天鳳の匂わせムーブに不信感を覚えた層は、あまり出来すぎた展開に慄然としていた。『いくら何でも早すぎる。』
クリスマス杯の告知は17日。契約解除から2週間と立っていない。匂わせツイートに至ってはたったの8日だ。彼らは脱退者たちに強い不信感を抱いた。

失意の中に差し出された希望に縋りついた層、あまりに出来すぎた展開に不信感を持つ層、元は同じコンテンツのファンだった者たちは完全に決別してしまった。
もちろん、どちらも応援することにした人も多くいた。判断を先送りにし、沈黙を選んだ人もいた。しかし、いつでも声が大きいのは先鋭化された集団だ。

私は、このような感情的な決別が起こってしまったことが、この騒動が長く尾を引いた原因だったのではないかと考えている。
人間は、一度決めたことを覆したくないという心理を持っている(一貫性の原理)。多くの人はアイドル部と決別したくなかったはずである。しかし、このときは強い感情の動きがその心理を超えた。
そして、アイドル部を見限った先には楠栞桜と柾花音がいた。

大きな心理的障壁を超え、「アイドル部を見限る」決意と「楠・柾を応援する」決意をした人は、より強く、その決定を覆しがたい心理に陥る。「今度こそ、願いを全うしよう」といった感じだ。
彼らは二項対立の枠の中に納められ、それ以外にあるはずの多様な選択肢が見えなくなってしまった。

■攻撃されるアイドル部
天鳳クリスマス杯と同時刻に、アイドル部も企画配信を行った。これはいつから企画されたものかはわからないが、天鳳告知よりも後に告知されたことから、『わざと被せてきた』『アイドル部が潰しにきた』と評する者もいた。

楠・柾についていくことを決めた人は、二人を守るという名目でアイドル部に攻撃を始めた。もちろん全てがそうだったわけではない。しかし、二人についていった層はアイドル部に失望していたため、その攻撃が諫められることはなかった。もともとあったアイドル部への攻撃的な雰囲気は、ここにきて最高潮を迎えた。

ここに、2020年10月現在でTwitterに残っていた攻撃的なツイートについて、比較的マイルドなものを集めた。あまり気分の良いものではないが、当時の雰囲気を知りたい方は自己責任でどうぞ。
※スマホだとうまく表示されませんが、「PC版サイトを表示→新しいタブで画像を開く」とすると原寸画像を見ることができました(Androidの場合)

さらに当時の雰囲気を生々しく味わいたいなら、2019年12月~2020年3月くらいの各種掲示板、およびまとめサイトのコメントを見るとよいだろう。オススメはしないが。


2020年1月から6月まで

2020年1月9日
・ec「10/22に話し合いがあって、辞めたいかの意思確認」「猫乃木もちは辞めるって言った」
1月17日
・楠栞桜、YouTube単独初配信
2月29日
・竹書房『近代麻雀』にて「楠栞桜のまーじゃん交換日記」連載開始
4月1日
◆ec、アイドル部運営会社社員のLINE画像を貼る
5月4日
◆ec、楠栞桜の天鳳昇段を速報(通称「天鳳速報」)。同じスレ内で楠栞桜本人ではないかと疑われ反論、また7月19日に蒸し返された際ipありで返答
6月7日
・楠栞桜が自身を題材としたマンガの制作者を募集
6月9日
◆ec、楠栞桜の漫画制作者を予想、実際に採用された人物を最有力とする ※ipあり書き込み ※公式発表は7/31

■楠栞桜の躍進
楠栞桜は精力的に活動し、評価を高めていった。一時期伸び悩みを見せた時期もあったが、外部VTuberと積極的に絡む、目立つ企画配信を行うなどで再び成長速度を上げた。彼女の活躍について詳細に語ることは避けるが、彼女の躍進は間違いなく彼女の努力と才能によるものだろう。

■雌伏の時を過ごすアイドル部
他方、アイドル部は攻撃を受け続けていた。人数も減り、メンバーの活動頻度もかつてと比べると大きく減ってしまった。一時的に活動方式を変えたメンバーもいた。それらの動きも『滑稽』と嘲笑された。
体感であるが、アイドル部に対する嘲笑的な雰囲気は4月ごろまで続いていたように思う。

そんな雰囲気を、アイドル部は自力で撥ね退け始めた。
5月のGWに企画された『アイドル部の侵略』だ。これはGWに4日間にわたって開催された大型企画で、ファン内外から好評を得た。

画像7

これを機に誹謗中傷はなくなった……わけではない。
しかし、それまでどこか空元気な印象があったファンの雰囲気は、これ以降目に見えて明るくなったように思う。『彼女たちはファンを楽しませるために頑張ってくれている。』そのことに確信が持てたからだ。


7月から8月14日まで(崩壊のはじまり)

7月7日
◆楠栞桜、ツイキャスで顔も知らないネット上の友人が自殺した、自殺した友人の彼氏に聞いたと涙ながらに語る
7月8日
◆上記ツイキャスをきっかけに蓄積された不満が噴出し、5chに楠栞桜アンチスレが立てられる(疑惑が認知されるきっかけ)
7月12日
◆ec、自身が疑われていることを知り茶化しながら否定、同時に4/1のLINE流出は自分がやったと語る ※ipあり書き込み
7月20日
・初代まとめWikiが開設。現行Wikiは三代目(2020年10月現在)
7月26日
・ニコニコ動画にジョーカー嘘字幕動画が投稿される
7月31日
・楠栞桜自身を題材にした漫画「サクラノシオリ」の制作者発表
・楠栞桜、noteにて悪意のある動画や書き込みに関して法的処置を進めると発表
8月14日
noteからのipアドレス流出が発見され、ecの書き込みで表示されるipアドレスと一致した
・鳴神裁、夜桜たまがディスコード画像をリークしたのではないかという疑惑について「わかんない」と配信で発言
・ニコニコ超会議の企画が楠栞桜の申し出により途中で中止
・楠栞桜、自身も家族も5ch書き込みをしていないと否定し、17日までの活動休止を発表

■アンチスレの誕生
順調に見えた楠栞桜の活動に綻びが出始める。
とあるツイキャスをきっかけに、アンチスレが誕生したのだ。そのツイキャスは友人が自殺したことを涙ながらに語るもので、その不謹慎さ、非常識さに彼女のファンコミュニティでさえも荒れた。また、楠氏はこれ以前にも少々横暴に思える行動をしていた。(少なくとも表向き)初絡みのVTuberに常識外の絡み方をする、自身がアンバサダーを務めるイベント開催中に他者のゲーム配信に参加する(イベント裏解説が予定されていたが、中止になっていた)などだ。
それら一つ一つは些細なことであったが、一部の視聴者には徐々に不満が蓄積していった。これには、2019年にアイドル部運営に対する不満が蓄積していった構図に近しいものを感じる。

このアンチスレの中で、夜桜たまや楠栞桜周辺の情報漏洩や誹謗中傷をしている人物はワッチョイが特徴的だと話題になり、書き込みの発掘と検証が始まった。ec、そして76の発見である。

■疑惑の周知とip一致、胡乱な対応
そこから先は、これまでに解説した通りだ。
状況証拠からec=楠栞桜という疑惑が生じ、ほぼ確信できるまでに至る。そして動画などによって周知が進んだ。
それに対応するように、楠氏はnoteに法的処置を進める旨を発表した。

具体的な弁護士名も出し、厳として戦う姿勢を示した。


その二週間後、楠氏のnote記事のソースコードに、ecが書き込みを行ったipアドレスと同じ数字列が発見された(後にnote公式より利用者の最終ログイン時のipアドレスであることが報告された)。

この件は大きな騒ぎとなり、他の著名人への飛び火、note公式の反応などから広く認知された。
そして楠氏は17日までの活動の休止を宣言し、noteにて自身も家族も「皆様を裏切るような書き込みをしたという事実はありません。」とした。

しかし、この声明は疑惑を払しょくするにはあまりに不十分であった。ipアドレスという具体的かつ直接的な紐づけができる事実に対し、「皆様を裏切るような書き込み」という具体性の欠片もない表現が説得力を持ち得るはずもなかった。

界隈は荒れに荒れ、彼女が通常配信を再開する17日になっても全く収まる気配を見せなかった。


2020年8月17日 以降

8月17日、18日
・楠栞桜がYouTubeで配信を実施。大いに荒れる。
8月18日
・雀魂公式、楠栞桜が出演する公式生配信「てん×くす」の延期を発表
8月19日
・楠栞桜、配信場所へ行けなくなったので当日の配信を休止すると発表
8月20日
・楠栞桜、自身と家族の身の安全を第一に考えてYouTubeでの活動を休止すると発表、案件はクライアントに任せるとした
8月25日
・楠栞桜、『近代麻雀』誌の「楠栞桜のまーじゃん交換日記」と「サクラノシオリ」の掲載延期を申し出たと発表 ※これ以降楠栞桜からの公式な声明は途絶える(ニコニコchのブロマガは除く)。
9月7日
・Loose公式より楠栞桜がまいてつアルバムへの参加を辞退していたことが発表される
9月25日
・ 福地誠氏のnote記事にて、月刊「麻雀界」9/1発売号のコラムに対して楠栞桜が問い合わせをしてきたと言及される(有料記事)
10月8日
・雀魂公式、楠栞桜が出演する公式生配信「てん×くす」の配信終了を発表
10月31日
・ニコニコチャンネル「楠栞桜のしおるーむ」の概要欄が変更され、11月中に声明を出すとした。
11月22日
・ニコニコちゃんねる「楠栞桜のしおるーむ」のブロマガにて声明を発表
12月12日、13日
・同ブロマガにて生放送の予定を告知。翌日、12/24に生放送をすること、ニコニコチャンネルの閉鎖を予定していることを報告
12月24日
・「楠栞桜のしおるーむ」にて生放送を実施(有料会員限定コンテンツにつき、内容には触れない)。
2021年1月14日
・同ブロマガにて、予定通りチャンネルを閉鎖することを宣言(1月29日に新規入会終了、2月26日に閉鎖)。
2月26日
・予定通りニコニコチャンネル「楠栞桜のしおるーむ」が閉鎖

■配信の強行、そして沈黙
楠氏は宣言通り17日から通常配信を再開したが、大方の予想通り、配信は大いに荒れることになった。また、18日には楠氏が出演する公式番組の延期が発表されたのだが、そのことに対して配信内で軽薄な触れ方をしたことも批判を浴びた。
彼女は、もはや「悲劇のヒロイン」ではなかった。

そして19日には「配信場所に行けなくなった」として配信を中止、翌20日には「私と家族の身の安全を第一に考え」youtubeでのリアルタイム放送を休止することを報告した。

この声明では弁護士に相談していることも報告しているが、2022年1月現在、相談している弁護士の名義および登録番号は明かされていない。
(なお、かつてかかわりのあった津田弁護士は「専門の法律事務所を紹介した」と語っている。)

自身をモデルにした漫画の掲載延期(後に連載中止が決定)を報告した後、彼女からの声明は途絶えた(追記:後日、後述のブロマガにて報告あり)。
その後も彼女がかかわる様々な案件が中止、変更になったが(まいてつカバーアルバム、雀魂公式番組など)、現在までそれらに対する言及はない。

■ブロマガ「楠栞桜のしおるーむ」での動き
各メディアでの更新がなくなりしばらく経った2021年11月22日、突如ブロマガ「楠栞桜のしおるーむ」が更新され
・現在入院中であること
・チャンネルを限定的な用途にて継続すること
・しばらくの間配信活動ができないこと
を報告した。

12月12日13日に同ブロマガが更新され、
・12月24日に生放送を予定していること
・チャンネルの閉鎖を予定していること
を報告した。(12月13日のブロマガは一部会員限定)

その後、
・1月14日にニコニコチャンネルのブロマガが更新され、予定通りチャンネルを閉鎖することを報告した。
・報告の通り、1月29日に新規入会が終了し、2月26日にチャンネルが閉鎖された
・閉鎖に際し、Twitterなどでのアナウンスはなかった。なお、Twitterは2020年8月25日、Youtubeは8月18日、noteは8月20日を最後に更新が止まっている(2022年1月時点)。


時系列順のまとめは以上である。
記載内容に誤謬、誤リンク等ありましたらご指摘いただきたい。



教訓について改めて考える

先にも書いたが、この騒動は「楠栞桜は邪悪だった」で終わらせるべきではない。傷つくべきでない人を傷つけてしまった、この悲劇がなぜ起こったのかを分析し、そこから視聴者一人一人が学ぶべきなのだ。

騒動の経緯を知った今、先に示した教訓について改めて考えていこう。


①不確定な情報から結論を出さない
②情報の精度、恣意性を意識する 

そもそも、なぜ今回の騒動でアイドル部が悪役になってしまったのかを考えよう。

今回の騒動では、どっとライブ公式から詳細な経緯が発表されることはなかった。そのような中、裏アカの仄めかしやアンチスレでのリーク、鳴神裁の動画などによって真偽不明な情報が拡散された。それらは憶測を生み、視聴者の中に『被害者』像を作り上げた。

直接裏の情報に触れていない層も、拡散された情報やそれによって生まれた憶測に触れることで、夜桜・猫乃木は被害者であると認識していった……


公式が詳細を発表しなかったことに関しては賛否あるだろう。真実がどうであろうと言ってほしい、と考える人もいるだろう。
真実をすべて公表すれば結果はマシだったかもしれない。もっとひどい状況になってたかもしれない。
それは誰にもわからない。

考えるべきは、「運営がどうすればよかったか」ではなく、「我々はどうするべきだったか」だ。


さて、読者の皆様は偏向報道という言葉をご存じだろうか。特定メディアが自分や関係のある他者に有利となるよう、恣意的に操作された情報を流すことだ。

……馬鹿にするな?申し訳ない。
そう、現代を生きる文明人にとって、偏向報道という概念は常識に近い。
そして多くは、情報を流せる立場を利用し、私腹を肥やす悪党を許せないと思っているだろう。


ではなぜ、何の責任も伴わない裏アカやゴシップ動画の情報を信じるのか。
彼らが、自分にとって不都合な情報も隠さず誠実に発信するとでも思っているのか。


人は、自分の得た情報が偏向報道によってもたらされたものだとなかなか疑わない。
人は無意識的に、自分にとって都合のいい情報を信じ、そうでない情報を無視してしまう認知バイアス、特に確証バイアス感情バイアスと呼ばれる心理効果によるものだ)
しかし、恣意的に操作された情報で判断を誤ってしまうことは誰しも避けたいと思うだろう。誤った情報に踊らされ、自分自身が加害者になるなど目も当てられない。

そうならないためには、次の点を意識するとよいと思う。
・情報から「確定できること」と「推測できること」を切り分ける。
「確定できること」は「推測できること」よりずっと少ない。
・当事者以外が知ることのできる事実は限りがある。見える事実より、見えない事実がたくさんある。
・出てきた情報で、誰が有利になるのか。


裏アカやゴシップ動画から得られる情報は、「不確定な情報」だ。
それが全てデタラメだ、とは言わない。しかし、それらを鵜呑みにし、判断の前提にしてしまうことは非常に危険だ。

少々剣呑な例えになってしまうが、こんな話がある。
捕虜を拷問して情報を引き出すとき、二人以上を同時に拷問しなければあまり意味がない。それぞれから引き出した情報を擦り合わせない限り、情報の真偽に確証が得られないからだ。
捕虜が嘘をつくかもしれないし、捕虜の認識が間違っている可能性もある。

つまり、一方向からの情報のみで安易に判断することはできない、ということだ。
そして、判断がつかないなら、判断を保留にする選択肢も考えるべきだ。「判断を保留する」という判断は、決して逃げではない。情報社会を生きる上で、必要な処世術だ。

なお、こちらのnote記事はドルアンec騒動と関連付けて認知バイアスを解説している。少々嘲笑的なニュアンスを含むが、認知バイアスについてざっくりと把握するのには良い記事だと思う。興味があれば読んでみてほしい。


③感情論や印象での判断は避ける

この騒動を俯瞰して見ると、視聴者はひたすら感情に振り回されていたように思う。2019年12月はあまりに多くのことがあった。誰だって心を乱されて当然だ。
しかし、重大な決断をするとき、感情的になったままで本当に良いのだろうか。それを、貴方は後悔しないだろうか。

あの時は視聴者も様々な判断を下さなければならなかった。多くが感情に流され、どちらかに肩入れした。ついでに暴言も吐いた。
しかし、そんな中でも感情に流されず、誰も傷つけないような判断をした人たちも、確かにいたのだ。

ip一致騒動が起きた後、各掲示板や動画サイトには「ごめんなさい」「あなた達は間違ってなかった」などのコメントが数多く書かれた。
彼らはどのような気持ちでそのコメントを書いたのか。

彼らの気持ちを完全に理解することはできないが、そこには後悔がにじんでいるように感じてならない。



突然だが、この騒動で個人的に印象的だった出来事があるので紹介させてほしい。

2020年1月末、花京院ちえりに「PUBGでチートを使用し、SteamアカウントをBANされたのでは」という疑惑が出てきた。きっかけとなったのは下の動画だ。(些細ではあるが、「前世」にかかわる情報も入っている。気にする方はご注意を。)

この動画が出てきたとき、私は違和感を感じた。
花京院ちえりに抱く印象は「真面目で頑張り屋」だ。これは、少なくとも10月の騒動前までは、アイドル部ファンの共通認識だったはずだ。

チートを使った、という疑惑はそのような印象とはまったく一致しない。
しかし、上記動画以上の情報があるわけでもなく、また彼女のことを完全に理解していると言えるほど、私は自惚れていなかった。そのため、私はとりあえず「疑惑があること」「彼女の印象とは一致しないこと」を認識した上で、判断を保留することにした。
印象論は往々にして願望が含まれることを知っていたからだ。

そしてその後、花京院ちえりがLenovoの公式PUBG案件に出演すること、そしてアカウントハックを受けていたことが報告される。

これらの報告を受け、私は「彼女の口から出た情報は信頼できる。少なくとも、視聴者に誠実さを示している。」と考えるようになった。

なぜなら、彼女は筋の通った説明を行い、外部組織にもそれが信じてもらえていることが分かったからだ。
アカウントハックされたことについて、運営から許可を得て発言していると彼女は話した。と、言うことは、「アカウントハックされた」という情報は公にしていい情報≒すでに案件先には説明している公算が高いということなのだ。

話せる部分を明確に説明する姿勢、そして公式な外部組織から認められていること、これら二方向から信頼性の担保があったことは、彼女自身の誠実さを強く保証した、と私は考えた。

しかし、全く異なる解釈をした者もいた。
「チート使った分際で案件に出るとか正気か?」「アカウントハックって便利な言葉だね。」
これらの言葉を見たとき、私は我が目を疑った。そしてその言葉を吐いた同じ口で、「楠栞桜がいかに信頼できるか」を、どっとライブへのあからさまな皮肉として語っていた。

恐らく、彼にとって「信頼」とは単なる好感度なのだ。

彼らにとっては「いい印象」の楠栞桜は必ず正しく、「悪い印象」の花京院ちえりは常に間違えているのだろう。
そうやって印象論ですべてを判断し、根拠薄弱な誹謗中傷をすることを恥とも思っていなかったのではないだろうか。
(ちなみに、執筆時点(2020年10月)でそのアカウントは消えていた。2020年8月初頭にはまだ存在を確認できたのだが、不思議だ。)


先にも説明したように、人は信じたいものしか信じない。
それでも、
・自分の判断は感情に流されていないか
・他者に抱く印象は、自分の願望の投影ではないか
を意識することで、悲しい勘違いをいくらかは避けることができるのではないだろうか。


④二元論に陥らないようにする

世の中の大抵のことは、完全に善悪に分けられるものではない。何らかのトラブルがあった際、多くの場合は(程度の差はあれど)広く関係者に過失がある。

『騒動のあらまし』で、私が示した「悲劇のヒロイン物語」とその「善悪逆転版」。これらは完全に善と悪が分かれている物語だ。
この神話のような物語が受け入れられていたことが、今回の騒動の根底にある。

失敗や勘違い、些細な事からのすれ違いは誰にでもある。それらの可能性をすべて無視し、他者に正しさを押し付けることを、人は妄信と呼ぶ。

極端な二元論を信奉し、二項対立的な思考に陥ると、必ず他方を攻撃してしまう。
二元論を成立させるためには、自分たちは完璧な善で、他方は完璧な悪でなければならない。そして善は世を正すのが役目であり、悪を懲らしめる義務があるからだ。

しかし多くの場合、どこかに綻びは出る。彼らは信仰が揺らぐことを恐れるため、小さな瑕疵でさえ許さない。綻びは無理やり擁護する、または無視するため、さらに攻撃性を増す。
こうして先鋭化した思想は過激な行動を引き起こし、過激な行動はさらに思想を先鋭化させる。

そしていつしか、「信仰のための攻撃」が「攻撃のための信仰」なってしまう。これは先鋭化した集団ではしばしば起こることだ。
ネット掲示板など、対立が起こりやすい場所では特にわかりやすいだろう。
ネットで人を叩く、という行動には後ろ暗い快感がある。そして叩くのに、二元論は実に便利だ。

これはどの集団にも当てはまることだ。誰しも危険な狂信者になってしまう可能性がある。
先に「悲劇のヒロイン物語」を神話と断じたが、その「善悪反転版」もまた神話だ。粗探しをしろ、とは言わないが、信仰対象を過剰に美化するべきではない。
美しい妄想を守るため、人は簡単に加害者になってしまう。


また、③とも通じる部分があるが、「レッテル貼り」には気を付けるべきだ。
「脳死信者」「だって〇〇だし」「~は無能」etc......
このようなレッテル貼りは、わかりやすいカテゴリに対象を押し込めることで批判に至るまでの思考プロセスを省略してしまう。
何も考えずとも攻撃できてしまうのだ。

レッテル貼りを前提とした批判は、「何を批判していたのか」を曖昧にしてしまう。
批判の目的が批判対象の改善であるなら、それは本末転倒であろう。


VTuber界隈における批判のテンプレートに、「全肯定信者」というものがある。
以下のnote記事は全肯定信者、特にその攻撃性について批判している。

彼の批判は正しいだろう。論点をずらした擁護、責任の押し付け、他のVTuberファンを煽る……これらは明確に批判されるべき行為だ。

しかし、それらの批判をまとめ、「全肯定」というカテゴリに押し込めることは、批判されるべき問題点を曖昧にし、ファン同士の対立を作ってしまうのだ。
誰かが問題のある行動をしたのなら、その行動を諫めればいいはずだ。レッテルを貼り、「全肯定」という批判的カテゴリを作る必要はない。

上記記事の筆者は「推しのことを純粋に応援している」ファンは「全肯定」ではない、と書いているが、「全肯定」という批判的カテゴリを作ることで、そのような非難されるべきでない人々も非難に巻き込んでしまう可能性がある。
事実、かつてのアイドル部ファンには「おけまるbot」という蔑称がつけられ、攻撃の対象にされた。他者への攻撃性を示さず、単に公式や演者にエールを送っているだけのファンですら、だ。


また、「おけまるbot」叩きから派生し、さらに先鋭的な思想として『悪い点を指摘できるファンこそ真のファンである』『全肯定は演者と運営を腐らせる』というものが生まれた。一部の過激な者はこのような思想を振りかざし、アイドル部を応援するファンを攻撃していた。
このような思想が生まれた背景には、かつて「モンペ(モンスターペアレント)」という言葉が対立意見を封殺するのに都合よく使われた事実がある。それに対するカウンターとして、今度は「全肯定」が対立意見を封殺するのに使われたのだ。

※補足※
「モンペ」という言葉が生まれるきっかけとなった「ばあちゃる」の配信について私は、意図は汲み取れるが配信自体は褒められない、と考えている。
彼の「モンペ」発言の意図は『推しを理由に他所様に迷惑をかけるな』ということだが、これは正論だろう。それによって推し自身にも迷惑がかかる以上、運営として放置しておけるものではない。
しかし、彼の配信がきっかけでどっとライブ界隈が荒れたことは事実である。結果論的な判断となってしまうが、彼はもう少し伝え方を考えるべきであったと思う。


全肯定だっていいじゃないか。
演者や運営にエールを送ることは、何ら非難されるべきことではない。不満を持っていようが、それを表に出すかどうかは当人の自由であるはずだ。
「ダメなところはダメと言え」とは、結局「自分と同じ不満を持て」という同調圧力に他ならない。同質の存在以外を認めない、二元論的な攻撃性がそこにはある。

全肯定であろうがそうでなかろうが、諫めるべきは他者への攻撃性や迷惑を顧みない行為自体ではないだろうか。


かつてアイドル部界隈は、「まともなファンは全員出ていった。」と言われることがあった。そしてip一致騒動後、今度は「モンペは全員出ていった。」という声が出るようになった。
ほとんどの人はわかっていたはずだ、「そんなわけない」と。

どの界隈にも厄介な人間はいるし、まともな人間もいる。それらを一括りにして語ることの、なんと愚かなことか。
レッテル貼りを前提とした批判はするべきでないし、吹っ掛けられても付き合う必要はない。


終わりに

この騒動の本質は、悲しいファン感情の暴走だったのではないだろうか。
不自然な点は多々あった。それにも関わらず、多くが不確定な情報や怪しげな煽動に踊らされ、見るべき情報や誠実な訴えを無視した。
そして関係者たちを勝手に二項対立の枠の中に押し込んでしまった。

そういった意味では、アイドル部はもちろん、楠栞桜、柾花音も被害者ではないだろうか。

運営には落ち度があった、アイドル部も迂闊なところがあった。そして疑惑が真なら、楠栞桜はあくどい人物なのだろう。
しかし、感情に任せてアイドル部を攻撃したのは、我々視聴者だ。


ネットには次のような言葉も見られる。
『俺だって傷ついた』『〇〇したのだから叩かれて当然だ』

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確かに彼らも嫌な思いをしたのだろう。彼らの中の基準で、許せないラインを超えていたのかもしれない。
それでも、勘違いで誰かを傷つけることに、良心の呵責を感じないわけではないだろう。

繰り返すが、感情に任せてアイドル部を攻撃したのは、我々視聴者だ。
だからこそ、我々には反省が必要なのだ。


■楠栞桜が嫌いなあなたへ

こんな記事を書いておいて何なのだが、楠氏や、氏のファンを攻撃しないであげてほしい。もちろん柾花音もだ。
特に、誰かを攻撃したりせず、純粋に楠氏を応援し、彼女を待っているファンのことを馬鹿にしたりしないでほしい。彼らに非難されるべきことは何もないはずだ。

アイドル部に非難が集中していた頃、私が最も心を痛めたのは純粋に応援しているだけのファンにまで攻撃が及んだことだ。
彼らは些細な事を晒し上げられ、嘲笑された。
例え誰のファンであろうと、あのような光景はもう見たくない。

この騒動で「人を呪わば穴二つ」という言葉をよく耳にする。なればこそ、我々も人を呪う浅ましい人間になってはいけない。
我ながら綺麗事だと思うが、我々は綺麗事がバカにできないことをつい最近目の当たりにしたばかりだろう。


■アイドル部(どっとライブ)のファンへ

アイドル部を応援していたファンの人たちは、ある意味今回の騒動の当事者である。当然、様々な思いがあるだろう。
世論がアイドル部やどっとライブに優しくなり、喜んだ人も多いのではないか。

アイドル部ファンの皆様に言いたいことは、アイドル部を「楠栞桜の被害者」というコンテンツにしないでほしい、ということだ。

先に私は、楠栞桜は「正義でなければ成り立たないコンテンツだった」と書いた。この騒動を通してわかったことは、そのようなコンテンツは前提条件が揺らいだだけで容易く崩壊してしまうということだ。
彼女たちを同じようなコンテンツにしてはならない。

ずっとアイドル部を応援してきたファンは十分承知しているだろうが、楠栞桜と関係なく、彼女たちは自身の魅力でちゃんと輝いている。
そして彼女たちには多様な可能性があり、視聴者の願望でそれが狭められてほしくないと思う。ファンの皆様には、誰かを攻撃するのではなく、彼女たちの方を見てあげてほしい。


■楠栞桜に対する個人的な思い

人心掌握の古典的なテクニックに「重要感を与える」というものがある。
これは1930年代に出版された世界的ロングセラー『人を動かす』(著:D・カーネギー)でも1つのセクションを丸々使って解説されるほど、重要かつ有名なテクニックだ。
夜桜たま、楠栞桜はこれがとても上手かった。

彼女の魅力の一つに「エゴサ」がある。Twitterで彼女の名前を出しただけでどんな些細なつぶやきも「いいね」された。
『彼女はファンを見てくれている』そう考える人が多かったのも頷ける。
Twitterだけでなく、ドルアンでの裏アカの動きなどもそうだが、彼女にかかれば「名もなき一ファン」が「推しに認知された特別なファン」に容易く変わってしまう。
自分に「重要感」(=自己肯定感)を与えてくれた人のことは、なかなか悪く言えないものだ。騒動初期、彼女への擁護が多かったのはこの辺りも関係しているのではないか。

そういった意味で、間違いなく彼女は配信者として非凡な才能があった。
私自身の好き嫌いで言えば、楠栞桜は好きではない。しかし、彼女はVTuber界と麻雀界において大きな存在になれるはずだった。それだけの能力と才能は、間違いなくあった。
それだけに、現在の状況が残念に思う。


あとがき

How dose it feel?
How does it feel?
To be without a home?
Like a complete unknown?
Like a rolling stone?
(※)

When you ain't got nothing, you got nothing to lose
You're invisible now, you've got no secrets to conceal
(※)


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