片羽の鳳凰は青藍の空を恋う あらすじ+序章
<あらすじ>
人が必ず双子で生まれる世界。
『鳳凰之国』では、一人で生まれる人間を『片羽』と呼び、災いを招く存在として嫌う風潮があった。
そんな片羽である皓皓は、国境近くの山に一人住まい、薬師をしている。
ある日、皓皓が薬を売るために山から下りると、里で開かれていた市に、兄皇の第一皇子、宛がお忍びで見学に来ていた。
片羽に興味を持った宛により、皓皓は近隣の山奥にある、弟皇の皇子、藍の宮に招かれる。
同じく片羽であることで、皇族内で忌み嫌われ、辺境での隠居生活を強いられていた藍。
彼との出会いにより、皓皓は鳳凰之国を取り巻く災いの根源に触れていくことになる――
<序章>
宵闇に涼やかな胡琴の音が響く。
帳を上げて閨に入ると、褥に体を起こした女が弓を弾いていた。
「寝ていなければ駄目だと、医師に言われたのであろう?」
咎められた彼女は小さく微笑んだ。
「少しでも多くこの子に聞いておいて欲しくて。
私にはこれくらいしか、教えてあげられるものがありませんから」
白く細い手が幼子の黒髪を撫でる。
まだ柔らかい髪に結ばれた赤い飾り紐は、その子がまだ胎の中にいるうちに、彼女が編み上げた物だ。
「可哀想に。泣き疲れて眠ってしまいました」
我が子を愛おしげにあやす彼女自身泣きそうな顔をしていて、居た堪れなさに手を伸ばす。
触れた頰は、数年前に比べて随分窶れてしまった。
「まだ熱があるではないか」
「ええ。だからあまりお近付きにならないでください。うつしてしまったら困ります。この子にもそう言っているのですが、聞かなくて」
幼子は眠りの中にありながら、母の手をぎゅっと握って離さない。
我が子を見詰めて込み上げてくる感情は、何度改めたところで、当たり前の親のそれでしかない。
だからこそ、決めたことを口にするのが苦しかった。
「……この子が七つの歳を迎えたら、神の御許に仕えさせようと思う」
「それは、」
顔を青くして腰を浮かせた彼女を宥める。
「鬼籍に入れようという話ではない。大神殿に預け、神職に就かせるということだ」
彼女は推し量るようにこちらを見詰めた後、
「……それが良いのかもしれませんね」
と囁くような声で答えた。
本当は誰より、自分自身が良いとは思っていない提案である。
叶うことなら、彼女も、我が子も、この腕の中にいつまでも置いておきたい。
そう願うのは当然ではないか。
「そうすれば、私が神の御許へ還っても、ずっと側にいられますものね」
その時をそう遠からずのこととして語る彼女の微笑みに、堪らなくなって細い肩を抱き寄せた。
掛け布団の上に突っ伏した幼子がむずがって声を上げたので、親たちは慌てて体を離す。
父母の願いを知る由もなく、幼子は眠り続けていた。
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