めりー

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  • 片羽の鳳凰は青藍の空を恋う

    「片羽の鳳凰は青藍の空を恋う」(全16話)まとめ

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地球の歯車

    • 「片羽の鳳凰は青藍の空を恋う」全話投稿し終わりました。 「創作大賞2023」にエントリー中です。よろしくお願いします。

      • 片羽の鳳凰は青藍の空を恋う 第15話(終)

           諸々の後始末を終え、藍と皓皓が紅榴山の宮に戻って来たのは、冬も終わりの頃だった。    小翡と小翠は、藍と皓皓の姿を見るなりわんわんと泣き出した。   「おかえりなさいませ!」 「よくぞ御無事で!」    他の者たちは主の帰還にも姿を現さず、今まで通りの「見えない使用人」に戻ってしまったらしい。  寂しい気もするが、彼らの心遣いは目に見えずとも十分に伝わっている。  あの日、二人を逃がすために宛の臣下に立ち向かった使用人たちは、多少の怪我はした者はあったが、全員無事だっ

        • 片羽の鳳凰は青藍の空を恋う 第14話

           藍と引き離された皓皓は目隠しをされて何処かに運び込まれ、拘束を解かれたのは、薄暗い牢屋の中でのことだった。  道中聞こえてきた、宛の臣下の話の断片から予想する限り、どうやら此処は皇宮の地下にある牢らしい。  鉄格子の間から周囲の様子を伺うと、六つある独房のうち、人がいるのは皓皓のいる此処だけのようである。    気掛かりなのは藍のことだ。  藍は思惑通りの形で宛と対峙し、間違いを正すことが出来るだろうか。  叶うことならそれを見届けたいが、自力で牢を脱出する術は見付かりそう

        地球の歯車

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        • 「片羽の鳳凰は青藍の空を恋う」全話投稿し終わりました。 「創作大賞2023」にエントリー中です。よろしくお願いします。

        • 片羽の鳳凰は青藍の空を恋う 第15話(終)

        • 片羽の鳳凰は青藍の空を恋う 第14話

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        • 片羽の鳳凰は青藍の空を恋う
          16本

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          片羽の鳳凰は青藍の空を恋う 第13話

             掬い上げた火を飲み込んだ途端、藍の体がその場に崩れ落ちる。  皓皓は慌てて駆け寄った。   「藍! 藍、大丈夫?」    助け起こそうとした手が乱雑に払い退けられる。   「誰に向かって口を聞いている?」    藍の口から吐かれたのは確かに藍の声で、しかし、藍の言葉ではなかった。   「我が国のことながら嘆かわしい。一体いつから人間は、これほど礼儀知らずの生き物になってしまったのだ?」    ゆらり、と立ち上がる藍の体から、皓皓は一歩、二歩、後ずさる。    様子がおか

          片羽の鳳凰は青藍の空を恋う 第13話

          片羽の鳳凰は青藍の空を恋う 第12話

            ――おまえさんの国で、もっとも神に近い場所を訪ねてみるといい。    風の神の言葉を受け、藍たちは皇都にある大神殿を目的地に定めて旅を続けていた。  鳳凰之国の皇都は、国土の中心よりやや南寄りに位置する。  北の国境からは、まだまだ長い道のりだ。   「僕が二人を乗せて飛べたらよかったんですけれど」 「いやいや。大の男二人が嬢ちゃんにおぶわれるわけにいかんだろう」    皓皓がすまなそうに言うと、チノがそう茶化す。  以前、彼女に背負われて宮を逃げ出した藍には、耳の痛い話

          片羽の鳳凰は青藍の空を恋う 第12話

          片羽の鳳凰は青藍の空を恋う 第11話

           故郷で暮らしていた時には、山中に罠を仕掛けて兎などの動物を捕まえていたが、狼狽之国の狩りはそれとはまったく違った。  タルが獲物を見付けるやいなや合図を出し、マナンとウールの二人が狼の姿を纏って大地を駆る。  必死に逃げる鹿とのぎりぎりの攻防の末、狼がその首筋に噛み付いて足を止めさせた。追い付いたタルが剣で止めを刺す。  チノから借りたシロに乗って二人を追い掛けた皓皓が、装備していった弓を使う機会はついぞ訪れなかった。   「残酷だと思うかい?」    人の姿に戻った二人が

          片羽の鳳凰は青藍の空を恋う 第11話

          片羽の鳳凰は青藍の空を恋う 第10話

           翌朝目覚めると、丸い天井に見下ろされていた。 支柱から放射線状に伸びる梁の数を意味もなく数える間に、意識がはっきりとしてくる。   (そうだ。ここは狼狽之国なんだった)    近頃、朝起きる度に見える景色が違うので、自分が今何処にいるのかを思い出すまでに時間が掛かってしまう。  ほんのひと月と少し前まで、山奥のあの小屋以外の場所で眠ることなどなかったのに。    むくり、と体を起こす。  皮と布だけで頼りなく思えた壁は意外に頑丈で、よく風を遮断し、眠っている間、寒さに震える

          片羽の鳳凰は青藍の空を恋う 第10話

          片羽の鳳凰は青藍の空を恋う 第9話

           チノの言う「知り合いの一族」がいる場所へは、歩いて二日の道のりだった。  つい「空を行けばあっという間なのに」と思ってしまうが、今の皓皓に藍とチノの二人を運んで飛べるはずもなく、地道に陸の道を行く他ない。  驚くほど平坦で何もない道を、チノは迷いのない足取りで進んで行く。   「何を目印にしているんですか?」 「風さ」    尋ねると、冗談とも本気とも付かない答えが返ってきた。   「昼なら太陽。夜なら星。それと季節を重ねれば、道などなくても迷わんもんさ」    皓皓の傷は

          片羽の鳳凰は青藍の空を恋う 第9話

          片羽の鳳凰は青藍の空を恋う 第8話

           どれくらいの時間、どれくらいの距離を飛んで来たのか、わからない。  ついに力尽きた皓皓は、それでも藍をしっかりと地面に送り届けるまで、決して変化を解かなかった。   「こ、うこう……?」    皓皓の肩に巻かれた包帯が激しくなってきた雨に濡れて、赤い色を滲ませている。    血、だ。  血が流れ続けたら、死んでしまう。  母のように。芻のように?   (また俺のせいで誰かが不幸になる)    嫌だ。嫌だ。嫌だ!   「これはまた、珍しい客人だな」    突然現れたその人は、

          片羽の鳳凰は青藍の空を恋う 第8話

          片羽の鳳凰は青藍の空を恋う 第7話

             芻が皓皓を連れ出してくれた後、   「強引な手段を取ったことは謝るよ。ちゃんと話そう」    急に殊勝な態度に直った宛と並んで、藍は庭を歩いていた。   「頼むよ、藍。僕はどうしても、君に表舞台に立って欲しいんだ」 「今更だろう」 「子供の頃からの約束じゃないか。いつか僕が兄皇の座に就いたら、藍は芻と結婚して弟皇になる。そうして三人で国を治める、と」    宛がいつまでも昔の戯言を忘れないでいることに、苦々しい思いで舌打ちをした。  藍がまだ五つの頃の話だ。まだ、かろう

          片羽の鳳凰は青藍の空を恋う 第7話

          片羽の鳳凰は青藍の空を恋う 第6話

           その日、小翡と小翠は一段と立派な着物を用意していた。  近頃は当たり前に使用人の着物を借りていた皓皓には、細やかな刺繍で縁取られた袖が重く感じられる。   「皇子皇女様をお迎えするのに使用人と同じ格好では」    二人は朝からずっとそわそわとしており落ち着かない様子だ。   「やっぱり僕には似合わないね」    慣れない着物を纏った皓皓が照れ隠しに笑うと、揃って首を振る。   「そんなことはございません!」 「よくお似合いです、皓皓様」    皓皓は今にも泣き出しそうな二人

          片羽の鳳凰は青藍の空を恋う 第6話

          片羽の鳳凰は青藍の空を恋う 第5話

             里の様子を見てみたい。  それが藍からの「頼み」だった。    いざこれから、と言うにはあまりに遅い時間だったため、出掛けるのは翌朝にしようと、その日は皓皓の粗末な家で夜を明かしてもらった。  不遜な態度の割に、薄い布団に文句の一つ、嫌味の一つ言わないあたりが、彼の性根が本当はどうあるのかを表しているのだろう。   「その着物は着替えた方がいいと思います。里では目立ちますから」    皓皓の助言に、黒い長衣を見下ろして、藍は無言で頷く。  黒い着物が民間でも奇抜に映るこ

          片羽の鳳凰は青藍の空を恋う 第5話

          片羽の鳳凰は青藍の空を恋う 第4話

           この宮へ閉じ込められて何日目だったか、数えるのが面倒になってきた頃の、ある夜。    前庭で摘んだ薬草と一緒にいくつかの道具も部屋に運んでもらい、夕食後、皓皓は摘みたての野草茶を入れた。  青臭く懐かしい香りが、毎食の豪華な料理でもたれつつあった胃に染み込み、ふっと落ち着いた気分になれる。    思った以上に沢山摘み取ってしまった薬草たちは、小さな束に分けて窓辺に吊るした。こうしておけば水分が抜けて、日持ちするようになるのだ。    夜風に草の匂いが混じる。  昼間日向でせ

          片羽の鳳凰は青藍の空を恋う 第4話

          片羽の鳳凰は青藍の空を恋う 第3話

             とんでもないことに巻き込まれてしまった。    皓皓は宮の周囲をぐるっとなぞるように歩きながら、これからのことを考える。  宮殿に閉じ込められて、四日目のことだ。    藍の言う通り宮の裏手は高い壁で囲まれており、取っ掛かりのないつるりとした壁面は、山歩きに慣れ親しんだ皓皓でも乗り越えられそうにはなかった。  しばらく散策してみても、猫が通れる隙間もない。  壁沿いにいくつか倉庫が建てられていたが、その屋根の上までよじ登っても、まだ壁の頂上には到底手が届かない。  壁沿

          片羽の鳳凰は青藍の空を恋う 第3話

          片羽の鳳凰は青藍の空を恋う 第2話

           兄皇と弟皇。  鳳凰之国は二人一対の皇によって治められている。    現在の兄皇は麒麟之国から皇后を迎え、二人の間には第一皇子皇女の双子と、第二皇女の双子があった。  皇都から遠く離れた片田舎に住む皓皓は、皇家御目見えの機会に恵まれたことはない。それでも、第一皇子皇女についての噂、とくに、特徴的な赤みがかった金の髪と、際立って美しい容姿については聞き及んでいる。  まさか、こんな形で見えることになろうとは、夢にも思わなかったけれど。    鳳凰之国は北を狼狽之国と接しており

          片羽の鳳凰は青藍の空を恋う 第2話