タナカマーサ

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記事一覧

白む鯉の尾

あらすじ ある出来事がきっかけで大学を中退し、まともな生活が送れなくなった悠は、仕方なくキャバクラのバイトでその日の生活費を稼ぐようになる。慣れない環境で出会っ…

タナカマーサ
3週間前
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セブン

引き抜いてしまった一本を元に戻そうと、指先から逆を辿り中心へ。溺れる僕を見て君は笑うだろうな。本当はこの身体や皮膚からはみ出して、君を創造する輪郭になってしまい…

タナカマーサ
1か月前
1

ワンルーム

あの狭い部屋のドアには、硬いもので殴ったような凹みがあったけれど、それを口にして確かめたことはない。その前で脱がれた靴は揃えられた回数の方が少なくて、いつも両足…

タナカマーサ
2か月前
1

下手くそでも愛したい

 午前二時の水は冷たい。あるはずのないたてがみが、ピンと立つような気がする。  しーっと、歯の隙間で空気を振るわせながらペーパータオルを取ると、雪崩れるようにつ…

タナカマーサ
3か月前
7

夜はともだち

絞り出すように毎朝起きている。もう毎日毎日絞り出しすぎて、カラッカラだよ。携帯を握りしめて寝るから、画面の明かりに夢の中の私が言う。 「目がチカチカする」 無意識…

タナカマーサ
3か月前
2

洗いたい靴下

 初めての夜、ゴムの緩んだ白い靴下が、鳴沢の高い甲に引っかかってなかなか抜けないのを、ちひろは足の親指と人差し指を使って、するりと床に落とした。「器用やなあ」と…

タナカマーサ
3か月前
6
白む鯉の尾

白む鯉の尾

あらすじ

ある出来事がきっかけで大学を中退し、まともな生活が送れなくなった悠は、仕方なくキャバクラのバイトでその日の生活費を稼ぐようになる。慣れない環境で出会ったのは、ボーイをしていた正義だった。一緒に暮らすようになり、さまざまな面でサポートを受けながら、悠は徐々に自分の人生を取り戻していく。過去の出来事と向き合うきっかけも正義は与えてくれるが、悠は吃音症と生い立ちを気にする内気な正義を受け入れ

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セブン

セブン

引き抜いてしまった一本を元に戻そうと、指先から逆を辿り中心へ。溺れる僕を見て君は笑うだろうな。本当はこの身体や皮膚からはみ出して、君を創造する輪郭になってしまいたいとさえ思うのに、せいぜい紫が空気に触れ赤くなるだけで、気付けば息絶える弱っちい魂。でもまだいいでしょ。これでもまだいいでしょ。楽して愛せるなんて教わってこなかったから、呼吸ひとつごとに毎度死を選ぶ。産声をあげる瞬間の快楽を四六時中君に。

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ワンルーム

ワンルーム

あの狭い部屋のドアには、硬いもので殴ったような凹みがあったけれど、それを口にして確かめたことはない。その前で脱がれた靴は揃えられた回数の方が少なくて、いつも両足バラバラに飛び散って、台所には油の黒と歯磨き粉の白がへばりついていた。私達は生きていくことのしんどさを胃の中で破壊しながら、時々それを部屋中に撒き散らした。靴も油もミントもしんどさも、同じように、当たり前に。鉄製のドアからベランダのカーテン

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下手くそでも愛したい

下手くそでも愛したい

 午前二時の水は冷たい。あるはずのないたてがみが、ピンと立つような気がする。
 しーっと、歯の隙間で空気を振るわせながらペーパータオルを取ると、雪崩れるようについてきた数枚が、汚れた洗面の中と外へ散らばった。あぁーと思った時、タイミング悪く人が入ってきて、遠くにうっすらと聞こえていたBGMが、一瞬大きくなる。
 短いエプロンが、痩せた腰に巻かれている。黒の帽子に小さな顔が埋まっていて表情は分からな

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夜はともだち

夜はともだち

絞り出すように毎朝起きている。もう毎日毎日絞り出しすぎて、カラッカラだよ。携帯を握りしめて寝るから、画面の明かりに夢の中の私が言う。
「目がチカチカする」
無意識の中で充電器の先を穴に挿し込む。電子機器はエロいな、なんてバカみたいなことを思うのは深夜だから、です。
洗濯機を回す。日付が変わって数時間の頃の外気。さらされた洗濯物は少し寒そうにしてる。蒸し暑い夏が終わったね。涼しい秋はすぐにいなくなっ

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洗いたい靴下

洗いたい靴下

 初めての夜、ゴムの緩んだ白い靴下が、鳴沢の高い甲に引っかかってなかなか抜けないのを、ちひろは足の親指と人差し指を使って、するりと床に落とした。「器用やなあ」と感心したように言われたので、照れ隠しに鼻で笑うと、野球の練習でざらついた指が、ちひろの鼻先ごとその空気を潰す。
 されるがままの足元を、確認しようとする鳴沢の息が顎の先に当たった。緊張しているのかいつもと違う臭いがして、ちひろはそれを誤魔化

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