タナカマーサ

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最近の記事

白む鯉の尾

あらすじ ある出来事がきっかけで大学を中退し、まともな生活が送れなくなった悠は、仕方なくキャバクラのバイトでその日の生活費を稼ぐようになる。慣れない環境で出会ったのは、ボーイをしていた正義だった。一緒に暮らすようになり、さまざまな面でサポートを受けながら、悠は徐々に自分の人生を取り戻していく。過去の出来事と向き合うきっかけも正義は与えてくれるが、悠は吃音症と生い立ちを気にする内気な正義を受け入れられず、逃げるように家を出る。六年後の再会で、正義は謝る悠を許し、悠をまだ好いて

    • セブン

      引き抜いてしまった一本を元に戻そうと、指先から逆を辿り中心へ。溺れる僕を見て君は笑うだろうな。本当はこの身体や皮膚からはみ出して、君を創造する輪郭になってしまいたいとさえ思うのに、せいぜい紫が空気に触れ赤くなるだけで、気付けば息絶える弱っちい魂。でもまだいいでしょ。これでもまだいいでしょ。楽して愛せるなんて教わってこなかったから、呼吸ひとつごとに毎度死を選ぶ。産声をあげる瞬間の快楽を四六時中君に。君も僕と同じ空っぽになって。空っぽになって。なってこの、ロクデモナイに夢中になっ

      • ワンルーム

        あの狭い部屋のドアには、硬いもので殴ったような凹みがあったけれど、それを口にして確かめたことはない。その前で脱がれた靴は揃えられた回数の方が少なくて、いつも両足バラバラに飛び散って、台所には油の黒と歯磨き粉の白がへばりついていた。私達は生きていくことのしんどさを胃の中で破壊しながら、時々それを部屋中に撒き散らした。靴も油もミントもしんどさも、同じように、当たり前に。鉄製のドアからベランダのカーテンまではおおよそ三メートル程。私達はその中であらゆるものに埋まりながら眠った。息苦

        • 下手くそでも愛したい

           午前二時の水は冷たい。あるはずのないたてがみが、ピンと立つような気がする。  しーっと、歯の隙間で空気を振るわせながらペーパータオルを取ると、雪崩れるようについてきた数枚が、汚れた洗面の中と外へ散らばった。あぁーと思った時、タイミング悪く人が入ってきて、遠くにうっすらと聞こえていたBGMが、一瞬大きくなる。  短いエプロンが、痩せた腰に巻かれている。黒の帽子に小さな顔が埋まっていて表情は分からなかったが、折り目のしっかりついたシャツの中に、皮膚の弛んだ喉が見えた。 「失礼い

          夜はともだち

          絞り出すように毎朝起きている。もう毎日毎日絞り出しすぎて、カラッカラだよ。携帯を握りしめて寝るから、画面の明かりに夢の中の私が言う。 「目がチカチカする」 無意識の中で充電器の先を穴に挿し込む。電子機器はエロいな、なんてバカみたいなことを思うのは深夜だから、です。 洗濯機を回す。日付が変わって数時間の頃の外気。さらされた洗濯物は少し寒そうにしてる。蒸し暑い夏が終わったね。涼しい秋はすぐにいなくなって、寒い冬が来る。この間、今年はプール行こう!なんて呑気なこと考えてたはずなのに

          洗いたい靴下

           初めての夜、ゴムの緩んだ白い靴下が、鳴沢の高い甲に引っかかってなかなか抜けないのを、ちひろは足の親指と人差し指を使って、するりと床に落とした。「器用やなあ」と感心したように言われたので、照れ隠しに鼻で笑うと、野球の練習でざらついた指が、ちひろの鼻先ごとその空気を潰す。  されるがままの足元を、確認しようとする鳴沢の息が顎の先に当たった。緊張しているのかいつもと違う臭いがして、ちひろはそれを誤魔化すように、今度は左足の靴下を強引に引っ張り部屋の隅へと追いやる。後になって、急い