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『それでもサンタクロースは行く』

世界各国から200人余りのサンタクロースの代表が集まってきた。
久しぶりの会合に、会場のあちらこちらで挨拶が交わされている。
ひと通り挨拶が終わり、会場が静まるとひとりの長老がマイクの前に立った。
「えー、先日ある国の代表から次のような要請がありました」
そう言うと、ふところから取り出した手紙を読み始めた。

『貴殿らの毎年のプレゼントにおかれまして、親の所得による制限を設けていただきたい。
この世界的な疾病の蔓延に対しまして、我が国では、子どもを抱える世帯を支援するために、一定の金額をばら撒く、いや、分配することになりました。
そのばら撒き、いや、分配に際し、親の所得により制限を加えることとなりました。
つきましては、サンタクロースの皆様のプレゼントにおかれましても、同様の所得制限を設けていただき、困窮家庭の子どもを救うと言う趣旨に横並びしていただくようお願いいたします』

長老によると、同じような要請が何か国かから届いているらしい。
会場はざわめいた。
クリスマスのプレゼントに所得制限を設けるべきかどうか。
「それは国の勝手だ。我々とは関係ない!」
「いや、やはり今後のことも考えると協調も大切では」
様々な意見が飛び交った。
長老の指示で、会場のドアが閉められマスコミはシャットアウトされた。
約1時間後、しっかりとした足取りで会場から出てきたサンタクロースたちは、それぞれの国に帰って行った。
その夜、各国に次のような回答書が送られた。

まず最初に申し上げておきます。
我々のプレゼントは子育ての支援ではありません。
困窮家庭の救済でもありません。
我々は年に一度子供たちに夢を配っているのです。
我々がプレゼントを配る子どもたちの家庭は様々です。
裕福な家庭に生まれた子どももいます。貧しい家庭に生まれた子どももいます。中にはプレゼントを入れる靴下さえもない、そんな家庭の子どももいます。
それは、彼らの責任ではありません。
しかし、将来が約束された子どもでも、温かい暖炉の前で眠る子どもでも、地に這いつくばって明日の米つぶを探す子どもでも、一年中身体にアザを作っている子どもでも、どんな子どもでも、年に一度、夢を見ることができるのです。
どんな子どもにも夢を見る権利がある。
それが我々の考えです。
いかなる境遇でも夢を見ることはできる。
そして、誰かの夢を助けることができる。
そして、その子どもたちがその夢を語り継いでくれます。
それが、我々サンタクロースの使命なのです。
我々は、あなたたちの政策を否定するものではありません。
しかし、あなたたちの中にも、子どもの頃に夢を見て今の地位に立たれている方がたくさんおられることと思います。
是非、我々の趣旨をご理解いただきたい。
我々は今年も、子どもたちの枕元に夢を届けに行きます。
世界のすべての子どもたちに、夢を。
Ho! Ho! Ho!

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