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#毎週ショートショートnote
『ひと夏の人間離れ』 # 毎週ショートショートnote
人間離れした?
ねえねえ、彼と彼女、しちゃったんだって、人間離れ。
その頃、そんなヒソヒソ話が教室のあちらこちらで囁かれていました。
少し前に、あるアイドル歌手が「ひと夏の人間離れ」って言う曲をヒットさせたことも影響しています。
わたしは、「人間離れ」がよくわかりません。
わたしだけ、聞き漏らしてしまったのでしょうか。
両親に聞くのも何となく憚られます。
だから、そのまま知っているふりをして、う
『海のピ』 # 毎週ショートショートnote
都市伝説というものは、都市に限らない。
人の住むところには、その土地だけに伝わる言い伝えがあるものだ。
その言い伝えを見たり、体験したと言う者もあれば、でたらめだと笑い飛ばす者もいる。
ある時、その村を大嵐が襲った。
嵐が去ったあと、海岸に一片の板切れが突き刺さっていた。
見ると、「海のピ」と書かれていて、その先は砂に埋もれてわからない。
子供たちが引き抜こうとすると、長老の一人が止めた。
老人
『てるてる坊主のラブレター』 # 毎週ショートショートnote
わたしは雨女だと言われていました。
遠足の日も、運動会の日も、必ず雨が降りました。
遠足に行くのも、運動会に出るのも、わたしだけじゃないじゃん。
でも、雨女はわたしだとされました。
それは遠足の前の日でした。
隣の席の男子が、そっと小さな紙袋を渡してきました。
家に帰って開けてみると、中にはてるてる坊主。
白いタオル地にサインペンの目鼻口。
わたしは、窓の外にそれをぶら下げました。
でも、次の日
『放課後ランプ』 # 毎週ショートショートnote
「ああ、あいつも放課後ランプかあ」
健太が窓を離れた。
放課後ランプを悠一がゆっくり歩いている。
ゆるい坂を登り切ると、その姿は木立の中に消えた。
僕は健太の肩を叩いた。
「さ、帰ろうぜ」
みんなも、そろそろと窓際から離れて行った。
校門を出ると右に行くのが通学路だ。
しかし、左にも細い坂道がある。
木立の先に何があるのか。
見たものはいない。
放課後、あの坂道を歩いて行ったものは、誰もが戻って
『オバケレインコート』 # 毎週ショートショートnote
オバケレインコートと呼ばれていた。
町の外れにある、とある一軒家。
その2階の窓際に吊るされたレインコート。
ベージュの地味なレインコート。
誰も住んでいない古い家。
窓の向こうで、そのレインコートが時折り揺れる。
誰も見たものはいない。
いないが、そう言われると、今にもレインコートは動きだしそうに見える。
その家に肝試しにやってきた少年たち。
ひとりずつ、2階の部屋まで行って帰って来よう、あ
『命乞いする蜘蛛』 # 毎週ショートショートnote
壁に小さな蜘蛛を見つけた。
新聞紙でバチンといきたいところだが、俺は新聞をとっていない。
仕方なく、ティッシュを2枚引き抜く。
「やれ打つな」
声がした。
命乞いにしては野太い声だ。
ティッシュを蜘蛛に近づける。
「おいおい、打つな、打つな」
「やれ打つなってのは、小林一茶の俳句だ。でも、蝿が足をするのは命乞いしているわけじゃない」
蜘蛛は、壁から畳の上に移動しながら話し始めた。
「だから、あの
『桜回線』# 毎週ショートショートnote
丁寧に頭を下げた春男の目の前で、静かにドアが閉まる。
ドアにもう一度頭を下げて、狭い廊下を歩き出す。
普通なら、徐々に資料が減って軽くなる筈の鞄も、朝から重たいままだ。
そうだよな、桜回線なんて、今更誰も加入しないさ。
階段を降りて、次の棟に向かう。
今日は、この古い団地が担当エリアだ。
いくらでも快適な回線があるなかで、桜の季節しか繋がらない回線なんて、誰が興味を示すものか。
勤め口に困ったから
『レトルト三角関係』 # 毎週ショートショートnote
魔の三角地帯のことはご存知でしょう。
と、目の前の男は言った。
都心の地下にある喫茶店。
この世に男と女が生まれてから三角関係は後を断ちません。
その三角関係の真ん中には無が生まれます。
その無の空間が繋がり、長い年月を経て巨大化したものが、あの三角地帯なのです。
バミューダトライアングルとも呼ばれます。
フロリダ、プエルトリコ、そしてバミューダ諸島を結ぶ三角地帯。
そこで、これまで多くの飛行機
『ドローンの課長』 # 毎週ショートショートnote
「課長、遅いですね」
高橋さんが窓際の課長席を見ながら言った。
「煙草でも吸ってるんじゃない」
係長の井口さんも課長席に目をやる。
「でも、課長は煙草吸わなかったよね」
主任の樋口さんが、キーボードを叩きながら言う。
「課長は何をしてるんだ」
部屋の奥から、石山部長が怒鳴り始める。
そのやり取りを、僕は書類に顔を落としたまま聞いている。
始業時間から30分が経っている。
「そういえば」
高橋さん
『会員制の粉雪』 # 毎週ショートショートnote
季節がセレブだけのものになって久しい。
それどころか、庶民は暦まで奪われてしまった。
今日が何月何日なのか。
庶民は、何も知らされないままに働いている。
一年などという周期もない。
仕事の大半はロボットで間に合っている。
残るのは、セレブたちの生活の後始末だ。
セレブたちは、豪華な家の中に季節を再現している。
バーチャルな桜を咲かせ、バーチャルな太陽に汗をかく。
バーチャルな紅葉が散ると、バーチ
『夜光おみくじ』 # 毎週ショートnote
仕事始めの1日を終えての帰り道。
毎年この日は、終わってからの新年会がある。
酔いを覚まそうと、少し遠回りする。
近くの神社の境内にさしかかった。
高台にあり景色がいいので、時々訪れる。
夜景を眺めていると、人の気配を感じた。
振り向くと、老人が立っている。
その周りには、蛍のような光。
こんな時期に蛍なんてありえない,
そばまで行くと、その老人は言った。
「綺麗でしょ」
「これは?」
「おみ
『ルールを知らないオーナメント』 # 毎週ショートショートnote
きよしは、クリスマスツリーを片付けていた。
パパもママも仕事なので、冬休みのきよしの担当になった。
いちばん上の星からどんどん外していく。
丸くて赤いオーナメントに手をかけた時に、中に何かが見えたような気がした。
けれども、ゲームをしたいきよしは気にせずに外した。
ひかりは、ママを手伝ってクリスマスの片付けをしていた。
海外にいた頃は、年明けまで飾っていたのだけれども。
このあとはお正月の飾り付
『台にアニバーサリー』 # 毎週ショートショートnote
「警部、これはダイイングメッセージでは」
「手帳の『台にアニバーサリー』がかね」
「最後の文字ですからね。少し血も」
「よし、ここはマー君探偵に助けてもらおう」
「遅くなりました。探偵のマー君です」
「すまない。実は、かくかくしかじか」
「なるほど。見せてください」
「どうだろう」
「この家の持ち主は、かにさんですか?」
「どうしてそれを」
「こう言うことですよ」
「本当は、『かにアニバーサリ
『白骨化スマホ』 # 毎週ショートショートnote
「先生、それがあれですか」
彼は、デスクの上の物を指差した。
小さなプラスチックのケースに入れられたそれは、まるでフィギュアのコレクションのようだった。
先生と呼ばれた男は、同じものを指差した。
「そうだ。これが、あれだよ」
そこには、ちょうど手のひら大の白い枠があり、枠の中にもいくつかの白い針金のようなものがあった。
「これが、最近発見された、人類の骨の化石ですね」
「そうだ。DNA鑑定でも、