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物語のようなもの

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短いお話を思いついた時に書いています。確実に3分以内で読めます。カップ麺のできあがりを待ちながら。
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#毎週ショートショートnote

『てるてる坊主のラブレター』 # 毎週ショートショートnote

『てるてる坊主のラブレター』 # 毎週ショートショートnote

わたしは雨女だと言われていました。
遠足の日も、運動会の日も、必ず雨が降りました。
遠足に行くのも、運動会に出るのも、わたしだけじゃないじゃん。
でも、雨女はわたしだとされました。

それは遠足の前の日でした。
隣の席の男子が、そっと小さな紙袋を渡してきました。
家に帰って開けてみると、中にはてるてる坊主。
白いタオル地にサインペンの目鼻口。
わたしは、窓の外にそれをぶら下げました。
でも、次の日

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『放課後ランプ』 # 毎週ショートショートnote

『放課後ランプ』 # 毎週ショートショートnote

「ああ、あいつも放課後ランプかあ」
健太が窓を離れた。
放課後ランプを悠一がゆっくり歩いている。
ゆるい坂を登り切ると、その姿は木立の中に消えた。
僕は健太の肩を叩いた。
「さ、帰ろうぜ」
みんなも、そろそろと窓際から離れて行った。

校門を出ると右に行くのが通学路だ。
しかし、左にも細い坂道がある。
木立の先に何があるのか。
見たものはいない。
放課後、あの坂道を歩いて行ったものは、誰もが戻って

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『オバケレインコート』 # 毎週ショートショートnote

『オバケレインコート』 # 毎週ショートショートnote

オバケレインコートと呼ばれていた。
町の外れにある、とある一軒家。
その2階の窓際に吊るされたレインコート。
ベージュの地味なレインコート。

誰も住んでいない古い家。
窓の向こうで、そのレインコートが時折り揺れる。
誰も見たものはいない。
いないが、そう言われると、今にもレインコートは動きだしそうに見える。

その家に肝試しにやってきた少年たち。
ひとりずつ、2階の部屋まで行って帰って来よう、あ

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『命乞いする蜘蛛』 # 毎週ショートショートnote

『命乞いする蜘蛛』 # 毎週ショートショートnote

壁に小さな蜘蛛を見つけた。
新聞紙でバチンといきたいところだが、俺は新聞をとっていない。
仕方なく、ティッシュを2枚引き抜く。
「やれ打つな」
声がした。
命乞いにしては野太い声だ。
ティッシュを蜘蛛に近づける。
「おいおい、打つな、打つな」

「やれ打つなってのは、小林一茶の俳句だ。でも、蝿が足をするのは命乞いしているわけじゃない」
蜘蛛は、壁から畳の上に移動しながら話し始めた。
「だから、あの

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『桜回線』# 毎週ショートショートnote

『桜回線』# 毎週ショートショートnote

丁寧に頭を下げた春男の目の前で、静かにドアが閉まる。
ドアにもう一度頭を下げて、狭い廊下を歩き出す。
普通なら、徐々に資料が減って軽くなる筈の鞄も、朝から重たいままだ。
そうだよな、桜回線なんて、今更誰も加入しないさ。
階段を降りて、次の棟に向かう。
今日は、この古い団地が担当エリアだ。
いくらでも快適な回線があるなかで、桜の季節しか繋がらない回線なんて、誰が興味を示すものか。
勤め口に困ったから

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『レトルト三角関係』 # 毎週ショートショートnote

『レトルト三角関係』 # 毎週ショートショートnote

魔の三角地帯のことはご存知でしょう。
と、目の前の男は言った。
都心の地下にある喫茶店。
この世に男と女が生まれてから三角関係は後を断ちません。
その三角関係の真ん中には無が生まれます。
その無の空間が繋がり、長い年月を経て巨大化したものが、あの三角地帯なのです。
バミューダトライアングルとも呼ばれます。

フロリダ、プエルトリコ、そしてバミューダ諸島を結ぶ三角地帯。
そこで、これまで多くの飛行機

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『ドローンの課長』 # 毎週ショートショートnote

『ドローンの課長』 # 毎週ショートショートnote

「課長、遅いですね」
高橋さんが窓際の課長席を見ながら言った。
「煙草でも吸ってるんじゃない」
係長の井口さんも課長席に目をやる。
「でも、課長は煙草吸わなかったよね」
主任の樋口さんが、キーボードを叩きながら言う。
「課長は何をしてるんだ」
部屋の奥から、石山部長が怒鳴り始める。
そのやり取りを、僕は書類に顔を落としたまま聞いている。

始業時間から30分が経っている。
「そういえば」
高橋さん

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『会員制の粉雪』 # 毎週ショートショートnote

『会員制の粉雪』 # 毎週ショートショートnote

季節がセレブだけのものになって久しい。
それどころか、庶民は暦まで奪われてしまった。
今日が何月何日なのか。
庶民は、何も知らされないままに働いている。
一年などという周期もない。
仕事の大半はロボットで間に合っている。
残るのは、セレブたちの生活の後始末だ。

セレブたちは、豪華な家の中に季節を再現している。
バーチャルな桜を咲かせ、バーチャルな太陽に汗をかく。
バーチャルな紅葉が散ると、バーチ

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『夜光おみくじ』 # 毎週ショートnote

『夜光おみくじ』 # 毎週ショートnote

仕事始めの1日を終えての帰り道。
毎年この日は、終わってからの新年会がある。
酔いを覚まそうと、少し遠回りする。

近くの神社の境内にさしかかった。
高台にあり景色がいいので、時々訪れる。
夜景を眺めていると、人の気配を感じた。
振り向くと、老人が立っている。
その周りには、蛍のような光。
こんな時期に蛍なんてありえない,

そばまで行くと、その老人は言った。
「綺麗でしょ」
「これは?」
「おみ

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『ルールを知らないオーナメント』 # 毎週ショートショートnote

『ルールを知らないオーナメント』 # 毎週ショートショートnote

きよしは、クリスマスツリーを片付けていた。
パパもママも仕事なので、冬休みのきよしの担当になった。
いちばん上の星からどんどん外していく。
丸くて赤いオーナメントに手をかけた時に、中に何かが見えたような気がした。
けれども、ゲームをしたいきよしは気にせずに外した。

ひかりは、ママを手伝ってクリスマスの片付けをしていた。
海外にいた頃は、年明けまで飾っていたのだけれども。
このあとはお正月の飾り付

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『台にアニバーサリー』 # 毎週ショートショートnote

『台にアニバーサリー』 # 毎週ショートショートnote

「警部、これはダイイングメッセージでは」
「手帳の『台にアニバーサリー』がかね」
「最後の文字ですからね。少し血も」
「よし、ここはマー君探偵に助けてもらおう」

「遅くなりました。探偵のマー君です」
「すまない。実は、かくかくしかじか」
「なるほど。見せてください」
「どうだろう」
「この家の持ち主は、かにさんですか?」
「どうしてそれを」
「こう言うことですよ」

「本当は、『かにアニバーサリ

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『白骨化スマホ』 # 毎週ショートショートnote

『白骨化スマホ』 # 毎週ショートショートnote

「先生、それがあれですか」
彼は、デスクの上の物を指差した。
小さなプラスチックのケースに入れられたそれは、まるでフィギュアのコレクションのようだった。
先生と呼ばれた男は、同じものを指差した。
「そうだ。これが、あれだよ」

そこには、ちょうど手のひら大の白い枠があり、枠の中にもいくつかの白い針金のようなものがあった。
「これが、最近発見された、人類の骨の化石ですね」
「そうだ。DNA鑑定でも、

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『助手席の異世界転生』 # 毎週ショートショートnote

『助手席の異世界転生』 # 毎週ショートショートnote

俺はしがない営業マンだ。
しかし、最近、新人のみゆきちゃんの指導担当になった。
みゆきちゃんは、スタイル抜群で超かわいい。
毎日みゆきちゃんを助手席に乗せて取引先を回るのが、俺の楽しみだ。
ある時俺は妄想を抱いた。
あのみゆきちゃんのムチムチの身体を包んでいる助手席になりたいと。

その夜の帰り道、1人で運転していると、突然声がした。
「替わってやろうか」
え、助手席が喋っている。
「お前さえ良け

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『着の身着のままゲーム機』 # 毎週ショートショートnote

『着の身着のままゲーム機』 # 毎週ショートショートnote

信じられないかもしれないが聞いてくれ。
俺はもうすぐ還暦のジジイだ。
輪廻転生とかそんなもの信じちゃいない。
あんたらと同じようにな。
ある朝のことだ。
前の晩、少々飲み過ぎて着の身着のままで寝てしまっていた。
目覚めた時には、窓の外は明るかった。
起きようとした。
ところが、俺の目の前に男が立っている。
背中を向けているので顔はわからない。
突然、ドアを開けて覆面が入ってきた。
なんだ、なんだ。

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