架空の海外D2Cブランド事例② AFTER 10(ミールキット)

D2C・・・Direct to Consumerの略。Amazon等のECプラットフォームを利用せずに、SNS等を活用してユーザーを獲得・育成し、自社製品を自社ECで販売するビジネルモデル。2010年前後からアメリカのスタートアップを中心に世界各国でその存在感を強めている。ユニリーバに10億ドルで買収された髭剃りブランド”Dollar Shave Club”、非上場ながら時価総額が14億ドルを超えたスニーカーブランド”Allbirds”等が代表的。
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「俺たちみたいな投資銀行マンが毎日食べられるメシが欲しい。最初はそれだけだったよ。」
-テッド・クラーク, AFTER 10 Company 共同CEO

AFTER 10はロンドンの金融街シティで働く二人の投資銀行マンによって2019年に設立されたミールキットのD2Cブランドだ。全メニューが冷凍のワンプレートとなっており、プレートごと3分間電子レンジで温めるだけで食べることができる。

アメリカや日本と同様、イギリス国内においてもミールキットブランドが近年乱立する中で、AFTER 10は急成長を見せている。
「夜10時以降専用」このコンセプトこそが、ミールキットブランドが乱立する中でAFTER 10が競合たちと一線を画している理由だ。

「テレビでも、ネットでも、病院でも、みんな口を揃えて、夜遅くは食べるな、特に10時以降は食べるなっていうんだ。でもそう聞くたびに毎回思ってたよ。そんなの俺たち投資銀行マンには到底不可能な話だってね。」
(テッド・クラーク, AFTER 10 Company 共同CEO)

きっかけは創業者・共同CEOのテッド・クラークが2018年に健康診断で肝臓の異常を指摘されたことだった。幸い、大事には至らなかったものの、この出来事をきっかけにクラークは自分の健康管理について本気で見直すことになる。

「その時に本気で自分の健康のことを考えた。それでこういう結論に至ったんだ。夜遅くに食事を摂る習慣は変えられない。俺たち投資銀行マンのワークスタイルはそう簡単に変えられないからだ。それに俺たちこのスタイルに誇りを持ってやってる。
自分の習慣を変えられない、それなら夜10時以降に食べると良くないっていう常識の方を変えちまおうって思ったんだ。」
(テッド・クラーク, AFTER 10 Company 共同CEO)

こうして夜10時以降に食べても体に悪くないミールキットを開発することに決めたクラークは、当時の同僚であり、後に共同創業者・CEOとなるマシュー・ヒラキの実家の日本食レストランのキッチンを借りて独自に料理の研究を始める。

「10時以降に食べても体に悪くない」という前提条件に加えて、忙しい投資銀行マンでも「簡単に食べられる」こと、そしてなにより「満足できる」こと。この3つの条件を満たすミールキットを追い求めて、クラークとヒラキは開発に没頭した。

オルマイティ・スチーム調理 × ホール・フリーズ冷凍 × ハイブリッド・ウマミ調味

この方程式が、クラークとヒラキが約10ヶ月間とポケットマネー3万ポンド(約415万円)をかけて出した答えだった。

オルマイティ・スチーム調味はカロリーを抑えたスチーム調理でも焼き・炒めのような食感を再現できる調理法、ホール・フリーズ技術は異なる素材・料理を同じ時間で解凍できるようにする技術、そしてハイブリッド・ウマミ調味は、様々な調味料に旨み成分をフュージョンさせることによって通常の約3分の1の調味料の量でも同じ味を再現する技術だ。

これら3つの技術を組み合わせることで、「10時以降に食べても体に悪くない」、「簡単に食べられる」、「満足できる」を満たした冷凍ミールキット AFTER 10が誕生した。

二人の戦略は、まずはロンドンの金融街シティで投資銀行マンに集中したエリアマーケティングを行い、そこから全国に展開していくことだった。もくろみ通り、シティでの販売開始から3日で700食を売り上げた二人は販売開始4日目の朝に退職届を提出し、2019年3月にAFTER 10 Companyを設立、共同CEOに就任した。

「テッドがうちの実家のキッチンを借りたいと言ってきた時は、なにかの冗談かと思ったよ。予想だにしていなかったね、まさか1年後に自分がミールキット屋になっているなんてね。」
(マシュー・ヒラキ, AFTER 10 Company 共同CEO)

たった10ヶ月間でこのような革新的なミールキットを開発することに成功したのは投資銀行時代の顧客であった食品企業との繋がりから様々な最先端技術にアクセスできたこと、そしてヒラキのルーツでもある日本食のエッセンスを取り入れることができたことが最大の要因だったと、二人は振り返っている。

AFTER 10は19年9月に1500万ポンド(約20億円)のシリーズAラウンドでの調達を完了。同時にアメリカのミールキット最王手グリーン・エプロンからハンナ・ウォーカー氏をCMO(Chief Marketing Officer、最高マーケティング責任者)として迎え入れた。2020年は当初ターゲットとしていた忙しいビジネスマンだけでなく、学生や共働きの世帯にもターゲットを拡大していくとしてる。

"Don't listen to them. Eat AFTER 10."
(「やつらの言うことは聞くな。10時以降※に食べよう。」※商品名とかけた表現)

これが2019年12月から放映を開始したAFTER 10初のテレビCMのキャッチコピーだ。多少過激にも聞こえるこのテレビCMが功を奏してか、2020年2月現在、AFTER 10の月額99ポンド(約13,600円)のサブスクリプション会員は月に5万人のペースで増えているという。2020年は間口拡大と奥行拡大の施策を両輪で回していく年と位置づけており、4月からは公式Instagram上での新メニュー開発コンテストも実施する予定だ。

革新的なプロダクトで停滞していたミールキット業界に風穴を開けたAFTER 10が次にどのようなマーケティングを仕掛けてくるか、目が離せない一年になりそうだ。

企業情報
AFTER 10 Company
2019年ロンドンにて創業。食品加工の先端技術と日本食にインスパイアされた調味法で「夜10時以降専用」ミールキット"AFTER 10"を製造・販売している。単品購入と月額99ポンド(約13,600円)のサブスクリプションプランを提供。2020年は間口拡大と奥行拡大、両輪でマーケティングを加速する1年と位置づけている。

CEO略歴
テッド・クラーク(33歳)
イギリス・ロンドン出身。リーズ大学卒。
自らの健康診断の結果がきっかけとなり、
投資銀行勤務を経て2019年にAFTER 10 Companyを共同創業。

マシュー・ヒラキ(30歳)
イギリス・ロンドン出身。インペリアル・カレッジ・ロンドン卒。
投資銀行勤務を経て2019年にAFTER 10 Companyを共同創業。
実家はロンドン市内で日本料理屋を営む。俳優のトマス・ヒラキは実弟。

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フィクションです。
実在の人物・団体とは関係ありません。

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