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ウイルスに対して私たちは平等ではない:非正規移民に起きていること

“Yesterday, Elvis died.”

 ロンドンのフィリピン人コミュニティーが中心になって結成したCOVID19対応ボランティアとやり取りしているグループチャット上に、新型コロナウイルスに感染したとみられ亡くなった人たちの情報が届く回数が、この数日で急激に増えた。メッセージの着信音が鳴るだびに「今度はどこの誰か」とドキドキするようになった。

このグループチャットに情報が届いている亡くなった人の多くは、「Undocumented(書類を持たない)」と言われる非正規移民(日本では「不法移民」という言葉が使われることが多いですが、ここではその使用は避けます。)の人たちで、自宅で亡くなっている。

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イギリスが誇る国民保険サービス(National Health Service: NHS)は、ユニバーサルヘルスケアとして、利用者の経済的能力にかかわらず誰もが公平に医療が受けられるということになっている。1948年の創設時から、イギリスに住む人であれば全員がその対象だった。しかし、2017年10月にNHSイングランドは、各病院に対して、緊急ではない診察・処置については患者の国籍と在留資格のチェックを行うこと、そして、外国籍の患者が在留資格を提示できない、もしくはすることを望まない場合は、保険適用外(150%)の医療費を事前に請求することを義務付けた。

これは、2012年にテレサ・メイ元首相が当時内務大臣として推し進めた「Hostile Environment Policy (敵対的環境政策)」という、思わず二度見してしまうようなネーミングの移民政策の一環として導入されたものだ。この政策は、英国における移民の数を減少させることを目的に、特に非正規滞在の人々や期限付きのビザを持つ人たちが自発的に去るように、これらの人々にとって英国内での日々の生活やビザの更新が難しくなるよう、あらゆる制度改革が行われた。そのほとんどが現政権に引き継がれている。

この政策の特徴として、市民に「相互監視」を義務付けたことが挙げられる。先ほどの病院の例の他に、不動産会社や大家には、家や部屋を借りることを望む人の国籍と在留資格の確認を義務付け、在留資格のない人に対して住居を提供することを禁止した。雇用主についても、働く資格のない人を雇うことは刑法による処罰の対象としてペナルティが強化された。これらの政策により、移民と思われる名前の人に対して住居を提供したり、仕事に採用したりすることを避けるという家主や雇用主が増え、人種差別が助長された。また、ビザの取得や更新が困難かつ高額になり、その結果、オーバーステイや人身取引などによって、意思に反して非正規滞在となる人が増えたとも指摘されている。

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在留資格を持たない非正規移民の人々にとっては、病院に行くということは、金銭的な問題の他に、摘発・拘留・強制送還につながるのではないかという恐怖により、ほとんど選択肢になり得ることはない。この記事の冒頭のElvis(仮名)も、新型コロナウイルスの感染が強く疑われる症状を発症したにも関わらず、自身が非正規移民であることを理由に、NHSのコールセンターに電話することも、病院へ行くこともなく4月8日に自宅で亡くなった。彼の奥さんもまた、自宅で同じ症状を発症しているという。

非正規移民の人たちは、雇用の不安定さによる経済的な困難のほかに、合法的に住居を借りることができないことから、小さな部屋に何人もが共同生活を強いられていることが多い。新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、家族であっても社会的距離(ソーシャルディスタンス)を取ることや在宅勤務が勧められているが、そもそも距離が取れるような居住スペースを持たない人や、非正規移民の人たちが多く働く清掃業や宅配業など、在宅勤務が不可能かつ不特定多数の人々と接触する機会の多い職種に就く人々は感染リスクが高い。

新型コロナウイルスの流行に対して、「ウイルスは国籍、人種、社会的・経済的地位など関係なく、平等に人々を襲う」というようなことが多く聞かれた。確かに、ウイルスへの感染の可能性は誰にでもあるが、感染リスク、そして感染した後にたどる道は平等ではない。イギリスでは、医療崩壊への対策として症状の軽い人は検査せず自宅で療養することになっているため、病院以外で亡くなった人に関しては新型コロナウイルスへの感染が強く疑われる場合であっても、その死者数にはカウントされていない。4月10日時点で、英国政府は新型コロナウイルスの感染により死亡した人は8,958人と発表している。Elvisのように助けを求めることができず病院以外で亡くなった人たちを含めると、その数がどのくらい増えるのか全く不明である。


現在、このパンデミックにあたって非正規移民にも平等に「医」・食・住の公的支援を受けられるよう、新型コロナウイルスに感染しNHSの病院に入院中のボリス・ジョンソン首相に求めるキャンペーンや署名運動が行われている。病院で働くたくさんの外国出身の医師や看護師、調理師、清掃員などのお世話になったあと首相の考えは変わるのだろうか。

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Elvisのことが保健大臣へ届けられた話を続編として書きました。


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