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ショートショート(掌編)集

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短いお話たちです。
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#エッセイ

なるほど、そうか

なるほど、そうか

頭の上から、何かが落ちてきた。
それはつむじにフワリと着地したかと思えば、脳内いっぱいに広がる。

「なるほど、そうか」
口からこぼれ落ちたその一言は、確かな感触をもって空中に漂ったかと思うと、次の瞬間には綿あめのような淡い甘さとなって消えていく。

僕はメモを取り出す。
まだ、間に合う。まだその尻尾を舌先にとらえている。
こういうのはスピードが命なのだ。
僕はそいつの尻尾をペン先に引っ掛けて、紙

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繰り返される会話。【掌編】

繰り返される会話。【掌編】

あの子、かわいくない?

あの子、かわいいな。

あの子、かわいいんだよね。

あの子は、その都度変わっている。
その文に込められている意味に、大差はない。



一か月後。

あの子、こんな所がかわいくて、、、、

あの子、ちょっとした仕草がかわいくて、、、

あの子、やっぱりかわいいんだけど、、、

あの子は、その都度変わっている。
その文に込められている意味に、大差はない。



一年後

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とり憑かれているようです。【掌編】

とり憑かれているようです。【掌編】

「霊たちが、私に悪さをするのよ。」
大学のサークルにそんなことをいう女の子がいた。彼女は僕と同期であったが、彼女があまりサークルに顔を出さないということもあって、彼女と言葉を交わした記憶はほとんどない。それでも僕は彼女のことが少し気になっていた。
それは、異性として関心があるとかそういうのではなくて、彼女の言動に含まれている違和感がなぜか僕をひきつけたのだ。まわりの友人たちは、彼女を「ちょっと変わ

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ファッションみたいに禁欲する人【掌編】

ファッションみたいに禁欲する人【掌編】

禁欲とは、自分の中にある肉欲との絶え間ない戦いの別名だ。
一方で、僕の友達で、そんな禁欲をあまりにも軽やかに、涼しい顔でしている奴がいた。
彼は、まるでファッションみたいに禁欲していた。
僕には、彼のその生活が、なんとも美しく見えた。

ちなみに彼は、クリスチャンだった。

僕の友達に、おじいちゃんの代から三代クリスチャンである友達がいた。彼も勿論、自分自身をクリスチャンだと自認している。日本では

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