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ショートショート(掌編)集

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短いお話たちです。
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2021年4月の記事一覧

オオカミである罪【掌編】

オオカミである罪【掌編】

「動物占いしたことある?」
と彼は聞いてきた。
彼と僕はバイト先でまだ知り合ったばかりだったので、そういった類の質問を繰り返していたのだ。

大学、学部、年齢、血液型、家族構成・・・云々。

そうやって、お互いの情報を共有することで、その人の輪郭を確かめ合い、その人が分かったような気になるというわけだ。

「動物占いか、昔本で読んだことあるよ。」僕は中高生くらいの時の記憶を手繰り寄せながら答えた。

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パン屋のピーター、鏡を見る。【掌編】

パン屋のピーター、鏡を見る。【掌編】

パン屋のピーターは疑り深い男だった。
それは決して、彼の性格がねじ曲がっているとか、そううことではない。彼はただ、自分の感覚に正直であったのだ。

パン屋のピーターは、自分が見て感じるものと、周りの人々の言動にズレが生じると、すぐに疑いを抱いた。そして、いつも人の意見よりも自分の感覚を信頼した。

例えば、ピーターは頑固ではあるがハンサムだとよく言われた。
しかし、ピーター自身はそう思わなかった。

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ヒーローのヒロくん。【掌編】

ヒーローのヒロくん。【掌編】

ヒロくんは、僕のヒーローだった。
小学生の時は、ガキ大将のヤマダの嫌がらせからよく僕を守ってくれた。

「ヒロくん、ありがとう。」
おずおずとした僕の感謝の言葉を最後まで聞かずに、ヒロくんは笑いながら走っていった。

ヒロくんは、いつだって頼りになる男だった。それはもちろん僕だけでなく、みんなにとって、心強い存在だった。部活ではキャプテン、クラスでは学級委員で、成績もトップクラスだったし、彼はみん

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春の訪れ【掌編】

春の訪れ【掌編】

久しぶりに僕は外に出た。
温かな日差しに、思わず目を細めた。

久しぶりに友人たちと花見をした。
桜の木の下で僕らは語らい、目を細め合った。

久しぶりにそこで、彼女にあった。
桜並木の道沿いを、僕らは歩きながら距離を縮めた。

久しぶりにまた恋をした。
ささやかな春の訪れに、目を細めながら。