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ヒーローのヒロくん。【掌編】

ヒロくんは、僕のヒーローだった。
小学生の時は、ガキ大将のヤマダの嫌がらせからよく僕を守ってくれた。

「ヒロくん、ありがとう。」
おずおずとした僕の感謝の言葉を最後まで聞かずに、ヒロくんは笑いながら走っていった。

ヒロくんは、いつだって頼りになる男だった。それはもちろん僕だけでなく、みんなにとって、心強い存在だった。部活ではキャプテン、クラスでは学級委員で、成績もトップクラスだったし、彼はみんなが求めていることを綺麗にそつなく返していった。

ヒロくんは、僕のヒーローだった。

久しぶりに、ヒロくんにあった。
彼はバリバリの社会人になっていた。一方の僕は未だ大学院の博士課程にしがみついている院生であるが、それでも彼は昔のように僕に接してくれた。

ヒロくんは職場でもやはりヒロくんだった。若手の時から実績を出し、上司から信用され、同僚たちからも頼りにされ、綺麗なヒロインもいるようだった。

それと共に、ヒロくんは周りの要求に答えるように外車に乗るようになり、高い腕時計をつけ、タワーマンションに引っ越し、ヒロインにはブランド品をプレゼントするようになったそうだ。

「なんの意味があるかはわからんが、みんながそう願っているし、喜んでくれるんだよな。」

ヒロくんはやっぱりヒーローだった。
人のために働き、人のためにお金をつかっては、人を喜ばしていた。

「ヒロくんはやっぱりどこに行ってもヒーローになっちゃうんだね。」
僕は素朴な感想をこぼした。
「どうだろうな」とヒロくんは小さくつぶやいた。

ヒロくんの話すこと、それらはみんなが求めていることたちだった。ヒロくんはそれを身につけて、また提供することに必死であった。それがヒロくんの生き方だったからだ。

「ヒロくんはいつだってヒーローさ。ただ、、、、」
僕は言葉につっかえた。

「ただ?」
ヒロくんはすこし怪訝そうな顔をして僕を見た。

「僕とは違う世界を守るヒーローさ」
僕の言葉に、ヒロくんは静かに笑った。

「もしかしたら、お前には俺が変わってしまったように映るかもしれないけど、俺は何も変わってないよ。変わったのは状況と俺の見え方さ。」

僕は黙って頷いた。
そう、ヒロくんは昔と変わってないし、今だってヒーローなのだ。

ただ僕にとっては、ヒロくんはヒーロー「だった」のであり、僕らは違う世界でお互い必死に生きている、それだけのことだ。

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