記事一覧
短歌:未来9月号(No.788)掲載8首
カーテンもないまま暮らす街中の夜の川面はナイフの光
冷蔵庫唸ってくれてありがとう明かりの前で引き裂くチーズ
文字化けのメール開けば溢れ出る涙の訳を教えてほしい
揺れながら一人のバスで目を閉じる波打ち際の君のサンダル
二階から長いメールを送るから生まれ変わったら合図ください
名を呼ばれるまでの待合室のにおい長い長い長い九月だ
パチパチするアイス食べよういつか死ぬことも忘れてしまう夕暮れ
短歌:未来7月号(No.786)掲載7首
乱立すプラスチックのビルよりも月の模型がたやすく割れる
対岸の中学校の合奏がすべての犬の野性を醒ます
あのときの烏竜茶だとベランダに降りてのたまう神話のカラス
心音の裏拍をとる手拍子で踊ってしまうばかなにんげん
まだ死んでないからこれはかすり傷 花束振って殴ってもいい
合奏はもう終わったよこれからは自分のB♭の音を信じて
これからの季節にいない人たちをほのかに照らす月 ひとつだけ
未
短歌:未来6月号(No.785)掲載8首
もうきみに伝えることが残ってない いますぐここで虹を出したい
夢くらいうまく話がしたいのに分け入っても分け入っても向日葵
ここにいるあたたかい犬 もういない犬 いないけどいつづける犬
かすれてて読めないけれどこれたぶん小学校の連絡網だ
廊下から渡り廊下へ移るとききみは季節をたしかめている
外に降る雪の様子はみてるからあなたは鍋の様子をみてて
きみの人生の前では無力だな じゃんけんに勝つ
短歌:未来5月号(No.784)掲載7首
「映像の日常」
通過する電車の部分のみループしていてずっと君は乗れない
東京の避難シーンにいた人がなぜか釧路の漁村にもいる
花火だけシネマトグラフになっていて僕らを闇が濡らしつづける
焼肉の前の「生きててよかった」の総集編はお許しください
撮影を欠席したら右上のワイプにされてそこだけ動く
同ポジで撮ったジャンプの写真たち、後藤のシャツの反射、つよすぎ
君からのさよならばかり切り取った
短歌:未来4月号(No.783)掲載9首
「渚には行けない」
友だちで恋人以上だった秋ひかりの中の思い出がない
真夜中の回転寿司でこはだだけあなたは二枚分たいらげた
息をする航空障害灯たちが鼻筋赤く照らすベランダ
約束の言葉は楔になることを知ってましたね風が冷たい
ごくふつうのトーンでまたね お互いに友だち未満へと歩き出す
バスタブの湯に溶けるまでの数秒間たしかにまるのかたちだ涙
川を渡るときあなたを思います歩幅を合わせてく
短歌:未来3月号(No.782)掲載8首
ビールからビールへ向かう夏の日がこんなにまぶしくて石を蹴る
裏声で会話するのが流行ってて真面目な声を覚えていない
幾度も犠牲になった上あごのことを忘れてピザはおいしい
白線に追いつくように店員が来るギリギリで飲み干すビール
黒髪に戻すと決めたきんいろを最後の風になびかせている
空いているコインパーキング見つけてはでんぐり返る君を見る犬
ばかだねは褒め言葉です生きていて会えてるだけで花丸
短歌:未来2月号(No.781)掲載7首
死ぬ瞬間に細胞を飛び出していく光は青だ 惑星の色
長財布の中に時空の歪みありねむりつづけているTカード
神さまはいじわるだから人間の方の記憶は映さなかった
フライングしないことだけ考えろ位置に着いたら順に春風
心臓の在処たしかめたくなって裏返す犬 無邪気にくねる
にぎやかな四人が乗車して限りなく透明になる運転手
君の夢だと分かったら好き勝手やるシンバルも投げるし笑う
— 未来2月号(
「バーチャル・リアリティ・ステーキ」短歌:歌人のふんどし掲載6首
蛍型ミニドローンがいっせいに飛ぶよさみしさまみれの街に
味以外、完全再現! 目と鼻と耳が騙されているステーキ
ストリートビューで降り立つ真夏日の角を曲がればふいに積雪
トゥルーマン・ショー/マトリックス/インセプション 白いカードをホームで拾う
バグみたい私たちってぐちゃぐちゃのコナン花火に興奮をした
ほんとうの記憶.zipをひらくとき さようなら夏休みのともだち
— 『歌人のふんどし
「犬をください」短歌:未来1月号(No.780)掲載8首
ダムレイは象の名前でダムレイは象の名前の台風のこと
教室の入口にボルゾイがいる教室中の時間が止まる
車窓から見えるマンションあの部屋は見えないけれど無言で祈る
働いて眠って起きて働いて擦り減るここは安全な場所
ラグのあるいっこく堂の受け答えみたいにやってきた筋肉痛
梨ならばきっと独りが浮き彫りになってしまうねみかんを選ぶ
パレードの音はここには届かない痛いだろうな螺旋階段
こぼれてく
短歌:5首連作「銭湯のクロ」(もし『シン・ゴジラ』の世界を生きていたら)
ぺんぎんぱんつの「ごじらぱんつ」(『シン・ゴジラ』特集)に寄せて。
私はあの作品に“現実世界の圧倒的なリアリティ”を感じたので、あの映画の世界のその後をもし自分が生きていたら、という5首連作にしました。(ゴジラの出てこなさ)
2016/09/02
2015年6月〜2016年6月ごろつくった短歌
テレビからタモリが消えたあの日から並⾏世界を僕ら⽣きてる
柔らかいティッシュは⽢い死神が君を⾒つけた⽇は晴れていた
ドリンクバー押すと交互に降り注ぐコーラとコーラではない何か
気の抜けたサイダーみたい俺だけがプール監視の光の中で
少しでも正しい⼈になりたくて⽩Tばかり増えていく夏
「ええこれは、新種の星座のようですね」背中のほくろ油性でなぞる
月光を吸った毛布がいいでしょう 奴らは夢の