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短歌

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記事一覧

短歌:未来7月号(No.786)掲載7首

短歌:未来7月号(No.786)掲載7首

乱立すプラスチックのビルよりも月の模型がたやすく割れる

対岸の中学校の合奏がすべての犬の野性を醒ます

あのときの烏竜茶だとベランダに降りてのたまう神話のカラス

心音の裏拍をとる手拍子で踊ってしまうばかなにんげん

まだ死んでないからこれはかすり傷 花束振って殴ってもいい

合奏はもう終わったよこれからは自分のB♭の音を信じて

これからの季節にいない人たちをほのかに照らす月 ひとつだけ

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短歌:未来6月号(No.785)掲載8首

短歌:未来6月号(No.785)掲載8首

もうきみに伝えることが残ってない いますぐここで虹を出したい

夢くらいうまく話がしたいのに分け入っても分け入っても向日葵

ここにいるあたたかい犬 もういない犬 いないけどいつづける犬

かすれてて読めないけれどこれたぶん小学校の連絡網だ

廊下から渡り廊下へ移るとききみは季節をたしかめている

外に降る雪の様子はみてるからあなたは鍋の様子をみてて

きみの人生の前では無力だな じゃんけんに勝つ

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短歌:未来5月号(No.784)掲載7首

短歌:未来5月号(No.784)掲載7首

「映像の日常」

通過する電車の部分のみループしていてずっと君は乗れない

東京の避難シーンにいた人がなぜか釧路の漁村にもいる

花火だけシネマトグラフになっていて僕らを闇が濡らしつづける

焼肉の前の「生きててよかった」の総集編はお許しください

撮影を欠席したら右上のワイプにされてそこだけ動く

同ポジで撮ったジャンプの写真たち、後藤のシャツの反射、つよすぎ

君からのさよならばかり切り取った

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短歌:未来4月号(No.783)掲載9首

短歌:未来4月号(No.783)掲載9首

「渚には行けない」

友だちで恋人以上だった秋ひかりの中の思い出がない

真夜中の回転寿司でこはだだけあなたは二枚分たいらげた

息をする航空障害灯たちが鼻筋赤く照らすベランダ

約束の言葉は楔になることを知ってましたね風が冷たい

ごくふつうのトーンでまたね お互いに友だち未満へと歩き出す

バスタブの湯に溶けるまでの数秒間たしかにまるのかたちだ涙

川を渡るときあなたを思います歩幅を合わせてく

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短歌:未来3月号(No.782)掲載8首

短歌:未来3月号(No.782)掲載8首

ビールからビールへ向かう夏の日がこんなにまぶしくて石を蹴る

裏声で会話するのが流行ってて真面目な声を覚えていない

幾度も犠牲になった上あごのことを忘れてピザはおいしい

白線に追いつくように店員が来るギリギリで飲み干すビール

黒髪に戻すと決めたきんいろを最後の風になびかせている

空いているコインパーキング見つけてはでんぐり返る君を見る犬

ばかだねは褒め言葉です生きていて会えてるだけで花丸

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短歌:未来2月号(No.781)掲載7首

短歌:未来2月号(No.781)掲載7首

死ぬ瞬間に細胞を飛び出していく光は青だ 惑星の色

長財布の中に時空の歪みありねむりつづけているTカード

神さまはいじわるだから人間の方の記憶は映さなかった

フライングしないことだけ考えろ位置に着いたら順に春風

心臓の在処たしかめたくなって裏返す犬 無邪気にくねる

にぎやかな四人が乗車して限りなく透明になる運転手

君の夢だと分かったら好き勝手やるシンバルも投げるし笑う

— 未来2月号(

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コールドスリープ・タイムカプセル

コールドスリープ・タイムカプセル

愛してる、愛してるって壊れてるラジオみたいに繰り返したら、銀色の1人専用カプセルは彼女を乗せて、見えなくなった。

致死量に満たない催涙ガスが今タラップ中に充ちて溢れる。この星に生命体はもう住めない。随分前から科学者たちは分かってて事実を隠蔽し続けた。それが明るみになってふた月。憎しみのパワーはすごい。たくさんの人間たちが争い死んだ。

彼女には生き抜いていて欲しかった。コールドスリープ・タイムカ

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「バーチャル・リアリティ・ステーキ」短歌:歌人のふんどし掲載6首

「バーチャル・リアリティ・ステーキ」短歌:歌人のふんどし掲載6首

蛍型ミニドローンがいっせいに飛ぶよさみしさまみれの街に

味以外、完全再現! 目と鼻と耳が騙されているステーキ

ストリートビューで降り立つ真夏日の角を曲がればふいに積雪

トゥルーマン・ショー/マトリックス/インセプション 白いカードをホームで拾う

バグみたい私たちってぐちゃぐちゃのコナン花火に興奮をした

ほんとうの記憶.zipをひらくとき さようなら夏休みのともだち

— 『歌人のふんどし

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「犬をください」短歌:未来1月号(No.780)掲載8首

「犬をください」短歌:未来1月号(No.780)掲載8首

ダムレイは象の名前でダムレイは象の名前の台風のこと

教室の入口にボルゾイがいる教室中の時間が止まる

車窓から見えるマンションあの部屋は見えないけれど無言で祈る

働いて眠って起きて働いて擦り減るここは安全な場所

ラグのあるいっこく堂の受け答えみたいにやってきた筋肉痛

梨ならばきっと独りが浮き彫りになってしまうねみかんを選ぶ

パレードの音はここには届かない痛いだろうな螺旋階段

こぼれてく

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短歌:未来12月号(No.779)掲載歌8首

短歌:未来12月号(No.779)掲載歌8首

ていねいなくらしにすがりつくように、私は鍋に昆布を入れる

親友は誰かと訊かれ透けてゆく体 廃村の春になりたい

回送の電車の中でねむるときだけ行き着けるみずうみがある

手遅れで手に入らないものばかり育ちの良さも既婚の君も

放送を聞き取るために全員が黙る 近所の犬がうるさい

山手の全体像が見たいのに次の駅名ばかり出てくる

いつ何が別つのだろうエリンギは身を寄せ合って収まっている

何度でも

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短歌:未来11月号(No.778)掲載歌7首

短歌:未来11月号(No.778)掲載歌7首

町中の線香花火買い占めてそれでも夜は、季節は、君は

無駄なことばかりしようよ自販機のボタン全部を同時押しとか

帰り道でっかい犬がおるときは兄ちゃんの手の力強くなる

おすもうが左右に分かれてくれたので車窓の空の割合もどる

泣きぼくろ持つ恋人が笑うたび風の向こうに海が見えます

何気なく打った数字で開く鍵 ねえこの四桁って、わたしの

石製の角の一つを折られてもバイキンマンは笑っています

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短歌:未来10月号(No.777)掲載歌8首

短歌:未来10月号(No.777)掲載歌8首

金色になって西陽に溶けながらしっぽをぶんぶん振るのが見える

でたらめに線で繋いでどの星にaikoがいたか観測しよう

丸ノ内線が地上に出るときはみんなあかるい方を見ている

あんなにも回したルービックキューブが揃わないまま夏、遠くなる

ゴミだって思ってみたび触れてしまう表紙の中の小さな鳥に

エア砂を鼻で何度もかけながら犬はふしぎな顔をしている

特別なことは一つも訪れずさなぎのままで秋の制服

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さよならの言葉すべてに君が居てそのどれひとつ届かないこと #tanka