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ふわふわ会計(番外編)『決算書、計算書類、財務諸表、どれが正しい表現?』

顧問先様からの質問

前回の記事を読んで下さった顧問先様からこんな質問をいただきました。

「決算の書類を『決算書』と表現されることが多いように感じるのですが、
『計算書類』や『財務諸表』という表現を使われる方もいます。
どの表現が正解なのでしょうか?」


日常会話での表現

日常的な会話や仕事上の言葉でのやり取りにおいては
決算書」や「計算書類」や「財務諸表」も、
大体同じ意味で用いられることが多い印象があります。

3つのうち、どの表現を用いても、相手には同じように伝わる気がします。

伝わる

公式な表現・法令上の表現

公式な表現として考えると、3つの表現の下のような違いがあります。

  • 決算書・・・通称的な表現・税務上も多く用いられる表現

  • 計算書類・・法令、例えば会社法や社会福祉法に基づく表現

  • 財務諸表・・金融商品取引法に基づく表現

決算書について

「決算書」という表現は、3つの表現の中で、最も多く用いられる印象があります。
一方で、法令の条文の中に「決算書」と表現されている条文はあまり見かけたことがありません。
(あまりないという書き方は、私が知らないだけで、何かの法律の条文に明記されているかもしれませんので、このように書いています)

「決算書」は一般的に税務の会話の中でも用いられることが多いでしょう。

法人税法に下のような条文があります。

(確定申告)
第七十四条 内国法人は、各事業年度終了の日の翌日から二月以内に、税務署長に対し、確定した決算に基づき次に掲げる事項を記載した申告書を提出しなければならない。
 一 ~ 六(省略)
2 (省略)
3 第一項の規定による申告書には、当該事業年度の貸借対照表、損益計算書その他の財務省令で定める書類を添付しなければならない。

法人税法

(確定申告書の添付書類)
第三十五条 法第七十四条第三項(確定申告)に規定する財務省令で定める書類は、次の各号に掲げるもの(当該各号に掲げるものが電磁的記録で作成され、又は当該各号に掲げるものの作成に代えて当該各号に掲げるものに記載すべき情報を記録した電磁的記録の作成がされている場合には、これらの電磁的記録に記録された情報の内容を記載した書類)とする。
 一 当該事業年度の貸借対照表及び損益計算書
 二 当該事業年度の株主資本等変動計算書若しくは社員資本等変動計算書又は損益金の処分表(これらの書類又は前号に掲げる書類に次に掲げる事項の記載がない場合には、その記載をした書類を含む。)

以下省略 

法人税法施行規則

法人税法や法人税法施行規則の条文の中にも、
「決算書」という表現は用いられていません。

法人税法施行規則によると、法人税の確定申告に添付する書類として、
貸借対照表や損益計算書、株主資本等変動計算書が示されています。
これらの書類を総称して「決算書」と呼ぶことが多いでしょう。

所得税法の中にも、「決算書」という表現は見当たらないのですが、
青色申告を行う場合の様式として「青色申告決算書」という表現が用いられています。

「決算書」については、「決算報告書」と表現されることもあります。株主や役員に対して、また対外的に決算の報告を行うために、
書類の表紙に「決算報告書」という表記がされていることも多いでしょう。

市販の会計ソフトで、決算書類の「表紙」が印刷できる場合には、
表題は「決算報告書」となっていることが多いように感じます。


決算報告書

「決算書(決算報告書)」は、決算に関する財務書類の総称として
一般的に多く用いられています。

計算書類について

「計算書類」という表現は、
会社法や社会福祉法、またその他の法律において条文の中に明記されています。

条文を見てみましょう。会社法と社会福祉法になります。

まず、会社法です。

(計算書類等の作成及び保存)
第四百三十五条 株式会社は、法務省令で定めるところにより、その成立の日における貸借対照表を作成しなければならない。

 株式会社は、法務省令で定めるところにより、各事業年度に係る計算書類貸借対照表、損益計算書その他株式会社の財産及び損益の状況を示すために必要かつ適当なものとして法務省令で定めるものをいう。以下この章において同じ。)及び事業報告並びにこれらの附属明細書を作成しなければならない。

 以下省略

会社法

次に、社会福祉法です。

(計算書類等の作成及び保存)
第四十五条の二十七 社会福祉法人は、厚生労働省令で定めるところにより、その成立の日における貸借対照表を作成しなければならない。

 社会福祉法人は、毎会計年度終了後三月以内に、厚生労働省令で定めるところにより、各会計年度に係る計算書類(貸借対照表及び収支計算書をいう。以下この款において同じ。)及び事業報告並びにこれらの附属明細書を作成しなければならない。

 以下省略

社会福祉法

このように、会社法や社会福祉法その他の法律においては、条文の中に
「計算書類」という文言が用いられていることが分かります。

社会福祉法人では「計算書類」が法令上の表現になりますね。

株式会社も、会社法にしたがって「計算書類」が法令上の表現になります。

そのため、公式な文書、例えば、行政庁からの通知や事務連絡には、
「計算書類」という表現が使われていることが一般的です。
事業者が所轄庁へ提出する書類のひな型でも、「計算書類」という表現で示されていることが多いでしょう。

(参考)計算書類と計算書類等

「計算書類」という表現以外に、「計算書類等」と「」をつけて記されていることがあります。
「等」には何が含まれるのでしょうか。

「等」についても、
上記の会社法や社会福祉法の条文から考えていくことができます。
もう一度、会社法と社会福祉法を見てみましょう。

(計算書類等の作成及び保存)
第四百三十五条
 株式会社は、法務省令で定めるところにより、その成立の日における貸借対照表を作成しなければならない。

2 株式会社は、法務省令で定めるところにより、各事業年度に係る計算書類((カッコ書き省略))及び事業報告並びにこれらの附属明細書を作成しなければならない。

会社法

(計算書類等の作成及び保存)
第四十五条の二十七 社会福祉法人は、厚生労働省令で定めるところにより、その成立の日における貸借対照表を作成しなければならない。

 社会福祉法人は、毎会計年度終了後三月以内に、厚生労働省令で定めるところにより、各会計年度に係る計算書類(カッコ書き省略)及び事業報告並びにこれらの附属明細書を作成しなければならない。

社会福祉法

条文の見出しには、「計算書類等」として「」の表現が使われています。

見出しとは、条番号の上にあるカッコ書きのところです。

上記の条文の第2項には、
計算書類に含まれる書類がカッコ書きで示された上で、
計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書」と記されています。

条文の見出しの「計算書類等」の記載と、
第2項の「計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書」から、
「等」には、「事業報告と附属明細書」が含まれると考えることができます。

財務諸表

「財務諸表」の表現については、金融商品取引法に示されています。

下は、金融商品取引法にしたがって規定されている
「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」になります。

(適用の一般原則)
第一条 金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号。以下「法」という。)第五条、第七条第一項、第九条第一項若しくは第十条第一項(これらの規定を法第二十四条の二第一項及び第二十四条の五第五項において準用する場合を含む。)、第二十四条第一項若しくは第三項(これらの規定を同条第五項において準用する場合を含む。)若しくは第六項又は第二十四条の五第一項(この規則を適用することが適当なものとして金融庁長官が指定した法人(以下「指定法人」という。)についてこれらの規定を法第二十七条において準用する場合を含む。)の規定により提出される財務計算に関する書類(以下「財務書類」という。)のうち、次の各号に掲げるものの用語、様式及び作成方法は、当該各号に定める規定の定めるところによるものとし、この規則において定めのない事項については、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従うものとする。

 財務諸表(貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書及びキャッシュ・フロー計算書(これらの財務書類に相当するものであつて、指定法人の作成するもの及び第二条の二に規定する特定信託財産について作成するものを含む。以下同じ。)並びに附属明細表又は第三百二十六条第二項の規定により指定国際会計基準(連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(昭和五十一年大蔵省令第二十八号。以下「連結財務諸表規則」という。)第三百条に規定する指定国際会計基準をいう。以下同じ。)により作成する場合において指定国際会計基準により作成が求められる貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書及びキャッシュ・フロー計算書に相当するものをいう。以下同じ。) この編(第一条の三を除く。)、次編及び第五編

財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(昭和三十八年大蔵省令第五十九号)

(参考)「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」を
一般的に「財務諸表等規則」と呼びます。
(連結財務諸表の場合には「連結財務諸表等規則」)


「財務諸表等規則」に定められているように、
財務諸表とは、一般的に、上場企業が金融商品取引法に基づいて作成する
決算書類になります。
上場企業で、決算書類を表現する際には、「財務諸表」という表現が使われることが多くなります。

計算書類と財務諸表

上場企業の場合には、金融商品取引法だけではなく、
会社法の適用も受けることになります。

そのため、上場企業では、会社法に基づく「計算書類」と
金融商品取引法に基づく「財務諸表」が作成されることになります。

「計算書類」と「財務諸表」では様式などが少し異なっています。

上場企業は、同じ会計データから、計算書類と財務諸表という2通りの決算書類を作成していることになります。

まとめ

上記のように、「決算書」と「計算書類」や「財務諸表」では、
表現の違いと共に、根拠法令も異なってくることが分かります。

日常会話的には、ほとんど同じ意味で用いられることが多いですが、

一方で、

3つの表現には違いがあること知っておくことで、
日常会話に用いる場合や、公的な書類を読み込む場合などの理解に役立てることができるかもしれません。

今回は、「決算書」と「計算書類」や「財務諸表」の違いを確認してみました。

最後まで読んで下さり、ありがとうございました。


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