麻乃 瑠花子

雪国で小説を書いています。花が好きです。 2023/12/12 Xのアカウントは削除し…

麻乃 瑠花子

雪国で小説を書いています。花が好きです。 2023/12/12 Xのアカウントは削除しました。しばらくはnoteに絞って活動します!

記事一覧

痺れて、からい

 『委員長』。中学・高校でクラス委員長を六年務めた、美咲のあだ名だ。顔見知りの多い地元大学に進学したため、あだ名はそのまま大学の同期にも広がった。    委員長と…

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渡りたい場所

   毎朝の習慣。ジャージに着替え、川沿いの道をランニングする。川は朝の光を穏やかに返して、吹き抜ける風も心地よい。退職後も続けるルーティンだ。  だが困ったこ…

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ある研究者の手記

 私は、その話を山深い集落にある老翁から聞いた。三十年前の事だ。  彼は、昆虫の研究で訪れた若かりし私をもてなしてくれた。私は自身の研究において非常に貴重な(こ…

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雪影に見たひと

 師走の雪は何もかもを白く塗りつぶした。  陰鬱な長い雨、みぞれ雪の日々が続くと、ある朝、窓からしらじらとした光がもれる。  お紺は、目覚めのその瞬間に、大雪が…

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痺れて、からい

痺れて、からい

 『委員長』。中学・高校でクラス委員長を六年務めた、美咲のあだ名だ。顔見知りの多い地元大学に進学したため、あだ名はそのまま大学の同期にも広がった。
 
 委員長と呼ばれることに、美咲は内心、悪い気はしなかった。「しっかりしている」と、周りの大人たちの期待に応えてきた自負があったからだ。その称号は、むしろ喜ばしいもので、頼られることも、周りをまとめていくことも嫌いではなかった。
 だからこそ、揶揄さ

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渡りたい場所

渡りたい場所

 

 毎朝の習慣。ジャージに着替え、川沿いの道をランニングする。川は朝の光を穏やかに返して、吹き抜ける風も心地よい。退職後も続けるルーティンだ。

 だが困ったことに、最近はそれが叶わない。マナーの悪い車が増えたせいだ。川沿いのコース前の横断歩道で止まっても、どの車も止まってくれないのだ。この道は大通りの裏道で、混雑を避けてここを通る人が多い。混むのは仕方がない。
 
 とはいえ、横断歩道という

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ある研究者の手記

ある研究者の手記

 私は、その話を山深い集落にある老翁から聞いた。三十年前の事だ。

 彼は、昆虫の研究で訪れた若かりし私をもてなしてくれた。私は自身の研究において非常に貴重な(これは私たち研究者にとってとても大切なことなのだ)種の採取に成功した。浮足立ったのはこちらだけでなく、先方も手土産にした酒の味にずいぶんと上機嫌であった。

 それは良かったのだが、問題は老翁の長話であった。

 長者である彼の家は裕福で、

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雪影に見たひと

雪影に見たひと

 師走の雪は何もかもを白く塗りつぶした。

 陰鬱な長い雨、みぞれ雪の日々が続くと、ある朝、窓からしらじらとした光がもれる。

 お紺は、目覚めのその瞬間に、大雪が積もったのを知った。

「さて、やらないとね」

 戸を開けると、雪明りで目が眩む。一晩で降り積もった雪は、家や道の段差を隠して、まっさらな土地のようにしてしまった。

 年の瀬が近づいている。お紺はこの季節が好きだ。

 冬の、しんと

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