京三

コロナ禍に1人でドイツに行ったり、脳の腫瘍を取り除いたり、パニック障害はまだ治療中だけ…

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コロナ禍に1人でドイツに行ったり、脳の腫瘍を取り除いたり、パニック障害はまだ治療中だけどとりあえず生きてる。朝ごはんが美味しいから明日も起きようと思える。

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 強烈な西日がオフィスのブラインドを突き抜けて僕のPCを襲う時刻。先輩は席を立ってブラインドをきつく閉ざした後、お疲れさまでしたと言って手を振った。それを見た僕も慌てて机の荷物をカバンに流し込み、退勤用のサイトにアクセスして打刻する。はきっぱなしで馬のひづめのように足と一体化した革靴でアスファルトを蹴って帰路についた。  コンビニで買った150円のアイスクリームを片手に駅へと歩く傍ら、ミサイルのように突っ込んでくるサラリーマンたちに注意を配る。この時にイヤホンで流す音楽はメ

    • カモミールティー

      一晩の間に完全に分解しきれなかったアルコールが胃袋を蹴った衝撃で僕は目を覚ました。ケトルでお湯を沸かしている間に洗面所で顔を洗い、歯を磨いておく。クタクタになった内蔵を少しだけ気遣ってカモミールティーを飲んだ。どれだけ気遣ってもプラスマイナスゼロには到底ならないが、なにもしないよりかは幾分かマシである。これも仕方のないこと。記憶にシミとなり得る汚れに気づいた昨夜は、少し多めのアルコールで浄化してやる必要があったのだ。 窓を開けてアスファルトから湧いてくる蒸気

      • 夢が叶っても

        「外国語を使う職業に就く」という夢がこの4月に叶った。先輩の指導を受けながら英語でメールを書き、ドイツ語で電話をする。こういったことをするためだけに1年間ドイツに留学し、帰国後も英語をひたすら勉強した。病気で入院してる時も、洋楽の歌詞をノートに書き写して分からない言葉を英英辞典で調べてメモした。努力はかなりしたつもりだ。その努力が芽吹いた。 この現象を幸せに感じることはない。 そもそもドイツ語や英語の勉強を始めた理由は酷くつまらない理由だ。周りで誰も話せない言語で話せ

        • バンコクを歩く

          2月の初め、幼馴染とのタイ旅行9日目。これといった目標なんかもなくダラダラと過ごしている。朝は9時くらいに起床して、ゆっくりと歯を磨き、着替えや髪のセットなどたっぷり時間をかけて身支度していく。友人はタイの洗礼というべきか、食あたりにあってしまってので彼でも食べられそうなものを探しに僕は散歩に行く。ついでに家族への大量のお土産も探してまわるつもりだ。ホテルのエントランスを抜ける頃には11時を回っていて、その頃にはバンコクの気温もぐっと上がっていた。そして自動ドアが開くと

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        記事

          もう見放そう

          世の中の人間というのは「対等」というものをあまり求めていないのではと感じることが多々ある。 そんなことわかっていると思っているだろう。だが本当に理解できているだろうか。「分かる」ではなく「理解」できているかだ。 例えばあなたの家族、友人、恋人、その者たちから自分の考えに異を唱えられても受け止めることができるだろうか。あなたはそれができるのか。無理に論点をずらして自己主張することはないか。自分が全て正解を持っていると勘違いすることはないか。人それぞれ得手不

          もう見放そう

          成長だなんておこがましい

          最近俺は前向きに物事を考えられるようになったな、自分は成長したなと勘違いすることがよくある。 実際、以前なら乗り越えるのにかなり時間を要していたものも、少しの時間があれば解消できるようになった。自分のモヤモヤの対処法をいくつか編み出すこともできた。でもそれは成長とはまた別のことだろう。今たまたま自分を取り囲む環境や物事がうまく運んでいるだけで、今たまたま自分にあうリラックス方法があって、今たまたまそれに注ぎ込める自由な時間があるだけだ。 最近は中華料理屋

          成長だなんておこがましい

          友達の家はよく寝れる

          連休を利用して、京都にいる幼なじみを訪ねてきた。なんでそんな話になったのかは覚えてない。毎日とは言わないが、週に何度も電話している仲だ。深夜の電話で少しハイになって夜行バスを予約したのだろう。気づいたら福岡から京都まで行くことになっていた。友人も次の春から働き始める。その時は京都から出るらしい。そんなわけで、京都らしいものちゃんと見とこうかと話をし、バイクに二人乗りで色々見てくることにした。 旅行とは行っても2人とも小さい頃から気が知れてる仲なので、見てまわる大

          友達の家はよく寝れる

          季節は地球からの贈り物

           最近はとにかく天気や季節の話をするようになった。幼い頃は、そんなのじいさんやばあさんがする話、テーマだと思っていた。だが、気温の変化を感じ、たんすから服を出したり、季節の果物を食べたり、その時々の花を眺めて写真に収めたり、そんなことが楽しくなってきたのだ。これが大人になったということなのか。  自分は暇さえあれば祖母の家を訪ねるので、それこそ天気や季節の話ばかりする。「最近は暗くなるのが早いね。」「ほんとね。気温もやっと落ち着いてきた。」「でもまだ今日の昼にクマゼミが泣き

          季節は地球からの贈り物

          側頭部をドリルで穴開けられた話(その後)

          開頭手術が行われて早3週間。40個はあったであろうホッチキスは全てはずれ、長い間悩みの種であった頭痛どころか、パニック障害すら治ってしまった。頭痛というメインウェポンですらとんでもなく苦しく、何度冷蔵庫に八つ当たりをしてしまったかわからない。冷蔵庫のへこみには、漫画『鬼滅の刃』の煉獄さんのポストカードが貼ってある。サブウェポンのパニック障害はほんとうに気まぐれなやつで、一日に3回は俺を訪れる日もあれば、たまにひょっこりもしてくる迷惑なやつである。いつも海深くで溺れている

          側頭部をドリルで穴開けられた話(その後)

          側頭部をドリルで穴開けられた話

          5月中旬、バイト帰りの夜。激しい頭痛と吐き気に襲われ、その場で歩くこともできずにいた。何かがおかしいと思い、翌日すぐに近くの脳神経外科に赴き、MRIで精密な検査を受けたところ脳動静脈奇形だと診断された。「薬で治るんですか?」と聞くと、そのお医者さんは「今すぐにでも入院しなきゃいけないものですよ。」と真剣な顔で俺に言った。どうやら脳の血管の一部が絡まり合い、直径32mmのボール状になっていたようだ。このまま放っておくと頭痛どころかクモ膜下出血が起こる可能性もあるんだとか。唐突

          側頭部をドリルで穴開けられた話

          失って得ること

           目が覚めると、外はもう日が暮れようとしていた。息を深く吸い込み、少し気合を入れて床に足をつける。体を起こしてもふらつきや倦怠感を感じなかった。今日は四日ぶりの健康な体だ。  パンク修理をした後の自転車のように足が前に進む。健康ってこんなに違うんだと驚いた。こうなれば時間を無駄にするわけにはいかない。二日ぶりの風呂で凝り固まった身体をほぐし、サッカー日本代表の試合をテレビで観戦しながら火照った身体を冷やした。  外に出て自転車にまたがり、イヤホンを外音取り込みモードに設定

          失って得ること

          メメント・モリ

          人生というのは本当に予定通りにいかないものだ。俺が高校1年生だった頃、総合の授業で「『人生設計』をしよう」という授業があった。世の中のことをなにもわかっていない、右も左もわからない小僧たちが、一体どんな未来を組み立てられようか。土台すらできていないというのに。とにかく、世間知らずの俺たちは人生設計という超難題を課せられ、頭を悩ませながらもプリントにシャーペンを擦り続けた。 18歳 大学入学 22歳 大学卒業 22歳 有名な企業に入社 30歳 結婚 35歳 子供ができる 4

          メメント・モリ

          一人との付き合い方

          「一人」で生きることが肯定されるようになった昨今、僕は本当に一人きりの人生を好んで歩む人を今まで見たことがない。「人との関りが狭いからそういう人を知らないだけだ」と言われればそれまでなのだが、やはり人は人との繋がりを求めているんだなと考える節がよくあるのだ。  一人きりの時間が欲しいときってどんなときだろう。きっと今いる環境に上手くなじめなかったり、一晩じゃ乗り越えられないくらいの辛いことがあったり、自分の歩む道に不安を感じたり、自信がなかったり。何かしらで疲れてヘトヘト

          一人との付き合い方

          無価値の時間は価値ある時間

           先日、高校からの友人から「最近病んじゃうんだよなー。」と相談を受けた。そいつはギターの申し子のようなやつで、朝からギターを弾いて学校に遅刻し、昼休みに部室でギターを弾き、放課後に部室でギターを弾き、帰宅して寝るまでギターを弾くという化け物のようなやつだ。楽器に注ぎ込んだ時間が多すぎた結果、大学受験に失敗したが、一年浪人して持ち前の集中力で鬼のように勉強に励み、ここらの地域で一番頭のいい私立大学へ進学した。あれだけ目の前のことに熱中できるやつが、今思い悩んで苦しんでいるなんて

          無価値の時間は価値ある時間

          ただ黒だけを見る時間

          夏だと言わんばかりの日に照らされ汗が滲む春初め。対照的に肌が引き締まるくらいに冷え込む夜。タンブラーに紅茶を入れて、砂糖をめいいっぱいに入れてかき混ぜる。玄関で上着を羽織って、スニーカーを履いて、爪先部分を床にトントンと叩きつける。イヤホンでlofiな音楽を流し、通知はオフに。そして紅茶がまだ熱いことを思い出してまたリビングに氷を取りに戻る。 今日も雲はなし、ダウンジャケットくらいがちょうどいい感じの寒さだ。少しだけ歩いて誰もいない公園のベンチに腰掛ける。丸い背もたれに

          ただ黒だけを見る時間

          さくらのトンネル

          地元の川の側には桜の並木道がある。左右均等に並んでいて道が狭めなので、ちょうどトンネルのようだ。みな荷物を放って芝生の上でニコニコしている。 横に目を向ければ雲ひとつない青空、その中に浮かぶ月、そしてその下を髪の毛が少し乱れるくらいの風といっしょに川が流れている。明日から小学校に行き始めるであろう男の子は立派な服を着て、父親のカメラの方へ向いて微笑む。その間母親の手は離さない。老夫婦も手を握り、ゆっくり、ゆっくりと歩いている。自転車の練習をしている子は母親の方をちらちら

          さくらのトンネル