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Mangounderground adventure マンゴーアンダーグラウンドアドベンチャー

序章

月に5回目のピーリングで循環していく世界、マンゴーアンダーグラウンド。何回も定期的に通い続けることでリズムとスライムの戯言を刻む、ぷちとでぶわんこの冒険劇。

蒙昧とした二度寝の眠りから目覚め、ぷちは1週間ぶりに洗う髪に染みる水しぶきに、感覚が迸る叫び声をあげた。2回目のシャンプーを流すと、それはセラミックのタイルの狭い空間にこだまする。出発まで残された時間はあと20分。身体と外の世界が筒抜け。ぷちの瞬発的な身体反応は底抜け。そこの毛はVio。

時計を見る、後12分、急がなくては。しばらく押し入れに入れてた白いぷるるっちょとした白いニットを掴んでかぶる。ニットの値段は半額どころではなかった。イザベルマラントンのニット。ここ数年流行している疫病のせいでなかなか買い手がつかず世界に溢れるニットは、7割引きにまでなっていた。それを、積積る品々で埋もれるラックからポンサーが見つけだしてきたのだ。ポンサーはプロだ。幾重もの隙間から微かに瞬く衣類の光沢やそのタグを見逃すことはない。

遠くからだんだんと近くなるドライヤーの音でぷちの脳が冴えてくる。そうした頭の回転と同時に、ふとした瞬間に鏡に写る小鼻の大きさの歴史的変化に敏感になる。そうそう、歴史的変化といえば、結局、今の世はどれほど「疲れたか」どうかで人々の価値は判断される。電動、文明利器の技術への評価はむしろ遠いむかし。りんごマーク製品の更新がおよそ50に達してからもう300年経っている。IT革命から随分と気が遠くなるような時が経過した。当時、急速な勢いで蔓延したかと思ったテクノロジーは途端、目に見えない緩やかさでその価値を下げていったのだ。当時の未来予測とは大幅に異なる世界、社会の移り気の気まぐれさと言ったら誰も予想できない。もはや今は手仕事の時代と言ってもいいだろう。皆木彫のための木片を持ち歩き、ついには電動彫刻刀による仕事への評価すらなくなってきている。そんな時代の変化への思索に耽りながらも、ぷちは足早にピーリングに向かった。元はと言えば、それはでぶわんこの問題だ。そんなことよりも早く角質を循環させなくては。テクノロジーへのノスタルジーに耽って角質の巡りをもたもたさせている時間はない。ぷちはスカイネットから鳴り響く重低音のメロディーを小刻みに口ずさみ、新宿の駅から高速で乗り入れる重機的移動空間の開口口に乗り込んだ。ボディラインは黄緑色。

つづく


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