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この展開の変化と速度は、私たちが生きてきた人生の時間感覚のそれと同じなんだろう。だから、この黒木の青春を無視できない。|私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!|谷川ニコ|連載中おすすめマンガ

[谷川ニコ] 私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!

最新巻は第14巻。開始当初は「ぼっち陰キャちんちんギャグ」路線で、「くだらない」と一蹴されてしまったら何も言い返せないのだが、そこをグッと堪えて、暫く読み進めてみてほしい。巻数を重ね、その趣は大きく異なっていったからだ。最近、巷では、「修学旅行」を境に路線変更して劇的に面白くなった、という感想をよく目にするようになった。確かにその通りなのだが、「ぼっち陰キャちんちんギャグ」路線の最中、第3巻で「生徒会長・めぐちゃん」を登場させたときから、その布石は始まっていたと勝手に思っている。

それまでは、本当に「ぼっち陰キャちんちんギャグ」路線一本槍だった。第2巻の巻末で谷川ニコも「干されているはずだった」と吐露している。それでは芸がなく、すぐに飽きられ、誰もが予想できる限界が見えていた。「ちょく!」みたいに短命で終わるだろうと。なので、めぐちゃんを登場させ、そのときは何気ないコマだったが、少しずつ黒木を無視できない気に掛ける人たちが登場することを暗示したのではないだろうか。それが「修学旅行」という「強制コミュニケーション」イベントで実り咲いた結果、最近のこの爆発した面白さではないだろうか。元々、黒木のキャラは良くも悪くも無視できない強烈な設定なので(そりゃ元々ギャグなので)、仮にリアル世界でも強制的に絡めば、黒木みたいなのを「ヤベエ奴」か「面白い奴」かで周囲が判断することは必至で、修学旅行を契機に黒木の生活に大きく変化が生じるのは、至極自然な展開に感じる。

この、急な展開の変化は、「谷川ニコが路線変更したぞ」と思うほど読者は驚いただろうが、黒木自身が、本人が一番驚いているはずで、この黒木の驚き(青春)と読者の驚き(青春)がリンクしているのが、より一層、絶妙に面白いのだと思う。

読者が驚くほど、修学旅行後、ある意味、ハーレム状態になる黒木。それに対して「リア充になってつまらなくなった」という否定的な意見もある。しかし、未だに、黒木は決してリア充ではないと思っている。リア充のクソ嫌なところは、友だちぶって実は「面白いオモチャ」扱いしてくるところだ。周囲は黒木に優しいのではなく、面白い特異なオモチャの段階なのではないか。だから、巷の否定的な意見である「リア充になってつまらなくなった」のではなくて、正しくは「リア充たちを値踏みしている黒木がより一層面白い」展開を楽しむべきだろうと思う。そして「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!」の表題を実証するステップに進んでいる。黒木は絡めば面白いイカれた女で、黒木が変化したのではなく、周囲が見事に黒木に興味を持ち始めたこの展開は、「どう考えても今まで見向きもしなかったお前らが悪い!」わけで、もっと早くから黒木と仲良くすれば良かったなんて後悔する奴が出てくれば、それこそ小気味良い。ここで、開始当初のぼっちだった記憶が強烈にスパイスとして効いてくる。

生まれ持った根の性格なんて絶対に革命できないのだから、この漫画に求めるのは、基本はぼっち陰キャの黒木がどうやってこの社会を生き抜いていくかの奮闘を見続けさせてもらうこと。最新の展開は、黒木に興味を持ったリア充に戸惑っているだけで、黒木がこのままリア充グループに収まることはないはずだ。ただ免疫的に普通に会話を交わせる程度に成長するだけで、尊い出会いながらも黒木自身の本来の性質は変わらないだろう。だからこそ、高校卒業後は、大学、バイト、就職など、描き続けるネタは多いのではないだろうか。基本はぼっち陰キャの黒木、バイト先での奮闘、就職先でのイザコザ、どうやって黒木は克服するのか、落とし所とするのか、ずっとずっと読んでいたい。それは少なくとも、同じ境遇で生きてきた私を含めた読者たちに勇気を与えていると思うからだ。

(CUTBOSS)

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