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作曲経緯・テーマ解説

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青山涼の作品の作曲経緯・テーマ解説をした記事をまとめています。
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記事一覧

深き水の葉 ざわざわ、もやもや、緑色

この記事では、2024年に大阪公立大学杉本ギターマンドリンクラブ様から委嘱されて作曲した、「深き水の葉」についての作曲経緯などについて解説します。 初演:2024年11月30日 大阪公立大学杉本ギターマンドリンクラブ 大東市立文化ホール(サーティホール) 作曲経緯ご依頼があったのは2024年の4月初旬でした。 大阪公立大学杉本ギターマンドリンクラブ様の定期演奏会の第三部は「緑」を連想させる曲で構成するということで、そのラインナップに加えるための作曲委嘱でした。 曲調はゆっ

虹龍山嶺 立山連峰をどう捉えたか

 この記事では、2023年に富山大学医学部薬学部ギターマンドリンクラブ様から委嘱されて作曲した「虹龍山嶺(こうりゅうさんれい)」について、その作曲経緯などを書いていきます。 委嘱経緯 依頼は2023年の4月末に受けました。  依頼の際は長さや編成以外は曲の内容はお任せということもありますが、今回は具体的なイメージがあるご依頼で、"立山連峰"の情景をモチーフに作ってもらいたいということでした。  時間によって変化する山の景色のイメージも重要だということで、こちらとしても題材そ

「2×4×4」の楽譜解説

四つの演奏ポジションを用いたマンドリン曲を作りやすくするため、またその楽譜を見やすくするために「四段譜」という記譜スタイルを考えました。 その四段譜で作るとこういう曲ができる、ということを示したのが「2×4×4」という曲です。 本記事では楽譜の1ページ目を閲覧できるようにして、簡単な解説をしたいと思います。 四段それぞれの役割 上から順に、b, a, A, Bという記号が振られています。 bは演奏者から見てナット(0フレット)よりも左側の弦、 aは左手による押弦位置より

太陽の船・月の鳥 忘れ去られた太陽信仰

 2022年末頃、N会様からの委嘱を受けて、2023年2月に完成し、同年9月に初演となったマンドリン合奏曲「太陽の船・月の鳥」について、作曲経緯やテーマについて解説していきます。 テーマを太陽とする 私が作曲の委嘱を受けた際に大事にしたいことは、「その人・団体から委嘱されなかったらその曲は生まれなかった」という必然性を作品に持たせることです。  以前、レヴァンテ ・マンドリンオーケストラ様から委嘱を受けた際は、風の名前を冠する団体ということで曲のテーマも風に関連するものと

2023 二重奏新曲 振り返り

2023年は、マンドリン・マンドラ・マンドロンチェロ・ギターを組み合わせた二重奏(10曲)を作ることを目標にしていました。 予想より早いペースで作り終わったので、本来は年末にまとめ記事を作るつもりでしたが、早めに振り返り記事を公開します。 1.Rabbit Race 公開日:1/9 編成:マンドリン×2 2023年は卯年なので兎の曲、という安直なテーマ設定です。今年一曲目なので肩に力が入ったか、なかなか曲のテーマがまとまらなかったのですが兎と決めてからはスルスルと作業が

雪女伝説 理不尽の寓話

 この記事では、マンドリン合奏曲「雪女伝説」の作曲経緯やテーマについて解説します。 作曲のきっかけ 2019年の10月、高田馬場のブックオフに立ち寄った際に漫画を二冊買いました。一つは高野文子の「黄色い本」、そしてもう一つが勝又進の「赤い雪 勝又進作品集」でした。  高野文子の本は当時から好きでしたが、勝又進はその時点では名前を知りませんでした。ただ、表紙がなんとなく良いということと、パラパラページをめくった時に見えた絵柄の感じが気に入りました。  勝又進(1943-2

2022新編成チャレンジ 全曲振り返り

はじめに2022年は、今まで自分が作ったことがない編成で曲を作ることをしようと思い、多数の小編成曲を作りました。 実行前の抱負は、下記FANBOXで全体公開しています。 私は10分くらいの曲を作ったときは、noteにて長めの曲解説として、つらつらと解説文を書いていますが、今回の新編成チャレンジで作った曲に関してはどれも3分程度なので、一曲に対して長々と書くほどのテーマはありません。 ただ、何も書かないというのも少しもったいないような気がしましたので、全曲の紹介文のようなも

最後の宇宙船 想像力が曲を完成させる

 この記事では、私が作曲した「最後の宇宙船」の作曲経緯やテーマについて解説します。 作曲経緯 「最後の宇宙船」は、2021年5月に行われたクリスタルスピンオフコンサートで初演されました。  クリスタルスピンオフコンサートは急遽決まった企画でした。  ある別企画のコンサートの開催がコロナの影響で難しくなり、その代わりとして企画され、その際に演奏できる新曲を、ということで頼まれて書きました。  作曲期間もそう長くはなく、重い曲を書くと練習も大変ですから、5~6分の長さで曲を書

海辺の時計台 永遠の海と限りある時間

 2022年7月に、質問箱(Peing)で「海辺の時計台の解説も読んでみたいです!」という内容の質問がありました。  海辺の時計台は「オリエントの航跡」や「バタフライ・エフェクト」のような長い曲でもないので、当時は「予定はありません」とお答えしたのですが、 その後、考えが変わりまして、解説を書くことにしました。  音楽理論など技術的な解説ではなく、テーマや作曲経緯に関する解説です。 ※東日本大震災や津波に言及する箇所があります。   作曲経緯 正確には覚えていません

風のステラ・人間不在の風雲讃歌

 「風のステラ」はレヴァンテ・マンドリンオーケストラ様より作曲の委嘱をしていただいたのが2019年の9月末、曲の完成が同年12月下旬ということで三ヶ月弱で作曲を行った楽曲です。ただし最初の一ヶ月ほど行っていたのは曲のテーマ決めでした。この記事ではその構想段階のことも含め、作曲の動機・作品テーマについて解説していきます。 テーマは風 曲のテーマを決める要素は多々あります。その時日常で感じていたこと、前々から考えていたことなど可能性はいくらでもありますが、今回は「レヴァンテ」と

バタフライ・エフェクト 因果によって生じる希望について

 この記事では、青山涼作曲のマンドリン合奏曲「バタフライ・エフェクト」についての解説を行います。音楽理論などの技術的な解説ではなく、どういったテーマで曲を作ったのか?ということに関する解説です。 バタフライ・エフェクトとは何か まずはタイトルについての解説です。  バタフライ・エフェクト(バタフライ効果)とは、1972年12月29日にシェラトンパークホテルで、気象学者であるEdward Norton Lorenzが行った講演のタイトル Predictability: D

オリエントの航跡 文化との出会い、その感動と犠牲

 この記事では、青山涼が作曲したマンドリン合奏曲「オリエントの航跡」の詳細な解説を行います。ただし音楽理論の解説ではなく、どういう経緯・発想で曲を作ろうとしたのか?ということについての解説です。 タイトルの意味 まず後半の「航跡」については、船が水上・海上を通った後に残る波や泡が航跡で、タイトルが意味するのもこの通りです。  では「オリエント」という言葉は何を指すのか?  オリエント【Orient】はラテン語の【oriens】をその語の由来とし、〈昇る〉という意味から派

Au Revoir 悲しみに身を任せること

 哲学者アルフォンス・デーケン(1932~2020)によれば、人が精神的ショックを受けてから立ち直るまでに経験する悲しみの種類は12段階に分類されるといいます。それが「悲嘆のプロセス」です。 1.精神的打撃と麻痺状態 2.否認 3.パニック 4.怒りと不当感 5.敵意とうらみ 6.罪悪感 7.空想形成と幻想 8.孤独感と抑うつ 9.精神的混乱と無関心 10.あきらめ-受容 11.ユーモアと笑いの再発見 12.新しいアイデンティティの誕生  この12段階は必ずしも全ての人が