学びの空間へアンテナを立てる
↓帰国後に学びの場のデザインに挑戦したいため、参考としてアンケートを取っています。ぜひご回答ください!
ハーバード教育大学院での授業を振り返るnoteも残り3つになりました。
今回のnoteはMay Termという5月に任意で受けられる授業で楽しみにしていた、「Designing Learning Spaces」つまり、学びの空間デザインについての授業になります。
Daniel Wilsonという私が研究でお世話になっているProject Zeroに所属している教授が今年初めて開講した授業でした。
この授業は卒業直前の平日5日間のみで、次のような日程で行われます:
1日目:アクティビティ、5ヶ所の学びの場のうち1ヶ所を見学
2日目〜5日目:講義&アクティビティ&ボストン市内の中学校をデザイン
Daniel Wilson教授が使っている5P (Purpose, People, Principle, Prototypes, Plan) に沿って授業が進み、学んだことを活かしてボストン市内の中学校をデザイン・シンキングで創りあげます。
5〜6人のチームでデザイン・シンキングをするのですが、ボストン市内の中学校だということ以外は、空間についても予算についても制約は設けられていないので、逆に自由に発想するのが大変!
チームで積極的に意見を出したり疲れたり、ものを作っては壊したり、ターゲットの生徒たちのことを思い出したり忘れたり、紆余曲折を経て最後にプロトタイプをできたところまで発表しました。
この授業で心に残ったことは:
学びの空間をつくるときには場所だけでなく、場所と教育思想と実践法がすべてつながるようにデザインする必要がある。どれが欠けても上手くいかない。
デザインするときはPurpose, People, Principleから始めて、PrototypesやPlanは後。デザインするとき大体PrototypeやPlanが先に来てしまうが、人はつくったものを壊すことは難しいから、つくり始める前にどう学びの空間をつくるのか考える必要がある。
学習用に建物をデザインしても、その後入居後評価 (post occupancy evaluation) をちゃんと行うことができている事例は少ない。
家具を買う前に必ず自分で使って快適か試す。(学校を建てたことがあるインド人の同級生より)
We all misfit. (誰しもがどこかに当てはまらない可能性がある)
Your design is never finished. (デザインに終わりはない)
最後に個人的にデザイン・シンキングをやっていて感じたことは、どういう空間がいいかということは急に閃くわけではなく、過去の自分の経験を色々組み合わせて構築されるのだなということです。
チームメイトを説得するときも、口頭で説明するより写真を見せたりスケッチを描いたりする方が説明が早い。
そういうわけで自習スペースマニアな私は、この一年間大学院に通っていてお世話になった学びの空間をここで紹介したいと思います。
Daniel Wilsonによると、空間で学びを促すためにはContrasting(対照性)、Flowing(流れ)、Closeness(近距離)が重要だとのことです。
それぞれの空間がどういうメッセージを発しているのか、対照性・流れ・近距離を体現しているか、自分にとって心地よいと感じるかどうかについて考えながら楽しんで見ていただければと思います。
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ハーバード教育大学院
まずは一年間お世話になったハーバード教育大学院の紹介です。
ハーバード教育大学院はGutman、Larsen、Longfellowという三つの建物しかないこじんまりとしてキャンパスで、後者二つについてはあまり自習スペースはありません。
Gutmanがハーバード教育大学院の図書館であり、ここに教室以外に自習スペースが揃っています。
それぞれの階が違うコンセプトになっていて、誰にとっても学びやすい空間になっているのではないかと思います。
自分が好きなところとしては:
各階に明確なコンセプトがあり、自分のニーズに応じて使い分けることができる
Flowingを意識した優しい形や色の家具が置かれていて、座席の形も豊富
他の大学院に比べて予算は少ないと思うが、華美ではなくcozy(居心地の良い)な雰囲気を体現している
逆に使うのが難しい場面としては、カフェが15時で閉まってしまい種類も豊富ではないので勉強中にお腹が空くと困る、居心地が良すぎて同級生と会うとついつい話してしまって勉強が捗らないことがあります。
それでも自分としてはかなり学びやすい空間でした。
ハーバード・ケネディ・スクール
次は特に秋学期お世話になっていた、公共政策のハーバード・ケネディ・スクールです。
他のハーバードの建物に足を踏み入れてみると、それぞれの学校が何を大切にしているかがよく分かります。
各国要人が来てイベントでスピーチをすることもあり、より高貴な雰囲気があるのと、大勢の人が集まれるような場の空間設計がされています。
自分が好きなところとしては:
ケネディ・ホールの色々な国旗が、各国から生徒が在籍していることを象徴している
集会できるような設計にしているため、天井が高くて日光が入り、爽やかな雰囲気がある
カフェテリアにお米や麺などアジア料理が置いてある
ケネディ・スクールの設計上一番難しいところは、建物全体が升のような形になっていて、すごく移動がしづらいところです。
いつもと違う扉から入ると、意外と建物と建物が繋がっていなかったりして迷宮入りです…(授業に遅れます)
また、どういうわけか害獣が多く、これは建物の設計でも考慮すべきポイントだと感じました。
スミス・キャンパス・センター
スミス・キャンパス・センターはハーバード・スクエア駅の隣にあり、一部のエリアは一般の人も入ることができる、ハーバード大学の観光センターのような場所です。
自習スペースはハーバードのIDを持っていないと入れない一・二・十階にあり、色々なハーバードの学校の生徒がよく使っています。
スミス・キャンパス・センターにはカフェもいくつか入っているので、お腹が空いたらセンター内外で食事を調達することができます。
自分が好きなところとしては:
立地が良くて一部外部の人にも開かれているので、待ち合わせに使ったり家族や友達を案内してあげやすい
色々な座席が用意されている
カフェやレストランが多いので、食事も調達しやすい(学生向けのフリーフードのイベントもよく開かれていました)
スミス・キャンパス・センターの特徴は外部に開かれているというところで、ここに関しては外部の方の利用方法がまちまちなので難しい部分もあるなと感じました。
場が開かれているだけではなく、どうしたら地域の方も主体性を持って場を楽しむことができるかというのは、自分にとっての問いになりそうです。
サイエンス・センター
ハーバード大学のキャンパスの北側に位置するのが、サイエンス・センターです。
スミス・キャンパス・センター同様、一部のエリアは一般の方でも入ることができますが、自習スペースへはハーバードIDが必要です。
サイエンス・センターも本当に色々な種類の座席があり、必ず一つは自分のお気に入り自習スペースを見つけられそうです。
サイエンス・センターということもあり理系の学部がメインで使っている建物になるので、建物のデザインもグレーで静かな雰囲気です。
ワイドナー図書館
ハーバードで観光スポットとして一番有名なのはワイドナー図書館。
タイタニック号に乗っていて亡くなった、卒業生で本好きのワイドナーくんを忍んで、母親が多額の寄付を通して建てた図書館として有名です。
1915年に建てられたそうですが300万冊を所蔵できるそうで、地下の書庫は迷宮のようで迷わないように気をつけないといけないとのこと。
ワイドナー図書館の良いところは、ハーバードらしいクラシカルなデザインだと思います。
世界の美しい図書館七選で紹介されるほど、入り口も廊下も自習スペースも建築鑑賞に熱中してしまいそうな美しさです。
一方で、デザイン重視な部分もあるため、学生にとって一番自習のために使われている図書館ではなさそうです。
ラモント図書館
ハーバードの図書館で一番有名なのはワイドナー図書館ですが、今回紹介するのはキャンパスの南東の端にあるラモント図書館です。
というのも、学生にとって勉強するとなったらラモント図書館!
私の同級生も試験期間中はよくラモント図書館で勉強していました。
一見伝統的な雰囲気のラモント図書館でなぜみんな勉強するのでしょうか?
それはラモント図書館が学期中は24時間オープンしているからです。
他の図書館は閉まってしまうので、夜遅くまで家の外で勉強したい生徒はラモント図書館に集結するというわけです。
私は夜遅くには頭が働かない派なので使ったことがありませんでしたが、日本でいうネットカフェのようなシャビーさも感じました。
夜遅くまで勉強したい方はぜひラモント図書館へどうぞ。
マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院
ここからは他に回ることができた大学院も紹介していきたいと思います。
まずは同じケンブリッジ市内にあり、私が春学期の後半にお世話になっていたマサチューセッツ工科大学スローン経営大学院です。
マサチューセッツ工科大学のキャンパスはとても広く、建物も多いので、私が紹介できるのはほんの一部になりますが、ハーバードとは土地や空間の使い方が違うのが興味深いポイントでした。
自分が好きなところとしては:
場所が綺麗でありながら、敷居がそこまで高くない居やすさも感じる
教室の前の廊下に授業が終わるのを待てるスペースがある
特に廊下のスペースはお気に入りで、作業するのも良いし、授業で見かけるけどあまり話したことない同級生と雑談するのにも良いなと思いました。
一度年配の受講生の方が、若い学生にマジックを披露していたのを見て、これはマサチューセッツ工科大学らしいなと感動した記憶があります。
コロンビア教育大学院
もう一ヶ所大学院として紹介したいのは、コロンビア教育大学院です。
コロンビア教育大学院はニューヨークの街のど真ん中に、一区画丸々建物を持っているので、区画が広くて感動しました。
ハーバード教育大学院ともいくつか造り方が違う部分がありました。
コロンビア教育大学院は、食堂に置いてあるものやホールなど、通常の授業以外の学びのスペースも色々用意されているというように感じました。
面白かったのは、建物の形はハーバード・ケネディ・スクールと同じ升形だったので、ここも自分がどこにいるかをちゃんと頭に入れないと迷いそうだなと思いました。
四角い敷地の真ん中に中庭を設けることで、升形の建物が出来上がるのだと思うのですが、他の升形の建物でも迷路になりやすい造りになっているのか気になるところです。
ボストン公共図書館
大学の敷地以外にも、一つボストンで特筆すべき公共の学びの空間も挙げておきたいと思います。
それはボストン公共図書館!
これが公共であることが信じられないような造りになっているので、一度見る価値ありです。
ボストンの観光名所の一つで、一般の方でも無料で入場できます。
自分が好きなところとしては:
観光向けのクラシカルな部分もありつつ、それだけだと勉強しやすいとは言えないので、居心地の良さ重視の近代的なスペースも設けられている
子ども向け、ティーン向け、各言語の本棚など、目的に応じて場所が区切られている
アメリカの公共の場でありつつ、入り口がクラシカルだからか治安が保たれていると感じる
観光の刹那的なキラキラと、地元の人が毎日使うための居心地の良さ、両方がバランス良く用意されているのがボストン公共図書館だと感じます。
その他のボストンやケンブリッジの公共図書館も、ここほど大きくはありませんが、日の光を取り入れて、丸みを帯びたカラフルな家具を使うことで、居心地が良い場所を維持しているところが多い印象です。
ボストンに立ち寄られたときはぜひ見に行ってみてください。
ここまで多くの学びの空間を紹介してきました。
それぞれから学びについてどういうメッセージを発信していると思ったか、感じ取ったことはあるでしょうか。
居心地の良さは「学び」をどういうものだと捉えているかにもよるし、多様な人が集まりつつ、それぞれのニーズをどうしたら上手く汲み取って反映できるかということにもよるのだなと感じました。
帰国したら日本でも素敵な学びの空間巡りをして紹介したいと思っているので、オススメの場所がある方はお声かけいただけると嬉しいです。
ボストン周辺の学びの空間についても、別noteで紹介しているので、こちらも合わせて楽しまれてください。
最後に、ハーバードの敷地内で私が実際によく使っていた学びの空間三選を有料部分として紹介したいと思います。
これらの空間は場として気持ちいいのももちろんですが、どこもプラスアルファのサービスが受けられたので日常的に使っていました。
もしハーバードに通われる方で自習スペースを確保したい方、その他にももうワンステージ、使いやすい学びの場の工夫を施したい方にオススメの内容になっています。
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