アメリカに見る、日本の学校に生徒を居場所を作るための小さな工夫
教育大学院留学のために渡米して2ヶ月。
今回ついにアメリカの公立学校に潜入させてもらうことができました!
私は教育大学院でDeeper Learningという21世紀型教育について研究しているのですが、その分野のカンファレンスが9/30〜10/1で開催されました。
カンファレンスの事前プログラムとして、ボストンの公立学校を見学できるよ〜という案内があったので、「百聞は一見に如かず」ということですぐ応募。
今回は同じ教育大学院の卒業生(白人女性)が校長先生としてDiversity, Equity, and Inclusionに力を入れている小学校を訪問させてもらいました。
アメリカの学校を自分の目で見ることで、自分がこの留学について持っていた疑問が少しクリアになったので、そのことについて書こうと思います。
その疑問とは「アメリカの公立学校では、教室に生徒の居場所をつくることができているのか?」ということです。
日本の「学校」といえば、ほとんどの方がこの記事のバナー画像のような光景をイメージするのではないかと思います。
教室の前後に黒板。机と椅子は木でできていて個別のもので基本動かない。片側に窓、片側に廊下。
テレビドラマでは青春の象徴として映されることもありますが、いじめや不登校もこの光景で多く描かれます。
でも世界を見渡したら「教室」のあり方はもっと多様なはずなのに!
それが私が日本の学校で自習室を運営していて感じていた違和感です。
「自分が生徒だったら、この典型的な教室の空間で一人で勉強したいと思うだろうか?」という疑問が常に頭の中にありました。
私はオランダのアメリカンスクールでの授業が大好きで教育の道を志しましたが、その学校は教育内容以前に学校の中を歩き、教室を見渡すだけで本当に楽しかった思い出があります。
また、私自身雑音はありつつも話しかけられない場所で集中したいタイプで、日本では学生の頃からカフェ、アメリカでも教育大学院以外の学校の図書室を駆使して勉強しています。
(同じ理由で大人になってもオフィスの固定席も座れないタイプです)
生徒には色々な性格・学習スタイル・ニーズがあって、この典型的な教室の空間がベストでない生徒もたくさんいるのでは?
でもオランダの頃の教室の風景は私立の学校で特別だったから成り立っていたのでは?と疑っていた自分もいました。
ただ、今回アメリカの公立学校を見学させてもらって、「公立でも私立でも、学校は生徒の居場所を優先して良いよね!」という勇気が湧いてきたので、そんな教室の雰囲気を皆さんに紹介したいと思います。
輪をつくりやすい机とレイアウトにする
まず、どんな教室でもすぐに変えられると思うのが、机と椅子の向きです。
教室という空間をフル活用して生徒同士のコミュニケーションを引き出すためには、椅子と机が統一して前を向いているのではなく、島にした方がコラボレーションが生まれやすいと感じます。
机と椅子を正面に向かせるのではなく、輪にする。
これだけでその学びの空間が生み出す雰囲気やメッセージがまったく違ってきます。
先生が一方的に何か伝えるにしても、黒板の前から威圧的に伝えるのと、生徒との輪の中に加わって伝えるのでは、生徒との関係性が変わります。
教科学習についても、例えば算数で全員が前を向いて解いていると個人の競争になりできる子とできない子の差が解消しづらいですが、島にしてみんなで助け合いながら解けば、算数でもコラボレーションが生まれます。
ホワイトボードやポストイットと模造紙があると、さらにグループワークに取り組みやすくなります。
また、大人でも仕事の中でチェックインやアイスブレイクをして、お互いの人となりやその日の気分を知ってからグループワークに取り組む機会が増えています。
チェックインやアイスブレイクをした方がその場への心理的安全性が高くなるのは子どもも同じです。
これは向きを変えるだけですぐできると思うので、少子化で生徒数が減っていることを上手く活用して、島型の教室がもっと一般的になるといいなと思っています。
色々な座り方を準備する
次にアメリカの小学校で見かけたのが、色々な座り方を許容するレイアウトになっているということです。
教室にはみんなで床に座れるスペースがあったり、少し一人で自分を落ち着かせることができるパーソナルスペースがあったりします。
また、図書館は生徒が本を読みやすいように、ソファーやビーンバッグが置いてあり、とてもカラフルです。
「生徒の学びへの主体性を育む」というと日本だと「主体性を持って何を学ぶか」ということが先行しがちです。
「何を学ぶか」以外に生徒が「どのように学ぶか」についても自主的に決定することは、学びへの肯定感を高めます。
アメリカでも「ある生徒がずっとビーンバッグやパーソナルスペースにいたらどうするのか」という質問が挙がるそうですが、まず「生徒が学校のその場に対しては愛着を持っている」という風に捉えています。
その上で、「なぜビーンバッグやパーソナルスペースにいた方が気が楽なのか(=その外の空間にどういう問題を感じているのか)」ということを先生と生徒で確かめ合って、場合によっては一緒にルールを考えることが重要になります。
生徒の作成物を飾ってカラフルにする
最後に紹介するのは、各教室に飾られていた生徒の作成物です。
ただ作成物が飾られているだけではなく、その作成物に合わせて教室全体もカラフルで、その場にいて楽しい雰囲気になっています。
「日本でも生徒の書き初めや絵を飾っているよ!」という声があると思うのですが、私がアメリカで生徒主体を最も感じるのは、教室のグランドルールもカラフルで手作り感満載に作られているところです。
上の教室の左の地球の模造紙には次のように書いてあります。
生徒を外から縛るルールだけでなく、生徒の内側からどのような存在であってほしいかということを生徒と一緒に考えて作り上げることで、お互いへの許容感が高まりいじめの軽減につながると思います。
もっと予算があれば…最新機械に触れる
上の3つについては、生徒の居場所を作るために日本の学校でも簡単に始められる工夫を紹介してきました。
最後はもう少しお金がかかりますが、アメリカの学校では黒板はなくホワイトボードとプロジェクターを使用、そして3Dプリンターまで置かれていていいな〜と思ったので、シェアします。
今の子どもたちが生きる世界はテクノロジーとは切っても切り離せないので、小学生の頃から親しみを持てるような環境をつくっていきたいです。
ここまでアメリカの公立小学校で見た、生徒の居場所を作るための工夫を紹介してきました。
私は「アメリカの教育が最高だ!」と言っているわけではありません。
というのも、私が見学したこの学校はマサチューセッツ州の中のさらに裕福なケンブリッジエリアの学校で、予算も比較的豊富です。
アメリカは州や地域でカリキュラム、予算、システムすべてが違うので、同じアメリカでも全然違う学校体験になるというのが問題になっています。
それに比べると、日本の教育制度はどこに行っても同じ学習指導要領のもと学べるようになっていることはすごいと感じます。
ただ、統一すること(equality)が目的になっていて、生徒が学びの主人公(equity)であることを見失っているのではないかと思うこともあります。
ここで挙げた工夫は「自分の生徒に安全で学びたいと思える空間を提供したい」と思っている方へのアイディアや応援になればと思って、書きました。
生徒中心の教室デザインについて興味がある方は、ご連絡ください。
すべての人が組織や社会の中で自分らしく生きられるようにワークショップのファシリテーションやライフコーチングを提供しています。主体性・探究・Deeper Learningなどの研究も行います。サポートしていただいたお金は活動費や研究費に使わせていただきます。