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ウィー アー レイト 意志疎通の難しさ

数年前の関西旅行中、奈良を訪れるために京都へ向かう電車に乗っていたときの話。

急停車

電車が急停車した。

緊急停車の詳しい理由は、はっきり思い出せない。

でも確か、どこかの「緊急停止信号を受信した」かなにかで、「安全を確認できるまで、しばらく停車いたします」とのことだった気がする。

辺りがザワザワし始める。

え?大丈夫?

すぐ動くの?

私たちは幸い、時間に猶予をもって動いていたし、予定はあっても、何の予約もなかったので、多少遅れても何の問題もない。



でもここから1時間、電車の中に缶詰にされるのとかは嫌だね…

そんなことを話していた。

しばらくすると、通路を挟んだボックス席の、たぶん中国からの30代ご夫婦が、電話で話し始めた。

私は家族との会話を楽しんでいたし、聞き耳を立てていたわけではないので、最初から全てが耳に入ってきていた訳ではなかった。

しかし途中から、その会話が、電車が遅れているため、予約している京都駅発の観光バスの出発時刻に間に合わないかもしれない、どうすればいいか、と電話先の日本人に英語で説明している状況なのがわかった。

女性は、母国語ではないだろう英語を、とてもきれいな発音で、かなりゆっくり分かりやすく話されていたから、私も意図は掴めた。

通じない英語 取れない意志疎通

しかし、である。

そこから気になって本格的に聞いていると、女性が、何度も同じ説明を伝えているにも関わらず、意思疏通が全く取れていないのだ。

あぁ…観光バス会社の電話口にいる人が、英語が全然出来ないのだな…とわかった。

「ダ トレイン イズ ディレイド(The train is delayed.)」「ウィー アー レイト(We are late.)」「レイト」「ウィー アー トゥピーポゥ、 マイネイムイズ リー、 チャイニーズ(We are two people, my name is Lee, Chinese.)」

めちゃくちゃゆっくりと、簡単な単語のみで説明しているのに、全く話が進んでいないのだ。

私はついにしびれを切らし、

「I'll explain to the person about your situation in Japanese instead of you. (私、代わりに日本語で事情を説明しますよ)」

と、なんとかひねり出した英語で申し出て、電話を代わった。

進まない意志疎通

電話口には、京都の若いお姉さんの声がしていた。

私が今の状況を日本語で説明して、ようやく状況は伝わったものの。

「それじゃ、間に合わないですねぇ。バスは出発しちゃいますねぇ。」

しーん。

それしか言わない。

「お二人は間に合わないのはわかっているようです。その上で、この方たちは、どうしたらいいか?が知りたいようなのですが、代わりに伝えますので教えてもらえますか?」

そう聞くと、

「あー。…少々お待ちください、確認してきます」

といって保留音が流れた。

上司や運転手さんか誰かに確認してくるのかな?と思って待っていると。

「お電話代わりましたー」と、今度はおじさまの声。

しかし、今までの流れを申し送りされた訳ではないようで、

「どのようなことでしょう?」

と言われた。

あれ?申し送りなし…?

ま、仕方ないか…と、また1から説明をする。 

そして「この方たちに、どうしたらいいと伝えたらいいですか?」まで、ようやく戻ってきたところ。

「少々お待ちください…」と、ひとこと。

また?!

これでまた、別の人が出てきたら、さすがにどうしよう…

そう思って待っていると、

「お待たせしました。その次の時刻のバスに乗っていただけますので、遅れてきていただいても、大丈夫です。」

との声。

ようやく返答らしき返答が来て、私はホッとした。

そして結果、お二人は次のバスに乗ることができるようになったらしい。 

それを二人に伝えると、ようやく二人もホッとした表情になり、

日本語で「ありがとう」とおっしゃった。

日本を代表する観光地 京都

「いえいえ。」「Don't mention it.」である。

結果オーライである。

でも、私はすごく腑に落ちない気分だった。

もちろんお二人に対してではなく、観光バスの人たちの対応に、だ。

気になったのは二点。

①最初に電話を出たお姉さんが、簡単な英語も全く聞き取れなかった。

しかし、ここのポイントは、さほど大きくはない。100歩譲って忘れてもいい。

日本の代表的な観光都市・京都だけれども、確か「ミヤマ Miyama」が目的地のバスだということだった。

私は知らない地名だった。

もしかしたら、海外対応がまだ追い付いていない、これから観光客が押し寄せる場所なのかもしれない。

それに、私たち日本人が海外に旅行するときは、とりあえず英語ありきだ。

ハワイとかケアンズとか、観光地内なら日本語だけでなんとかなる環境もなくはないが、基本英語を話せないと意志疎通出来ない覚悟で行く。

その逆で、日本に来るのだから、最低限、日本語トラベル会話集みたいなもので会話する気持ちで来ようよ、と思う人がいてもおかしくはないかもしれない。

しかし。

日本語は、世界の中で一番難しい、とされている言語だ。

これから海外からの観光客を取り込んで観光産業に力をいれるのなら、やはりある程度の英語対応は考えられているといいな、とは思った。

これは個々の団体の意向でやればいいことかな、と思う。

②日本語でも意志疎通出来なかったこと

むしろ、私のモヤモヤの原因の大半は、こちらだった。

お二人も私も、一度も観光バスに対して「どうにかしてくれ」と交渉していない。

電車が急に停まったから予定外の時間が過ぎた。(結果10分も停まらずに済んだのだが)

京都駅につくのが遅れる

予約したバスの時間に間に合わなさそうだ

どうしたらよいか?

たったこれだけのことだったのである。

「なんとかバスを待たせておいてくれ!」とも「なんとか次のバスに乗せてくれ!」とも希望していない。

ただ、遅れる場合の流れというか、どうすればいいのか、を私は聞きたかった。

規定と 良かれと思っての気持ち

客観的に見て、結果電車が10分弱しか停車しなかった、ということは、予定から10分しか遅れなかった、ということだ。

予約したバスに乗るのに、最低20分前に集合してください、などはよくある話で、もしかしたら、中国からのご夫婦は、元々ギリギリ10分前に着けばいいか、という安易な気持ちでいたところ、その10分を電車の急停止に持っていかれただけ、だったかもしれない。

また、予約の際に「万が一、予約時刻に遅れるような事態になった場合」の注意事項や対応方法について、観光バス側は、既に書面やメールなどで、観光客には伝えていたのかもしれない。

私はその情報は、ご夫婦からも、観光バス側からも聞いていないし、とりあえず状況説明と、どうしたらいいかを相互に伝えるだけの伝書鳩代わりだったので、知り得なかった。

私が気を利かせて、その点を観光バス側に確認すれば、話はもう少しスムーズだったかもしれないが…

でもそこは、日本最大の観光産業地・京都だ。

観光バスに乗り遅れる事例なんて、日々かなりの量で多発しているのでは?と思うのは、私だけだろうか。

そういった場合の電話対処法を、英語ではないにしろ、日本語でもしっかり説明する、それは規定があってもいいのではないだろうか?

「どうしたらよいか」に対して、

「利用者の方には、すでに書面やメールにて、そういった場合の対応についてお伝えしていますので、それに乗っ取ってご判断いただければと思う」

そう言われれば、私はそれを二人に伝えただろう。

直接伝えていないにしろ、申し込みサイトなりに、表記してあるなら、念のためそれを伝えた上で、

「でも、日本語がわからない旅先で、ご自身の事情に関係ないトラブルにお困りだと思うので、次の便に乗っていただけるか検討してみます、少々お待ちください」

それでいいのではないだろうか。 

規定は規定だ。

旅行者もそれを納得しているはずだ。

それで「良かれと思って」と、動いてくださる気持ちは、さすがに京都、おもてなしだ、とは思う。

でも、それをやるなら、もじもじして、どっちつかずな態度、ではなく、堂々とやってほしいな、と思ったのだ。

私は観光業界で働いたことはないし、予約に対する海外からの旅行客の考え方も知らないし、偉そうなことは一つも言えない。

だから、全くもって、何か苦言を呈したいわけではない。

ただ、

日本語でも、意志疎通って難しいものなんだな…

観光バスの乗り遅れ対応、決まった対応はないものなのかな…

そんな気持ちが渦巻いてしまったのだった。

日本人にも難しい日本語

日本語は、母国語である私たちにすら、難しい言語なのだ。

日々、家族であっても、それはすぐに食い違いを生じてしまう。

食い違ったこと、違うニュアンスで受け取ったことを確認できる相手なら、あとから誤解を解き合えるが、いや、家族ですら、それを解き合えなくなることもある中で、一瞬だけで終わる関係性において、本当の意味での意志疎通は、難題以外の何物でもないだろう。

冷静に、穏やかに、論理的に、親しみを忘れずに。

そうやって話したとしても、「杓子定規だ」「慇懃無礼だ」と感じる人もいる。

これは人間関係の常なのだな。

歩み寄りたい相手なのかどうか。

それだけなのだろう。

事態(結果)と気持ち、両方歩み寄れるようになるには、相当の心配りが必要に違いない。


終わりかたが変なのはわかっているが、今日はこれでおしまい(笑)

読んでくださって、ありがとう。























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