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短編

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まくらごみ創作の短編をまとめています。
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#幻想

生存限界汚染領域のキミ(下)

生存限界汚染領域のキミ(下)

上編

ようやく二度目の調査だ。
前回から5日も経っていた。内容はまたサンプルの採取だ。前に採ったサンプルはもうほとんど使い切ってしまったらしい。それが早いのか遅いのか素人の私にはわからないが、とにかくまたあの場所に行ける。
他のメンバーは襲われたメンバーのことを考えるとだいぶ気乗りではないようだった。
一方私の方はというと、領域内への恐怖よりもキミとの再会に対する楽しみの方が心の中を大きく締めて

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生存限界汚染領域のキミ(上)

生存限界汚染領域のキミ(上)

文献での初出は50年くらい前。口伝えならおよそ100年以上前から存在を認識されていたらしいことが窺える。
小さな田舎の村を囲む山の一つ。生い茂る草をかき分けながら険しい道を進んでいくと、白い靄のような物にやがて囲まれる。そのまま進んで行くと、そこにたどり着く。迷い込んだら二度と戻れない。
生存限界汚染領域。
そう呼び始めたのは私のチームメイトだ。ふざけた名前だがしっくりきた。
それはまるで山の中に

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運命は匣の中

運命は匣の中

10年前。
この日からその日は俺の誕生日になった。
空はどんよりとした重苦しい雲に覆われ、ちらちらと雪が静かに地上に降り注がれていた。
虚ろな目でその時の俺はその光景を眺めていた。
この身を包むのはゴミ捨て場で拾った厚手の大人用のコートだ。身長が大の大人の半分くらいしかなく、骨に皮が付いた程度の身体を持つ当時の俺にはこの環境は厳しすぎる。
何処ぞの使われてない納屋でこそこそ隠れて過ごしていたが、納

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瓶詰めの兄弟

瓶詰めの兄弟

「れっきとした君の兄弟だよ」
おじさんはそう言って瓶の中でホルマリンに浸けられた肉塊を指差して言った。
俺は外で弟たちとボール遊びをしていたんだけれど、次男が取り損ねたボールが小さな窓からこの薄暗くて埃っぽい部屋の中に吸い込まれてしまったので、怖がりな次男に代わって仕方なく俺が窓から侵入してボールだけ取り戻そうとしたんだ。
そこは古い病院の中で、木製の棚に、動物の頭蓋骨や瓶詰めの内臓など色んなもの

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ちいさなコペット・びぎにんぐ(前編)

ちいさなコペット・びぎにんぐ(前編)

雨上がりの夜の森に、赤ん坊の泣き声が響き渡っていた。
闇が広がる木々の間を男は決死の思いで森の中を走っていた。一刻を争う事態だと思っていたからだ。湿った空気の全身に浴びて、散らばっている枝葉を乱暴に踏み荒らし、肺が体の中で激しく伸縮を繰り返している。苦しくて仕方ないが、それでも脚を進ませる。早く赤ん坊の元へ行かねばならない。雨が止んだ今、飢えた獣がきっと赤ん坊の肉を求め、泣き声に向かって走っている

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月の木馬

月の木馬

これは昔のお話です。
ある国に玩具職人の男が居ました。
男は玩具で子供の笑顔を作る仕事に誇りを持っています。しかし、新しい玩具の木馬に、もう一工夫欲しいと考えウンウンと悩んでいました。
朝から夜まで悩みます。立派な満月の夜も、月を眺めながら悩んでおりました。
不意に、月から欠けらが数個落ちてきました。
職人の男は大変驚きました。だって月か何かが落ちてくるだなんて初めてみる光景だったからです。
考え

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海に歌う鬼

海に歌う鬼

ある満月の日の夜、僕を乗せた小舟は小さな岩礁にのりあげていた。
僕は親と喧嘩し、躍起になって舟を沖に出したが、岩にぶつかったせいで舟に穴が空いてしまい、乗ることができず、また親に助けを求めるのも憚られ、独りぼっちで夜を過ごしていた。
その日は満月で、どんどんと海の水位が上がって行く。僕は狼狽えていると、自分のいる場所からすぐ裏手に誰かの気配を感じた。
ポロロロンと艶やかな弦楽器の音も聴こえてきた。

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母の心臓

母の心臓

ある所に見事な黄金の髪をもつ女がいた。
女の瞳は陽光のように輝いていた。毎日を一人で過ごす穏やかな女性だった。
ある日その女は怪物と縁づいた。
やがて二人が交わって生まれた子供は勿論異形だった。
大きな耳と金色の毛が特徴的な、小さな小さな子だ。
女と怪物が暫くして別れた時、この子は母の方について行った。

女はあまり体が健やかでなく、次第に弱って行った。
息子は大変心配したが、母の方も息子に心配を

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病気の国とねぼすけの巨人

病気の国とねぼすけの巨人

昔むかし、ある所に、とある国がありました。
その国にはとても悪い病が流行っていました。
その病を患ったら、たとえどんな人だろうと、倒れてそのまま数日寝込んで死んでしまいます。
偉い人や頭のいい医者は思いました。
「このままではこの国は病に満たされ、死によってつぶれてしまうだろう」
国民たちの不安は募るばかりです。

その国のとある村には怖い言い伝えがありました。
山奥の廃教会には怪物が現れると。事

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愛娘と夜と冬の王

愛娘と夜と冬の王

凍える厳しい冬の町。しんしんと雪が降りそそぐ。
雪で冷えた石の道を歩く女の細い足が二本。血の気の失せた肌は風が吹くたびに白くなっていく。
少しでも温まるために、女は家と家にはさまれた路地へと逃げ込む。
疲れきってそこに座り込む。茶色の薄汚れた布は、彼女の体を冷たい石畳から守るには少しだけ薄すかった。
女の歳は30程。
その眼から生気あふれる光を少しずつ風がさらっていく。
時計塔から20時を伝える鐘

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