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#現代詩

トワイライントワイライト

淋しさを浸したら
ルビー色のダージリン
マスカットもいで添えたら
水滴と朝もやの味

あの空のグラデーション
君にも見せたい
鼻歌のイミテーション
意味もなく添えたい

前髪越しのつま先は
一定のリズム 揺れている
トワイライン トワイライト

踏切前で立ち止まった
噛み締めた 唇は
一定のリズム 震えてる
トワイライン トワイライト

得意げ

君が誇らしげになにかを話す時
ぴんと張ったゆびの先
丸い瞳の表面が
太陽を弾いてつるりと光る
わたしはただその顔が愛しくて
口の端が引っ張られて
ついほころぶ
君の美しい知識のかけらが
わたしの心にやみくもに張った
いくつもの線を
ゴールテープみたいに
ぴん、ぴん、と
綺麗に切り取っていく

昼景

昼景

高層ビルから見る夜景より
川面の小石に乱反射する
太陽の瞬きの方が
きっと思い出の飛距離が長い。
白鷺の群れが
気持ちよさそうに歩いている。
じっと微動だにせず
一点を眺める嘴の先。
たぶん冬の朝の空気を啄んでいる。

ひきうける

ひきうける

誰も傷つけたくないと
君が残した米の一粒を
僕は指先で捉えては
しずかに口へ運ぶ
それは甘い鉛のような質量で
それは連続する一年のようで
胃袋の奥に真夏の雪が散り積もる
永遠に満ち足りることもなく
君の孤独が 君の痛みが
何度も何度も
蜻蛉の僕を
喉元まで埋め尽くす

穴

本をめくる
選民思想なような
軽薄な指先の踊り
孤独な被害者意識に
飲まれてまた
せっせと穴を掘る
ひんやり冷えた空気
だれからも見えない地平
目の前で触れた壁
心地よくて
黒い獣だけが
息もせず
うごめく

西陽

その部屋は
蝉の声で満たされていて
わたしがまるで
土のようにじっと動かずにいたら
太った猫がやってきて
わたしのふくらはぎを退屈そうに食べた
換気扇の向こう側から
アパートの外を歩く人の足音や
花が開く音さえも聞こえ
それはやがて少しずつ遠ざかった
気がつくと私の体は食べ尽くされていて
どうして目がないのに見えるのだろう
と思った瞬間
それが白昼夢であると
気がづいた
それから幾度となく
その夢

もっとみる

深夜2時

ふと、目を覚ました
まだ真っ暗の部屋の中は生ぬるく
ぽつりぽつりと頬に落ちた雨が
握りしめたアイスクリームのように
わたしの皮膚を撫でて溶かしていく
遠くで切り裂くように鳥が鳴いて
羊水のようなあたたかな海へ
わたしは急いで潜水する

枝を張る、貼り巡る

助けてください
と言えるのは
助けてもらえるという
確信があるからで
枝葉を太陽に伸ばすとき
それ以上に根は地中に向かって伸びている

生きるとは根を張り枝を張ることだ
それはわたしの心臓から足の裏へ
足の裏から地中へと
複雑に絡み合いながら伸びている
そしてわたしは屹立しながら
あなたに向けて一心に手を伸ばし
その肩を抱きとめるだろう

夏夜の終わり

ゆっくりと

夏を脱ぎ去るように

あたたかい雨が降っている

湿った空気が皮膚を撫でて

頬杖をついたまま目を閉じて

窓の外へじっと耳をすませる

私もこのままやさしい夜の黒に

薄く溶けていけたらいいのに

たけなわ

たけなわ

梅雨が明け後も

京都の夏の風はまだ少し湿っている

蚊取り線香と汗と畳の匂いが混ざり合う

オレンジ色にぼんやりと夜道を照らす

提灯に沿って そぞろ歩く人の後ろ姿

遠くから鳴りつづける祭囃子の音に

この少し浮かれた夜が

永遠に終わってほしくなくて

布団の中で微かな音に耳を澄ませる

驟雨

驟雨

空気にそっとオブラートを溶かす

少しくらいぼやけていた方が綺麗さ

君は左肩を濡らしながら笑う

コンタクトレンズを外して見る

街灯の光 枕元の読書灯

曇ったショーウィンドウの前で

わたしは目を閉じて巻貝に耳を寄せる

雑踏が混じり合いひとつになり消える

額から鼻梁を伝い こぼれた滴が

すぐに街を満たして

やがて海になる