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まこ
2023年7月21日 16:26
私の体が世界が言葉がままならないということが美しい寒さを耐え忍ばなければ葉は赤く色づくこともなかったわたしのむねが破れるように痛まなければこの言葉は紡がれなかった
2023年4月2日 18:00
助けてくださいと言えるのは助けてもらえるという確信があるからで枝葉を太陽に伸ばすときそれ以上に根は地中に向かって伸びている生きるとは根を張り枝を張ることだそれはわたしの心臓から足の裏へ足の裏から地中へと複雑に絡み合いながら伸びているそしてわたしは屹立しながらあなたに向けて一心に手を伸ばしその肩を抱きとめるだろう
2023年3月2日 12:53
ゆっくりと夏を脱ぎ去るようにあたたかい雨が降っている湿った空気が皮膚を撫でて頬杖をついたまま目を閉じて窓の外へじっと耳をすませる私もこのままやさしい夜の黒に薄く溶けていけたらいいのに
2022年6月3日 22:57
空気にそっとオブラートを溶かす少しくらいぼやけていた方が綺麗さ君は左肩を濡らしながら笑うコンタクトレンズを外して見る街灯の光 枕元の読書灯曇ったショーウィンドウの前でわたしは目を閉じて巻貝に耳を寄せる雑踏が混じり合いひとつになり消える額から鼻梁を伝い こぼれた滴がすぐに街を満たしてやがて海になる
2022年4月27日 16:05
真っ赤なカーネーションを一本買って茎をそのまま片手で握りながら歩いた真っ直ぐ前を見ながら歩いている間常に視界の隅に赤がチラついた気がついたら固く握りしめた手の中で茎が折れ花びらが解けていたから川瀬に投げ入れたそれはポトリと落ちて水底の小石に何度か引っかかりながらどこか遠くに流れていった
2022年4月22日 01:14
お風呂上がりに抱え込んだまるい膝を付き合わし裸足のつま先をじっと見下ろす興味なんてないのに占い番組を見たふりをしながらすぐ近くに君の気配を感じる。ひび割れから染み出す雨だれのようにポツリポツリと溢す本音おとこでもおんなでもない少し低い声が耳に響き踏んでいた薄氷が溶けていく
2022年4月15日 20:44
濡れたアスファルトとタイヤが擦れる音が遠くから響く車体が切り裂きながら進む冷たい風の軌跡は白く烟る文庫本越しのコーヒーカップの縁がぼやけて見える1秒の間隔が少しだけ長くなって5分と10分の間を行ったり来たりしながら君の横顔が絵画のように縫いとめられる
2022年4月14日 23:29
陽だまりで温められたような温かい春の風に吹かれて前髪がおでこを撫でた。寝たふりをした小さな私の額にかかった髪をかき分けて微かに触れる母の指先のようにそれは優しかった。
2022年4月15日 10:47
空気くらげは空気中をただよう目の前を横切る半透明の体でふわりと視界が遮られコンタクトを外したときのように街灯の光が滲んで淡く広がるあちらでもこちらでも空気クラゲはゆらゆらたゆたう皆一様に視界がぼやけてすこし優しくなれるのだ
2022年4月5日 18:45
電車のボックス席は膝が触れ合いそうなほど窮屈だ。だが誰もそれを疎ましく思う様子もなくなだらかな空気が漂っている。関西の桜は一定のリズムで呼吸をしている。吐く息がまとわり人々の歩みを緩めさせる。肩が右に、左に、緩やかに揺れる。みぎに ひだりにみぎに ひだりに
2022年3月27日 00:41
春の嵐が わたしを巻き上げる耳元で 坂巻く唸りを上げて頬の涙を 空に吹き飛ばす何年も昔から 細い糸で繋がれた黒い獣が俺が憎いかと 駆け上がる嗚呼憎かろう 嗚呼憎かろう春の嵐に吹かれ どこか遠くへ糸を断ち切り 忘れ去るくらい吹き飛ばしておくれ
2022年3月19日 16:11
お皿を洗う水音 食器が触れ合う音静かなモダンジャスと 誰かの呼吸で春の空気が 微かに震える早咲きの桜の薄紅色が 音もなく 溶け出していく