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まこ
2024年7月29日 00:27
山が近い しゃわしゃわしゃわしゃわ春蝉が鳴いて しゃわしゃわしゃわしゃわきみが深い青に漕ぎ出でる様をわたしは少し前から振り向いてじっと見つめていた 浅く水を掻きぜんぜん前に進まないと飛沫を浴びて眉を寄せるパタパタと球のように服に吸い込まれ焦燥の熱に染み入り吐く息と共に溶け出る わたしは対岸が遠くてそう感じるだけだよと そう出かかったこえが春蝉のこえに掻き消されーーーしゃわしゃわしゃわしゃわし
2024年7月4日 03:57
隣の席のカップルがなぜこんなもの暗記させられるんだと空で案じた一節左耳に残るつづきが細やかな糸となってその日の日没を紡ぐ集中して 置き去りにして千年前の帰り道右前足のない猫がそれを咥えながらアパートの階段をスタスタ登って逃げたわたしはそれを結えてクローゼットにくくりつけたけれど君がこじ開けようとしたドアロックはあまりにも調子の軽い音で倒れた子供が好きだと笑う君のこめかみのニキ
2024年4月8日 23:39
押し当てられた肋骨は限りなく私を押しやった。押しやって推しやって押し潰して醜く変形したところでやっと肉を結ぶとわたしのつま先がようやく触れて、わたしは死に物狂いで着地する。膿みにまみれた一瞬間のゆりかご。反対側に大きく揺れる。ゆらゆらと。何もない空間を削り取るような慣性で。
2024年1月12日 17:12
淋しさを浸したらルビー色のダージリンマスカットもいで添えたら水滴と朝もやの味あの空のグラデーション君にも見せたい鼻歌のイミテーション意味もなく添えたい前髪越しのつま先は一定のリズム 揺れているトワイライン トワイライト踏切前で立ち止まった噛み締めた 唇は一定のリズム 震えてるトワイライン トワイライト
2024年1月5日 20:51
君が誇らしげになにかを話す時ぴんと張ったゆびの先丸い瞳の表面が太陽を弾いてつるりと光るわたしはただその顔が愛しくて口の端が引っ張られてついほころぶ君の美しい知識のかけらがわたしの心にやみくもに張ったいくつもの線をゴールテープみたいにぴん、ぴん、と綺麗に切り取っていく
2023年7月21日 16:26
私の体が世界が言葉がままならないということが美しい寒さを耐え忍ばなければ葉は赤く色づくこともなかったわたしのむねが破れるように痛まなければこの言葉は紡がれなかった
2023年7月11日 16:18
その部屋は蝉の声で満たされていてわたしがまるで土のようにじっと動かずにいたら太った猫がやってきてわたしのふくらはぎを退屈そうに食べた換気扇の向こう側からアパートの外を歩く人の足音や花が開く音さえも聞こえそれはやがて少しずつ遠ざかった気がつくと私の体は食べ尽くされていてどうして目がないのに見えるのだろうと思った瞬間それが白昼夢であると気がづいたそれから幾度となくその夢
2023年4月2日 18:00
助けてくださいと言えるのは助けてもらえるという確信があるからで枝葉を太陽に伸ばすときそれ以上に根は地中に向かって伸びている生きるとは根を張り枝を張ることだそれはわたしの心臓から足の裏へ足の裏から地中へと複雑に絡み合いながら伸びているそしてわたしは屹立しながらあなたに向けて一心に手を伸ばしその肩を抱きとめるだろう
2023年3月14日 18:45
都会には人知れず空洞があるビルの隙間に側道の中に公園の裏手に誰にも気づかれない空洞がある風の線を伝って私はそこに辿り着と体を譲って纏った何かを振り落とす空洞はそれをものの数秒ですっかりと飲み込んだそしてまた次の空洞を探す
2023年3月2日 12:53
ゆっくりと夏を脱ぎ去るようにあたたかい雨が降っている湿った空気が皮膚を撫でて頬杖をついたまま目を閉じて窓の外へじっと耳をすませる私もこのままやさしい夜の黒に薄く溶けていけたらいいのに
2022年7月4日 17:38
梅雨が明け後も京都の夏の風はまだ少し湿っている蚊取り線香と汗と畳の匂いが混ざり合うオレンジ色にぼんやりと夜道を照らす提灯に沿って そぞろ歩く人の後ろ姿遠くから鳴りつづける祭囃子の音にこの少し浮かれた夜が永遠に終わってほしくなくて布団の中で微かな音に耳を澄ませる
2022年6月3日 22:57
空気にそっとオブラートを溶かす少しくらいぼやけていた方が綺麗さ君は左肩を濡らしながら笑うコンタクトレンズを外して見る街灯の光 枕元の読書灯曇ったショーウィンドウの前でわたしは目を閉じて巻貝に耳を寄せる雑踏が混じり合いひとつになり消える額から鼻梁を伝い こぼれた滴がすぐに街を満たしてやがて海になる
2022年5月26日 20:29
君の優しさは広くあまねいている僕の座る教室を満たし廊下の端から端まで駆け抜けて放課後のクラリネットの音を揺らし裏庭の糸杉の枝葉を巻き上げてそこに巣を作る若い番いの鳥を抱きしめ各駅停車の電車の窓を抜け国道をずっとまっすぐに上がって行く君の優しさはこの街に広くあまねいている
2022年4月27日 16:05
真っ赤なカーネーションを一本買って茎をそのまま片手で握りながら歩いた真っ直ぐ前を見ながら歩いている間常に視界の隅に赤がチラついた気がついたら固く握りしめた手の中で茎が折れ花びらが解けていたから川瀬に投げ入れたそれはポトリと落ちて水底の小石に何度か引っかかりながらどこか遠くに流れていった