『キーを挿したままで』
パーキングに着いても
後部座席の３人は
寝息を立てたままだったから
助手席の俺と
運転してる醸田だけが
キーを挿したままで
休憩に降りた
トイレを済ませて
缶コーヒーを買う
まだドライバー交代は先だから
醸田には
がんばってもらわないと
キーンと張り詰めた真冬の夜
あたりはすっかり暗くなって
飲食の屋台もほとんどが
店じまいを始めている
そんななか
五平餅があまりに旨そうで
つい人数分
つまり５人分を注文してしまった
すごく旨そうな五平餅
みんな喜ぶだろ
意気込んで駐車場所に戻る
ない
俺たちのクルマが
ない
レンタカーだから
似たような車種と間違わないよう
借りたときに
ナンバーまで含めて
写真を撮っておいた
駐車している数もまばら
間違えようもないのだけど
やはりいくら探しても
ない
醸田に電話をしようと
スマホを取り出したら
L1NEが入っていて
ごめん
とひとことだけ
俺はこんな山奥のパーキングに
置いて行かれたってことか
理由よりなにより
とても不安になって
ひとけのない食堂のテーブルで
夜明けを待って
それからたぶん
林道を降りれば
鉄道のあるところまで
行けるだろう
五平餅が５人分
２人分が限度だった
--
佐藤には悪いことをした
ほんとに悪いことをした
いつかこれは
何かのカタチで
償うべきだと思っている
そして後部座席の３人は
うまいこと眠っていてくれた
やつらは悪くないんだよ
ぜんぶ俺が悪い
パーキングで停めて
佐藤おまえを下ろしたのは
ぜんぶ俺の計画だ
おまえなら理解してくれるだろう
後部座席に眠るのは
ヤスとレイのカップル
それから俺の目当て
みっちゃん
２対２で旅行したいじゃん
おまえ邪魔じゃん
グループL1NE覗き込んで
無理やり参加しようとしたの
おまえのほうじゃん
なんかぐいぐい来るから
断れないし
他の３人もイイ奴らだから
なんかさあ
ああそうだ
おまえのＥＴＣカード
挿したままだね
あとで返すし
料金は精算するよ
土産買ってくるから
許してくれよな
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いつのまにか眠ってたみたいだ
食堂は朝のピークで
うどんをすする人
サンドウィッチを頬張る人
とても賑わっている
俺の傍らには
五平餅が３人分
冷え切って固まってる
醸田からの連絡はない
そのかわり
みっちゃんが個別にL1NEをくれていて
目が覚めたら佐藤君いなくて
どうしたのって心配したけど
彼女に内緒でこの旅行に来たのが
やっぱり良心の呵責になって
急に帰ったって
醸田君にきいたよ
佐藤君ってやさしいね
こんどは佐藤君の彼女もいっしょに
来られるといいね
じゃあまたね
ああああああああああ
醸田ぁああああああ
俺ぇええええ
彼女なんていねぇだろぉおおおおおおお